第8話
市街地にある広場。待ち合わせ場所として知られていますし、テレビで見たことがある場所です。
雑誌の撮影スタッフさんって、私が思ってた以上の
写真を撮る人とそのアシスタントさんの2・3人だと思っていましたけど、衣装さんにメイクさんなど、全員で10人ほどがいました。
スタッフさんたちに
私は緊張しながらも、「よろしくお願います」と全員に頭を下げました。
それ以降私は、ジャマにならよう気をつけながら見学しているだけ。なにもできないから当然ですけど。
撮影が順調なのかどうなのか、それすらわかりません。
だけどエイムくんは真剣な顔でスタッフさんと会話をして、そのたびに服の見せ方やポーズを確認しているみたい。
今回のお仕事の主役は「服」で、エイムくんは「マネキン」なんだそうです。
(やっぱり、
今の彼は「
あっ、撮影終わったのかな?
スタッフさんが散り、エイムくんが私に近づいてきます。
「終わりましたか?」
私の確認に、
「衣装チェンジ。半分終わったくらい」
彼が答えたとき。
「いるっ! エイムいるよっ」
撮影場所へと続く10段ほどの小さな階段を駆け上がってきた、高校生くらいの女の子が叫んだ。
◇
この状況は、撮影スタッフさんも予想外だったみたい。
「悠木エイムだ」「うっわマジかっこいい」「勝手に撮っちゃダメじゃない?」「いいってわかんないよ」「エイムくーん♡」「今回は当たりだったの!?」
撮影はまだ終わってないのに、「悠木エイム」が撮影をしていることに気がつた人たちが集まってきました。
火角さんが「ギャラリー」に頭を下げています。声を出さないように、勝手に画像や動画を撮らないようにお願いしているみたいでした。
私は撮影スタッフさんに
困った顔で立ちつくす詠夢くん。
エイムくんじゃない。詠夢くんの顔になってる。
どうしよう、お仕事のジャマはしたくないです。
だけど今の彼は弟の詠夢くんで、だったら私はお姉ちゃんなの。困った顔の弟を、そのままにしておけない。
私はそっと彼に近づき、
「いつもこんな感じなの?」
小声で聞いてみた。
彼は首を横に振ると、
「こんなの初めて」
どうしていいかわからない。そんな顔をする。
そういえば最近、ファンコミュニティでエイムくんの動向を探る動きが活発化している。私は興味ないというか、イベント以外に参加しようと思わないから追っかけ情報はチェックしないし、そういったおしゃべりにも参加しない。
だけどこれが初めてなら、どこからか情報が漏れてたとか? 私じゃないよ。私、誰にも話してない。
「いつもは、ファンの人ってこないの?」
「来ることもあるし、あの人……」
詠夢くんは「騒ぎを止めようとしているっぽい、大柄な30歳半ばくらい女性」をこっそり指さし、
「あの人はよく見にきてる。なんにもジャマしないし、プレゼントを渡そうともしない。ただ本当に、僕の応援をしてくれてる人だと思う。僕が仕事した本とか、新しいのが出たら持ってきてるし。買ったよ、応援してるよってメッセージだと思ってる」
コミュニティに「思い当たる人」がいる。
『エイムきゅんが載った最新の本を持って、応援に行ってる。声かけられないし、かけちゃダメなのわかってるけどね。遠くからみれるだけでしあわせ~♡』
そう言ってた。
そっか、あの人が「ネルネさん」なんだ。
ネルネさんは古参のエイムくんファンのひとりで、コミュニティでは進行役をしてくれることが多い。
常識的で、理性的。ステキなお姉さんって感じの人なの。
よかったね、ネルネさん。あなたの気持ち、ちゃんとエイムくんに伝わってるみたいだよ。
私たちに近づいてきた火角さんが、
「エイムはスタジオに
ちゃんとした男性の声で言う。
「僕、まだ終わってないけど」
「わかってる。でもこれ以上は無理。管理できなかったわたしの責任。ごめんなさい」
管理できてない? 火角さんがそう言うならそうなのでしょう。ですが「エイムくんが有名になるスピード」も、このところ加速度的になっています。
ファンコミュニティの参加者、ここ1ヶ月で2倍になりましたし。
詠夢くん、悔しそうな顔してます。
だけどそれは、エイムくんならしない顔だよ。
「お姉さん、わたしとエイムを挟んで移動してください」
火角さんの指示に、私は
ここにいる半分でも「悠木エイムが目当てで集まった人」なら、若い女の私が彼に寄りそうのは危ないと思ったので。
火角さんには申し訳ありませんが、この人は女性の服を着ていても男性にしか見えません。だから大丈夫です。
でも、私は違います。
私の「容姿」は関係ありません。私は「若い女」です。それが重要。みんなに「しなくていいい誤解」をさせちゃうかもしれません。
私は「悠木エイムくん」のファンコミュニティに参加しているから、ここに集まってるみんながみんな、「大人しくて礼儀正しい」なんて思ってません。
あの場所には
私だって、エイムくんに知らない女がよりそってたら、嫉妬じゃないけどいい気持ちはしないと思う。
『その女は誰? 説明して』
そう思うかもってのは、否定できません。
エイムくんの口から説明してもらって、納得できるかできないか、それは自分で判断したいって思うはずです。
面倒くさいかもですけど、ファン心理ってそういうものでしょ?
だけどマネージャーの火角さんがいうんだから、私が心配することはないのかな? 大丈夫って判断なのでしょう。
ちょっと心配ではありますけど、
「わかりました。詠夢くん、いきますよ」
私の言葉に、頷くだけの詠夢くん。
火角さんが前、私が後ろで詠夢くんをはさみ、移動を開始します。
だけどファンの人たちが陣取っている階段を降りないと、これ以上移動できません。
「すみません、通してください」
その火角さんのお願いで、どうにか階段は見えましたけれど、
「エイム、その女誰!? 事務所の人じゃないよね。そんな女いないよねッ」
その声が、わたしたちの足を動けなくさせました。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます