第九話 魔力

 司令室のドアを開け、攻輔こうすけ四方しほうは入室する。中には複数人の大人が卓を囲んでおり、その一番奥の席には一人の老人が腰かけていた。

 攻輔はその老人へとまっすぐに声をかける。


「じいさん、報告だ」

「ここでは司令と呼ばんか、バカ弟子め」

「はいはい、最高司令官様。で、いいニュースと悪いニュース、どっちを先に聞きたい?」


 話しかけられた老人、『ウィザーズ』最高司令官・千子せんじ兼続かねつぐは、閉じていた片目を開いて攻輔を見やる。


「なにか余程のことがあったな。……まさか」

「ああ。そのまさかだぜ司令。『特異点』が見つかった」


 攻輔の言葉に司令室がざわつく。

 それは本当なのかと詰め寄ろうとする幹部たちを、千子が手を挙げて制する。


「なるほどのう。それは、昨日水鏡みかがみで保護した『漂流者ドリフター』のことじゃな?」

「そういうこと。んで、たぶん鬼どもにはバレてる。よくて疑いが強いくらいじゃないかな」

「そうか……。『ギア・クロニクル』に至るための一ピース。それがここで手に入るとはな」


 千子の言葉に攻輔は頷く。


「うん。んで、この『特異点』なんだけど、俺たちの幼なじみでね。魔力そのものも普通の一般人レベルだし、ウチで預かるってことで、いいよね?」


     *


 一方、訓練室に残ったまもるたちは、彼の持つスマホについての雑談をしていた。


「へぇー、これが今のスマホなんだ。十年前とだいぶ変わったね」


 護のスマホを見ながら、道瑠みちるが感嘆する。十年前のそれとは形もサイズも変化しているはずだ。ちなみに画面だが、既にバッテリー切れで電源が入らなかった。


「充電できるといいんだけど、ここじゃ難しいよね」

「そうだな……いや、コンバーターを付ければもしかしたら……」


 腕を組んで考え込む龍彦たつひこに、護は訊ねる。


「コンバーター?」

「ん? ああ、電源を電気から魔力に変換できさえすればいけそうな気がするんだが……。帰ったら祖父江そぶえさんに聞いてみないとな」


 なるほど。護はまだよくわかっていないが、龍彦には当てがあるということだろう。

 正直、スマホが使えるようになったところでどうなるというわけでもない。ただの現代人あるあるで、スマホがないとやたら不便に感じてしまうだけだ。


 それに、この世界にはギアがある。スマホをどうこうするより、これの使い方を教えてもらう方が先決と言えた。


「ギアは魔力で動くんだよね? 僕もギアを動かせるってこと?」

「まあ、そうだな。ものは試しだ」


 と、龍彦が渡してきたのはあのスマートウォッチ的な端末だ。


「こいつは『マギアリンカー』。そいつを持って〝セット〟って言ってみろ」

「〝セット〟」


 護は言われた通り発生したが、何も起こらない。


「ちょっと、龍彦くん。いじわるじゃない? 攻輔くんみたい」

「ガッ……!? いや、そんなつもりじゃなくてな。悪い、こいつは魔力認証がかかっていて、俺の魔力じゃないと動かない」

「へぇ……。そういうのもあるんだ」

「一口に魔力って言ったって、ゲームの魔法みたいになんでもかんでもできるわけじゃない。それだけは憶えておいてくれ。で、だ」


 龍彦は訓練室に備え付けられた機材を動かし始める。


「この世界における魔力ってのは、単純にギアの動力源だと思っておけばいい。他の世界じゃ色々使い道は研究されてるみたいだが……。ここ月影つきかげではギアに特化している」


 護たちの前、何もない広い空間に、ホログラム映像のようなものが表示される。

 そこに映し出されているのは、昨晩攻輔たちが身にまとっていた未来的な装甲だった。


「こいつは戦術型多重装甲ギア――長いんで戦闘ギアとか呼ばれてる、昨日俺たちが着ていた物の訓練用だ。……ちょっと着てみるか?」

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【長編】ギア・クロニクル【連載中】 椰子カナタ @mahonotamago

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