チャプター2:「鋼鉄の獅子を狩る」

 自ら突撃の先鋒を務め、突っ切っていく銀年堂。

 その手にあるは、二つの武器装備。


 一つは、Il19機関拳銃。

 .45口径弾を使用する、指揮官クラスの運用を想定されたサブマシンガン。

 少し大きめの拳銃にドラムマガジンを装着したようなシンプルな形状で、隊員からは「ポーチガン」などと呼ばれる。


 そしてもう一つ、反した目を剥くまでの得物が銀年堂のもう片手に見える。

 剣か、刀――いや、一応にはそれは〝包丁〟に部類された。

 しかしその丈は1rw近く、刃の幅も20mrwはあるとみられ、包丁を名乗るにはふざけているまでに巨大過ぎる。

 銀年堂のその手にあるは〝鯨包丁〟と俗称される、彼が私物として用いている規格外の代物であった。


 そんなふざけた鯨包丁と機関拳銃を手に、銀年堂は自走不可能に陥った重戦車の懐へ踏み込む。

 重戦車の周辺には、その影に居たことが幸いして爆薬起爆の影響を逃れた敵エウスクナンド兵が残存していた。応戦のために展開しようとしていた彼らは、しかし踏み込んできた銀年堂に驚きを見せつつも、慌て迎え撃つ姿勢を見せる。

 だが。


「ッ!――ヅぁッ!?」


 まず真っ先に反応応戦しようとした敵下士官は、しかしその前に銀年堂が突き出し撃ちばら撒いた、機関拳銃の.45口径弾を諸に浴びて打ち倒された。


「――ガェッ!?」


 銀年堂はそのまま機関拳銃をばら撒きながら薙ぎ。その後ろ後方に居て今まさに半自動小銃を向けた狼獣人の兵士を、しかしその小銃に銃声を上げさせる前に僅差で撃ち屠る。


「――ォオッ!」


 その側方より、銀年堂に襲う大きな影がある。

 それは亜人種、敵のオークの下士官兵。その手に握られ振り上げられるは、白兵戦用の小型メイス。

 銀年堂の側方を隙と見止め、暴れる銀年堂を阻止するべく突貫して来たのだ。


「――がァッ……!?」


 しかし、そのオーク下士官から直後には鈍い悲鳴が上がった。

 見ればなんと、オーク下士官の首元横肩から胸部に掛けて――巨大な刃が、件の鯨包丁が叩き込まれ、オーク下士官の胴を断ち割いていた。

 見れば、その懐には銀年堂の身。

 銀年堂はオークの下士官よりも早い動きで、迎え撃つようにその懐に飛び込み。そのふざけたまでの腕力で鯨包丁を振るい、オーク下士官の身を断ったのだ。


「――構わん、恨めぃッ」


 銀年堂はそんな端的な一声を零しつつ。鯨包丁をオークの身より引き抜くと同時に、オークの身を蹴り押して倒す。

 その銀年堂の各方より刺し向くは、まだ残存する敵エウスクナンド兵たちからの殺意と銃口。


「――ゴぅッ!?」

「グァッ!?」


 しかしその残存兵たちは、直後には次々と打ち倒れ出す。

 同時に響いたのは多数の銃声。

 そして敵エウスクナンド兵たちが崩れ沈黙した場に、次には入れ替わるように。銀年堂に続き飛び出した、今の射撃音の主でもある隊員各員が踏み込んできた。


 銀年堂の飛び出し突撃からここまで、また僅か1分未満の出来事。

 そしてここまでは全て所定の動きであった。


「続けぃッ、前に押して配置せぃッ!」


 銀年堂の張り上げる指示の声。

 銀年堂の近くを、そして爆破の煙が晴れだした重戦車周辺を。踏み混んできた隊員等は動きを止める事無く次々に駆け抜けて、指示の配置行動に掛かっていく。


 重戦車を通り抜けたまた向こうにある、街路上の瓦礫の山や遮蔽物に。各隊員が、そして待機していた中機関銃N74A2の第2チームが、押し上げて散会展開から遮蔽して配置。

 爆破の音や事態に気づき駆け付けて来た、敵エウスクナンド部隊の後続を相手に、戦闘行動を開始。激しい銃声がまた響き始めた。


「〝甲開梃子こうかいてこ〟ば、持って来いッ!」


 そんな戦闘行動の一方、銀年堂そんな何かを要請する声を張り上げながら。見れば自走不可能に陥ったリィーオンⅨの車体へと飛び乗っていた。

 他にも3~4名の隊員が銀年堂に合わせ、もしくは援護するように。リィーオンⅨに飛び乗りあるいは車体の影にカバー配置。


 しかしリィーオンⅨ重戦車は自走不可能にこそ陥ったが、戦闘行動能力は未だ生きており。車体機銃や砲塔同軸機銃が我武者羅な射撃を見せている。

 そして銀年堂等に飛び乗られながらも、抵抗するようにその砲塔は緩やかな旋回行動を次には見せる。


 その旋回した砲塔の砲身が向くは、今先まで銀年堂等が身を隠していた瓦礫の山。そこに今も残り身を隠し、戦闘行動を行うシャンツェ等の一個班の方向。


「――ッ、シャンツェッ!隠れぃッ!!」

「耳塞げェッ!」


 それに気づき、銀年堂は向こうへ声を張り上げ。

 同時に横にいたゴブリンリーダー系の隊員が、特徴的なしわがれ声でしかし怒号を上げた。


 ――直後、咆哮が轟いた。

 リィーオンⅨが備える主砲、11.1crw戦車砲がその唸りを上げたのだ。


 狙われたシャンツェ等の隠れる瓦礫に戦車砲弾が叩き込まれ、瓦礫の山はものの見事に吹っ飛ぶ。


「――ッゥ、お前はん等ァッ!?」

「――無事ですッ!」

「――ナシッ!」


 咆哮により劈いた音声が、耳の内で鳴りやまぬまま。銀年堂は被害状況を尋ねる。

 幸い銀年堂周りの隊員等は咄嗟に耳を塞ぎ、被害は無かった。


「シャンツェぇッ!」


 続けシャンツェ等の方向へ、尋ねる旨の声を張り上げる銀年堂。

 幸いシャンツェ自身は逃げ無事だったのか。瓦礫の山の麓の端から、彼女がおっかなびっくり顔を出す。

 しかし次に彼女が見せたハンドサインは、中等傷一名を知らせる合図。今の砲撃で、一名が逃げ遅れ傷を負ったようであった。


「配置代えぃッ、そのまま側面に回れぃッ!ジェボッ、おるかァッ!?」


 他の隊員が、重戦車の銃眼にこちらの火器を捻じ込み射撃を加えたり。ハッチを抉じ開けようと重戦車の無力化を試み始める中。

 そのシャンツェに向けて指示を張り上げ、そして続け銀年堂は、別の隊員の所在を尋ねる。


「お待たせをッ」


 そこへ重戦車の元へ、トロル系の隊員のジェボが駆け寄ってきて現れた。来る途中、今のリィーオンⅨ重戦車の砲撃を逃れるために地面に突っ込み伏せたのだろう、その行動作業服(フィールドジャケット)は土埃塗れだ。

 そしてそのジェボの手に持たれ見れたもの。それは丈2rwはありそうな鉄製の棒――梃子だ。

 それは今先に銀年堂は発した、「甲開梃子」と呼ばれる一種の装備。


「やれぃッ、〝抉じ開ける〟んじゃッ!」


 トロル系のジェボに手を貸し、そのトロルの巨体をしかしものともせずに、銀年堂は彼を重戦車の上に引き上げてやりながら。

 同時に指示の言葉を告げる。


「了解、了解ッ」


 それに少し倦怠感混じる言葉で答え、そしてジェボが次に見せたのは。

 甲開梃子のマイナスドライバー状の切っ先を、重戦車の砲塔と車体の境目に思いっきり差し叩き込む動きだ。


「ッー!」


 普通であれば堅牢かつ何十tもの重量のある重戦車を相手に、無意味であろう行為。

 しかし、次にはなんと差し込まれた梃子の切っ先は――ガギ、という何かの破損音と会わせて、重戦車の隙間に捻じ込まれた。

 音は重戦車の砲塔とターレットリングを繋ぐ固定具が破損した音。

そして、異物を捩じ込まれた砲塔は浮き上がり、車体との間に隙間を作った。

 専用に作られた異常なまでの硬度の梃子と、トロル系の亜人であるジェボの怪力が成した御業だ。


「開いたッ、開いたッ!」


 ジェボは発しながら、さらに梃子を押し倒して砲塔を浮かせ、十数crwの隙間を作る。


『――ッ!海洋の土人がッ!』


 瞬間、重戦車砲塔のコマンドキューポラのハッチが勢いよく開き。戦車長であろうダークエルフの女が、エウスクナンドの言葉と共に拳銃を手に慌て這い出て来た。

 同時に砲塔内から隙間を通して、狙いもそっちのけで撃たれたものであろう、拳銃の射撃が数発飛び出してくる。

 砲塔を捩じ開けられるという突飛な攻撃行動への、敵戦車兵たちの慌てての応戦行動。


『――ッ゛ぅ!?』


 しかし直後には連続的な破裂音――発砲音が響き。

 ダークエルフの女戦長はその首から胸部にいくつもの穴を開け、血飛沫を飛び散らす。

 見れば砲塔上にはそこに上がった銀年堂の姿があり、その手には突き出されたIl19機関拳銃が見える。

 それこそダークエルフの女を撃ち抜いた正体だ。


『……っぁ……』


 ダークエルフの女はその衝撃に身を打ち反らした後、その身の力を失いコマンドキューポラから砲塔内へと落ちて行った。

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