チャプター5:「鋼鉄の反抗、そして巨大な肉薄戦」

「――ぬォッ!?」

「やりおった」


 現在銀年堂等が配置するの交戦ラインの少し先で、斥候班を配置していた協会の鐘楼が爆炎に包まれ倒壊した。

 それにトロル系のジェボが思わず声を上げ。銀年堂は面白くなさそうに零す。


「フュンとウォッシュはッ!?」

「直前に飛び出しおった。引いてくるぞ、援護せぃッ!」


 焦り配置していた二人の安否を案じ発し上げるジェボだが。一方の銀年堂はフュンジェク等が直前に飛び出す姿を見ており、淡々とした様子で発する。

 直後には、側方の建物内で掩体していた114mrw無反動砲 N1がまた咆哮を上げ。今の鐘楼砲撃の下手人である、対戦車装甲ハーフトラックの側面に砲弾を叩き込み、爆発炎上させて無力化した。


 直後には、鐘楼の麓にある路地より。無事であったフュンジェクとウォッシュが姿を見せ、その場でカバーに着く姿を見せた。


「JJ、少しこらえぃッ!正面にばら撒くんじゃッ、下がる隙を作ってやれぃッ!」


 銀年堂はフュンジェク等に少し待つよう声を張り上げ送り。続けて瓦礫に遮蔽して配置している中機関銃チームに向けて指示を発する。

 直後にはそれに呼応し、中機関銃が街路の向こう全体にばら撒くように。いっそう激しい援護射撃を開始した。


 始まったそれにエウスクナンド軍側はわずかだが驚き怯み、その行動を少し鈍くする。

 その隙を突き、フュンジェク等はカバーを飛び出し駆け。すぐにこちらへと到着、瓦礫を飛び越えてこちらへと滑り込んできて合流した。


「ッ――高所の目を無くしましたッ!」


 飛び込み合流してきて瓦礫に身を隠したフュンジェクは、開口一番に高所斥候の場を無くした事実を告げる。


「歩が悪くなってきたのぅ――場を下げっぞぃッ!」


 それに銀年堂は状況不利を言葉にして。そして次には後退のタイミングと判断、それを告げる言葉を張り上げた。


「機関銃、先に第2線に下がれぃッ!火点を移して、他モンの後退を援護するんじゃッ!」

「了ッ!」


 銀年堂はまず、中機関銃チームに先んじて後退しての再配置を指示。

 それを受け、中機関銃チームは射撃行動を停止。中機関銃N74A2を下げて撤収し、そして先んじての後退を始めた。


「続けて無反動砲もじゃッ!適当な位置に再配置をば――」


 続けの指示の言葉を発し上げていた銀年堂だが。直後。

 ヒュゥゥゥ――という風を切るような不気味な音が、上空で響きそれを阻む。


「ッ――隠れぃッ!!重迫砲じゃァッ!!」


 次には、銀年堂は怒号の域で発し上げ。

 周辺の各員は何よりも先に伏せ、あるいはどこかへ飛び込み無を隠す――


 直後――目の鼻の先で、大きな爆炎が上がり。土煙や瓦礫破片が盛大に巻き上がった。


 さらにその一撃だけではない。同様の爆炎爆炎が、巻き上げが。街路の周辺のそこかしこで上がり、在るものを手当たり次第に吹き飛ばし始めたのだ。


「ッゥ――重迫がいよいよ来やがったッ!」


 叫ぶはトロル系のジェボ。

 言葉にあった通り、それはエウスクナンド軍の重迫砲戦車よりの砲撃であった。

 装甲大隊に含まれていた車両が、観測から砲撃準備を完了し。いよいよ砲撃を加えて来たのだ。


「むしろ、よくここまで待ってくれてたモンだ」


 方や、ミュータントのラーウォーは。激しい砲撃の中に身を置いているというのに、他人事のようにシレっと言葉を零す。


「こらえぃッ!一時じゃッ、敵戦車が出張って来る時にゃ、収まるッ!」

「どっちにしろ、厄介は変わらないかッ」


 また張り上げ周囲に告げる銀年堂。

 方やラーウォーはまた端的に零す。

 銀年堂の言葉通り、敵重迫の砲撃は少しの間の後に収まりを見せた。


「――今じゃッ、こん隙に引けいッ!」


 それを一瞬の隙と見止め、残る隊員等に後退指示を飛ばす銀年堂。

 それを受けて無反動砲チームや、瓦礫の各所に遮蔽していた隊員等が、急きつつも順次後退を開始。

 しかし一方で、銀年堂は殿を務め後退を最後まで援護すべく。数名の隊員を伴い残り、勢いを盛り返した敵エウスクナンド部隊を相手に戦闘行動を続ける。


「――おんッ?」


 しかし、最初にジェボが。続け銀年堂等が、その〝音〟に気付いたのは直後。それは倒壊音に、歪な唸り声にようなそれに、不気味な金属の擦れる音。

 その正体を察するのに、要したのはわずか一瞬。


 そして――

 銀年堂等の右手側方の家屋が、その向こうの内より爆破の勢いで倒壊。

 そしてそこから姿を現したのは、重戦車――先程に一度通り過ぎて行った、もう一両のリィーオンⅨであった。


「リィーオンⅨッ!!」

「もぉどって来やがったァッ!!」


 現れたそれに、フュンジェクが張り上げ発し、ほぼ同時にジェボが怒号を上げる。


「引けェぃッッ!!」


 さらにそれを超える怒号声量で、銀年堂が発し。

 殿に残った銀年堂等は、飛び踏み出すそれで遮蔽を解いて瓦礫を離れ。跳ねる勢いでの後退行動へと転じた。


 そんな銀年堂等をまさに見止め追いかけ。リィーオンⅨ重戦車は倒壊した家屋を抜け出て、進行方向を変えながら瓦礫を越えて来る。

 おまけにそれに続き、家屋からは随伴の歩兵小隊がワラワラと踏み出て来た。


 その動きを背後に見つつ、銀年堂等は最初に身を隠していた瓦礫の丘へと飛び込み、一旦身を隠す。


「ッ――マズイぜッ、態勢を崩されてるッ!」


 飛び込み瓦礫の山に背を預け、ズレた鉄帽を直しながらジェボが悪態を発し上げる。

 ここまで何とか戦えていたのは、態勢を事前に入念に整え、地の利を得ていたからだ。

 しかしいよいよそれが崩されつつあり、形勢は大分怪しくなりつつあった。


「まだじゃッ!第2ラインの爆薬原に誘い込むッ!」


 銀年堂は続くプランを口にする。

 ここより後方には、また交差路が。厳密には二つのT字路が続く形の、少しずれた作りの交差路が存在。

 そこを越えた先に第2交戦ラインが構築準備されている。そこになんとか敵を誘い込む算段だ。


「手に内、そろそろバレてそうですが」


 それにラーウォーは懸念を皮肉気に零しつつ、自身の任される巨大な装甲射撃ライフルを、しかしそのミュータントの腕っぷしで悠々と扱い、押し上げて来るリィーオンⅨの阻害を試みる。

 しかしキャタピラを狙って撃ったにも関わらず、17.7mrw弾はその分厚いキャタピラを前に嫌な金音を立てて弾き退けられた。


「ふざけてやがるッ!」


 傍からその光景を見ていジェボが、荒げた悪態を上げる。


「ジェボ、おさんはココはえぇッ、シャンツェんトコ行って伝え調整せぃッ!」

「ハァッ――了解ッ」


 そのジェボに、銀年堂は伝令の役割を与える。それを受けてジェボは瓦礫を離れ、一足先に場を離脱した。




「――ッ」


 ジェボはショートカットの街路を少し駆けた後、少しでも早くシャンツェと合流するために家屋内を突っ切り進んでいた。


「マジでヤベェかもッ」


 状況に悪態を吐きつつ、しかし卑屈で皮肉屋な割には勤勉な所がある彼は。自身の任務を全うすべく、家屋内の廊下を抜け進む。

 ――しかし。行く手を阻むように、廊下に面する一つのドアが勢いよく開かれ。

ヌッ、とトロル系のジェボに負けずの巨体が姿を現したのはその時だ。


「――ッ!」

「ッゥ!?」


 鉢合わせたのは、亜人種のオーガ。

 比較的シンプルな色調の軍服は、エウスクナンド国防軍士官のもの。


「ッ!オォォォ――ッ!」


 鉢合わせ、互いに目を剥いたのも一瞬。

 直後にはオーガの士官はその手に持つ突撃銃を振り上げ、ジェボへと肉薄打撃攻撃を仕掛けて来た。


「ふざッ――ッ!?」


 言葉を発し掛けてしかし損じ、だが同時にジェボは咄嗟の行動を取り。

 ゴギ――と次には物体同士がぶつかる嫌な音が響く。

 ジェボは自身の分隊支援小銃を翳し、オーガ士官の打撃攻撃を間一髪で防いだのだ。


「――ッァ、ヤロォッ!!」

「ッぉ!?」


 鍔迫り合い状態に陥ったのも僅か一瞬、次にはジェボは相手の腹にその強靭な脚での脚撃を繰り出し放ち。

 オーガの士官の体を思いっきり蹴り飛ばした。


「ッぉぉ――!」


 オーガの士官は床に転がり、ジェボは間髪入れずにそれに馬乗りになり。分隊支援小銃のストックを振り下ろしての打撃の一撃を放つ。

 しかしオーガの士官は身を捻り首を退け、紙一重でそれを回避して見せた。


「ッ――のぉッ!?」


 そしてそのままオーガの士官は腕を伸ばして、ジェボの服を掴み引きずり倒す。

 両名はそのまま、床を転がっての揉みあいに発展した。


「ッ!」

「ぐぉッ――やロォァッ!」


 オーガの士官は転がり上を取り、次には銃剣を繰り出してジェボに振り下ろそうとした。しかし直後にはそれはジェボの繰り出した裏拳によって、弾き飛ばされる。

 さらに揉みあい転がり今度はジェボが上を取り、拳骨をオーガの士官に向けて叩き下ろす。

 しかしそれはまたも回避され。ジェボのトロルの腕力での凶悪な拳骨は、床を叩き割ったのみであった。


「ゴゥっ――!?」


 そして今度はオーガの士官が蹴りをジェボの腹へと打ち放ち、ジェボの巨体をしかしオーガの力を持って、吹っ飛ばして剥がして見せた。

 その勢いで壁に叩きつけられるジェボ。


『手間をッ――』


 エウスクナンドの言葉で何か一言を発しながら、オーガの士官はホルスターより拳銃を抜く。それは亜人種が扱う事を前提とした、大口径拳銃。

 次にはその銃口が、叩きつけられ動きが緩慢になっているジェボに向けられ。その引き金が引かれようとした。


「――ごぉッ……!?」


 しかし直後に。

 上がったのは銃声では無く、オーガの士官の口からの鈍い悲鳴だ。


「!」


 相対していたジェボは、オーガの士官自身よりも先に、オーガの身に起こった事態を見止めて気づく。

 オーガの首元から胴、胸元に掛けてが――巨大な刃で寸断されていた。

 規格外のそれは、鯨包丁。

 そしてそれの柄を今も掴むは、主は他でもない――銀年堂だ。


 オーガの背後には銀年堂が悠々なまでの様相で立ち構え。凶悪なまでに巨大な鯨包丁を、しかし片手で振り下ろしてオーガの巨体を寸断していた。


「っ……ぁ……」


 オーガの士官は状況が飲み込め切れていない様子のまま。声にならぬ掠れた声を零し、象時にその身の切断面より血を噴出。

 次には膝をガクリと床に着く。

 そして銀年堂のそのオーガの身を断った鯨包丁を引き抜くと、オーガの士官は支えを失い。その身より血をドクドクと滝のように流し床に広げ、自らの血で作った血だまりに身を倒して沈めた。


「大事無か?ジェボ」


 最早詳しくの確認も無用と、それを成し作った主である銀年堂は。オーガの体を一瞥したのみで、ジェボに安否を尋ねる言葉を次には寄越す。


「なんとかッ……命拾いした……ッ」


 それにジェボは少し冷や汗を流しつつ答えながら、その巨体を起こす。


「引いてきたシャンツェが、お前んさんと会っとらん言うから、来て見て良かった」


 銀年堂は、伝令に向かわせたジェボの元へなぜ自分が追いかけて来たのか。その理由を明かし告げる。

 近くにはその伝令先であったシャンツェの、警戒に着く姿もある。

 どうやらジェボがオーガの士官と死闘を繰り広げている間に、向こう側で先に合流を果たしてしまったようだ。


「ッ……災難の上に無駄骨に終わっちまったッ」


 それに、悪態を吐くジェボ。


「腐るのは後にしてッ、敵は側縁からも迫ってる。後退に使える時間も僅かだからッ!」


 しかしそれに焦る様子で、状況を説明して急かす様に促す言葉を寄越すシャンツェ。


「行ぐぞッ、拾った命なら危険なトコに置いとくは無しぞッ」


 そして続け、銀年堂がジェボに説く言葉を紡ぎ。

 銀年堂等はその場を後にして、家屋内より脱出。第2ラインへの後退を目指した。

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