チャプター3:「獅子を狩り、虎を狩る」

「――ヤロッ!」


 ダークエルフの女の戦車長をまず仕留め。

 さらに重戦車に取り付いていたゴブリンリーダー系の隊員が、自身の半自動小銃を砲塔と車体の隙間より突きこみ、我武者羅に引き金を引き銃撃を打ち込む。

 それが重戦車の乗員を撃ち仕留めたのだろう、隙間からは断末魔の悲鳴が漏れ聞こえて届いた。


「手榴弾、放れぃッ!」


 砲塔上から銀年堂がさらに指示の言葉を紡ぐ。

 それに呼応し、隊員等は重戦車に止めを刺すための手榴弾を掴み準備行動を見せる。


「――Pam.Ⅲ中戦車ァーッ!」


 しかし、街路の先。押し上げた隊員等一個班が戦闘を繰り広げる方向より、叫び上げる知らせの声が届いたのはその時。

 視線を向け見れば街路の向こうより、新手の中戦車が進みそこまで迫る姿が見える。

 そして次には、50mrw戦車砲を備えるその砲塔が、こちらを――銀年堂等の方向へと旋回して向いた。


「身を隠せぃッ――!」


 瞬間、発し上げると同時に銀年堂は砲塔上より飛んだ。

 同時に他の隊員等も、手榴弾を捨てる域で戦車内に放り込み。ジェボにあっては甲開梃子を荒く急き引き抜き浮かせていた砲塔を落とし、そして重戦車上より飛び降りる。

 銀年堂等が僅差で重戦車の向こうに身を隠した直後、敵中戦車の50mrw戦車砲が撃ち放たれた。


 そして響き上がった、着弾の爆発衝撃。

 襲い来た戦車砲弾は、銀年堂等の身を隠した反対側の重戦車側面で着弾炸裂したのだ。

 敵にとっては味方戦車を狙っての遠慮の無いそれは。リィーオンⅨ重戦車の破格の重装甲を信じてか、あるいはすでに助からないと見てのものか。

 ともかくその砲撃の衝撃が、重戦車の向こうより響き伝わり。合わせて今しがた放り込んだ手榴弾の炸裂が、重戦車の内部より鈍い衝撃と音で伝わり来た。


「ッぉ――ギリだったッ」


 それらを感じつつ、重戦車の影で身を隠すジェボは呟く。


「やっこさんの手勢はふんだんじゃ――無反動砲、前に行けぃッ!」


 ジェボのそれに返しつつ、同時に銀年堂は後方に向けて次なる支持の声を張り上げる。

 言われるまでも無いと、直後に重戦車の影を利用して側を抜けていったのは、張り子の虎の114mrw無反動砲 N1だ。

 担架のような形状の四脚に乗せられたそれが、無反動砲チームの隊員等によって運ばれ抜けていき。

 その向こうの家屋の内に飛び込む勢いで運び入れられ、掩体する姿を見せる。


「他は?」


 その様子進行を見つ届け、次に銀年堂は上方を見上げる。

 街路の少し先にある教会の鐘楼、斥候・射撃チームを上がらせ配置したその頂上より。射撃戦闘を行いながらもその合間に、手信号でさらなる情報を寄越す隊員の姿があった。


「――突撃砲は迂回、重迫の配置見ユ。歩兵部隊数訂正、3個中隊規模」

「面白くねぇッ」


 合図信号を読み解き口にした銀年堂のそれに、こちら側にとって歓迎しがたい状況上方に。横にいたジェボが不快そうに言葉を零す。

 直後――先の中戦車の砲撃の二射目が襲来。

 50mrw戦車砲弾が今度は重戦車の真上を飛び抜け。すぐそこにある家屋の上階を直撃、土煙と破片が銀年堂等へと降り注いだ。


「ッ!――燻り出そうってか!無反動砲、急いでくれッ」


 それに鉄帽を抑えて凌ぎつつ、願う言葉を零すはゴブリンリーダー系の隊員。


「――っァ!」


 そんな所へ、重戦車の影にまた一名の新たな隊員が、慌て急く様子で飛び込んで来た。

 それは戦いが始まる際に、起爆装置を操作したゴブリン系の隊員であった。


「ハァッ……ッ……初長、機関銃の弾を持ってきましたッ!」


 その彼はゴブリン系のその子供のように小柄な身体を戦車のキャラピタ転輪部に預け。上がった域を整えながら伝える言葉を発し上げる。

 その言葉の通り、彼の両手には弾薬ケースが。首には給弾ベルトに連なる弾薬の束が掛けられていた。


「ご苦労じゃが――トートゥ〝四資曹士〟、機関銃はここじゃなかぞ」


 しかし銀年堂はその彼を名と階級で呼び、一言で労いつつも、合わせてそう伝える言葉を紡ぐ。

 そのトートゥと呼ばれたゴブリン系隊員は、民間から志願呼集した資格技術者枠の隊員であり。現在のこの場での階位は銀年堂に続く次席者でもあった。


「正面、いやケドン等が側面に回っとるじゃろ、そっちに行けぃッ」

「ッ……了解ですッ!」


 伝えられた方と、更新された指示に。

 トートゥは少しの困惑を見せつつも、次には意を決した様子を見せ。側方に回った中機関銃の第1チームへ合流すべく、重戦車の影をまた飛び出して戻っていった。


「――大丈夫か、あの人」


 そのどこか不慣れでおっかなびっくりの姿のトートゥの背中を見て。ゴブリンリーダー系の隊員が、心配半分訝しみ半分の言葉を上げる。


「事務方予定の人だったんだろ?荷が重い」


 それに、淡々と答えるはトロル系のジェボ。

 その言葉通り、トートゥは元々後方事務仕事の枠で採用されたはずであった。しかし今は紆余曲折の状況から、戦場に身を置いている。

 だがそれが適切でない事は周りの誰もが、そして本人自身も理解していた。


「よせぃッ」


 しかしそれに、銀年堂が端的な一言でそれ以上の各々の言葉を封じる。

 ――重戦車の影の向こうで、鈍い爆音の一声が上がり。直後にはそれを上回る爆音、破壊音が轟き上がった。

 銀年堂筆頭に各員が重戦車に遮蔽しつつ覗き見れば、新手の敵中戦車が爆発炎上。その砲塔を空高く巻き上げる姿が目に映った。

 今に配置した114mrw無反動砲 N1が、一撃を叩き込み無反動砲を屠って見せたのだ。


「――無反動砲さまさまだなッ」


 見えた光景に、ゴブリンリーダー系の隊員が皮肉交じりにそんな言葉を零す。


「行ぐぞォッ゛!」


 そして銀年堂がまた指示の声を発し上げ。

 重戦車の無力化に取り掛かっていた各員は、前方正面で展開される戦闘に合流すべく。重戦車の影を飛び出して行く。


 前方正面の戦闘に合流すべく、駆ける銀年堂筆頭の数名。


「――ッ゛ぁッ!?」


 その殿の一名が、鈍く痛ましい悲鳴を上げた。


「ッ」


 それに振り向きつつも。すでにすぐそこで会った瓦礫の丘を遮蔽物に飛び込み、銀年堂等は身を隠す。


「クレンデウかッ、どがしたッ!?」


 そしてそこで状況を掌握すべく、尋ねる声を張り上げる銀年堂。

 見れば、今名を呼んだ殿の隊員が、からがら瓦礫の丘の影に飛び込み突っ伏した姿が見える。

 その隊員の肩を見てば、そこには肩部の肉が円形におおきく欠損した、大怪我ができている様子が見えた。


「――ッ、〝魔法狙撃〟でしょうッ」

「ラーウォーか」


 それに、苦い台詞ながらも端的な声色で別の声が寄越される。

 銀年堂の横にあったのは、身長2rw半ばは優にある巨大な存在。しかしその彼の灰色かかった青色の肌は、オークやトロルとも違う。

 その彼――同じく行動作業服を纏う隊員の正体は、〝ミュータント〟だ。


 元はヒト――科学者であるが。亜人種に対抗するために己が身を強化し姿を変えた、この世界に存在する新たな人種。


 ラーウォーと呼ばれたその彼の手には、巨大な得物である17.7mrw装甲射撃ライフル F901。

 本来複数人で扱うものを、しかし規格外の体躯腕力を持つ彼個人に任されたそれが見える。


 この正面での戦闘の指揮を受け持っていた、その彼からの言葉は。今しがたのクレンデウを傷つけた攻撃の正体を推察して示すものだ。


「やっぱら(奴ら)の狙撃手か――JJッ!」


 伝えられたそれに、少し苦い色で答えた銀年堂は。次には上方の協会鐘楼を仰いで、また別の名を呼んだ。

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