第七話 エンジニア

 水鏡みかがみ支部は小規模でアットホームな職場らしい。現在の所属隊員は五名。全員が支部で衣食住を共にしており、メンバーは攻輔こうすけ道瑠みちる龍彦たつひこ、支部長兼オペレーターの四方しほう、そして。


「あっ、ども。ここでドライバー兼エンジニアやってます。祖父江そぶえ宗吾そうごです。よろしく」

東埜とうのまもるです。よろしくお願いします」


 朝食を終えた頃、談話室に入ってきたのは髪を乱雑にオールバックでまとめた、無精ヒゲの男性だった。祖父江と名乗った彼は、護に軽く頭を下げてくる。護も簡単に自己紹介を返した。


「祖父江さん、また開発室に閉じこもってたでしょ。朝ごはん冷めちゃうよ?」


 道瑠の言葉に、祖父江はいやぁと頭に手を当てる。食卓を切り盛りしているのは、意外にも道瑠だった。彼女はしゃもじを片手に祖父江の分を用意し始める。


「せっかくの再会に水を差したくなくてね。そろそろいいかなー、なんて。……朝メシ食べたいし」

「はい、どうぞ」


 席に着く祖父江の前に、道瑠が朝食を並べる。メニューは白米、みそ汁、目玉焼きにサラダと実に健康的だ。

 染みるー、と食事を始めて感動している祖父江を見ながら、攻輔が補足してくれる。


「祖父江さんは、昨日俺たちを乗せてくれた車のドライバーだよ。ま、本業はエンジニアなんだけどね」

「エンジニアって?」


 護の問いに、祖父江の耳がピクリと動いた。


「あっ、そういや説明してなかったっけか。エンジニアっていうのは――」

「――エンジニアはギアの開発・調整を行う人のことだよ!」


 攻輔の言葉を遮り話し始める祖父江。先程までと比べて話すスピードが倍近く上がっているうえ、表情もキラキラし始めた。


「あの、ギアってなんなんで――」

「――ギアって言うのはこの世界を維持・運営しているテクノロジーのことで、魔力によって動く機器を指して呼ばれることが多いね! これを日々新たに開発・調整しているのが我々エンジニアで――」


 早口でペラペラと喋り続ける祖父江に、始まっちまったかと顔に手を当てる攻輔。護の肩を叩く龍彦。溜め息を吐く道瑠。そんな中、四方が手を叩く。


「祖父江さん、続きはまた落ち着いてから」

「ええー、四方さん、ここからがいいとこなのに」

「ごはん下げちゃうよ?」

「ああっ、道瑠ちゃん、それだけはご勘弁を」


 目に涙を浮かべてみそ汁をすすり出す祖父江の姿には、なんというか、哀愁が漂っていた。


「護さん、このあとよろしいですか? 何をするにもまず、ここでの暮らしの基盤を作らないといけませんから。街の方へ出かけましょう」

「確かにそうですね。よろしくお願いします」


 四方の言う通りだ。まずは生活の基盤を整えなければ。

 しかし街か。攻輔たちが十年間暮らしてきた世界。どんな世界なのだろうと少し心が躍る部分がないと言えば嘘になる。先程は龍彦と街中を走ったが、その辺りは護たちの世界でもよくあるような住宅街だった。中心街の方はどうなっているのだろうか。


 支度を整え、護たちは支部を出た。四方の車で街へ向かう。祖父江は留守番だ。

 少し悪いことをしたかなと心配になる護に、攻輔が笑いかける。


「ま、いつものことだから気にすんな」

「ちなみに祖父江さんを暴走させたのは多分、わざとだぞ」


 龍彦の指摘に、攻輔はギクッと口にして肩を震わせた。


「いやぁ、早い内にあのキャラ体験しといたほうがいいかなぁって思って。ま、それはそれとして、祖父江さんがいない内にギアの説明をしといた方がいいかな」


 攻輔はそう言ってポケットから端末を取り出した。


「ギアって言うのは、祖父江さんも言ってた通り、この世界で言う機械のこと。これとか、今乗ってる車もそう。俺たちの世界では電気を使って機械を動かすけど、この世界では魔力って言う全く別のエネルギーを使うんだ」

「魔力……」


 祖父江の話の中にも出てきていたが、魔力。そんなファンタジーものの中でしか見たことがないものが本当に存在するのか。

 攻輔の言葉を四方が継ぐ。


「魔力はこの世界の根幹を成すエネルギーです。これから護さんの魔力を測りに本部へ向かいます。我らが『ウィザーズ』の本拠地です」

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