第四話 緊急出動

「ここから現場の攻輔こうすけさんたちをバックアップします」


 四方しほうはヘッドセットを装着し、デスクに着く。デスク上には三つのモニターとキーボードを中心に、無数の配線が巡らされている。


「バックアップ……」


 それはつまり、戦うのを支援するということか。確かに思い返してみれば、護を助けてくれたのは攻輔だ。彼は刀を手にしていたし、何やら未来的な装甲に身を包んでいた。そのあとは普通のジャケット姿になっていたが、再びあの姿で鬼と戦うのか。


「安心してください。確かに危険ではありますが、彼らは強いですよ」


 護が不安そうにしていると、四方がそう言って微笑みかけてきた。四方はそのままデスクに向き直り、見ていてください、と告げる。

 護はその言葉に支えられるように顔を上げ、まだ何も映っていないモニターに視線を移すのだった。


     *


比々良木ひひらぎの管轄に入ったな。もう少しで到着だ」


 走行車両の車内で、龍彦たつひこはスクリーンを見つめながらつぶやいた。

 車内は対面式の座席になっており、龍彦と攻輔が並んで座り、その向かいに道瑠みちるが座る形で着座していた。

 そして彼らの前には、四方が先ほど操作していたような端末を装着した、四本足の小型メカがあった。メカの背中に装着されたその端末からスクリーンが浮かび上がり、現在値や比々良木からの情報が映し出されている。


「狙いはやっぱり、護くんなのかな」


 道瑠のつぶやきに、沈黙が流れる。ややあって攻輔が口を開く。


「たぶんね。今回は単独の『漂流者ドリフター』だから、あちらさんも狙いやすいのかもしれない。それに久々の向こうからの『漂流者』、護が『特異点』な可能性も高い」

「『特異点』、か。可能性がある以上は、あちらも動かざるを得ない、というわけか」

<戦闘領域に到達! 三人とも、準備はいいかい?>


 攻輔たちが話していると、端末から運転手の声がした。三人は頷き合い、駐車された車両から躍り出る。


「んじゃ、行きますか! 〝纏装〟!」

「「〝纏装〟!」」


 攻輔の発声に続き、龍彦と道瑠も発声する。すると彼らの身体が一瞬の光に包まれ、次の瞬間にはあの未来的な装甲を身に着けていた。

 それぞれの装備は似ているようで細かく違う。刀を持つ攻輔は肩や腰周りを覆う装甲、足元には脛当て、腕には小手のようなものがあるのが特徴的で、剣道の防具のようにも見える。

 龍彦は胴や足に分厚い装甲が装着され、両腰には拳銃とホルスターが、そして肩から提げられる突撃銃アサルトライフルが装備されている。

 そして道瑠は二人に比べて軽装だった。しかし腕と足には二人よりも重厚な装甲があり、決して装備が薄いわけではない。


「四方ちゃん聞こえる? 〝纏装〟完了。戦闘領域に入ったため、警戒しつつ前進する」

<了解しました。お気を付けて>

「よし。んじゃ、全速力で行かなきゃな」

「警戒しつつ、じゃなかったのか?」

「いつものことでしょ? 龍彦くん」

「それもそうか」

「というわけで……GO!」


 攻輔の合図で三人は駆け出した。その速度は常人の比ではない。次第に戦闘音が聞こえてくる。比々良木支部か。攻輔は耳元に手を当てる。


「聞こえるか? こちら水鏡みかがみ支部・北条ほうじょう隊隊長、北条攻輔だ。比々良木支部、応答願う」

<はい、こちら比々良木支部、オペレーターの工藤くどう由加里ゆかりです! 北条隊長、どうぞ!>

「北条隊、戦闘領域に現着した。状況はどうなってんの、工藤ちゃん?」

<まじめにやってください! 現在、比々良木支部・笠井かさい隊が応戦中! 敵は三小隊に分かれており、別々に進軍を開始! 水鏡地区方面へ向かう小隊への対応をお願いします!>

「まじめにやって、了解。それじゃあ、水鏡方面の鬼はこちらに任せてくれ。そっちは頼むよ?」

<言われなくても! 通信終わります!>


 ブツっと音を立てて通信が切れる。


「耳痛っ」

「ふざけてるからだ。で、俺たちはこっちに来てるヤツらを相手にすればいいんだな?」

「そういうこと」


 頷く攻輔に、続いて道瑠が問う。


「攻輔くん、作戦は?」

「いつも通り。俺と龍彦でかき回して、道瑠に大暴れしてもらう。四方ちゃん、そういうわけなんでオペよろしくっ!」

<了解しました。まもなく会敵です。陣形Aでお願いします>

「「「了解!」」」


 四方の指示により、三人は陣形を組む。攻輔を先頭に、中衛に龍彦、その後ろに道瑠が控える。


 やがて、轟々と怒号が聞こえてくる。街並みを破壊しながら迫ってくるのは、十数体の鬼の群れだった。


「来たか」

「んじゃ、かますぜ。龍彦、援護よろしく!」


 刀を手に突撃を仕掛ける攻輔。その後ろから龍彦が突撃銃を連射する。この火力にたまらず足を止める鬼どもの先頭へ、攻輔が斬りかかる。切り結ぶ攻輔と鬼。そこへ他の鬼どもが金棒を振りかざして襲い来る。


「はあああああっ!!」


 と、そこへ空中から急降下する者の姿があった。道瑠だ。彼女は大きく跳び上がり、鬼の軍勢の中へと飛び込んできたのだ。そして拳を振り下ろし、地面を叩いた。


「うおっとっとっと!」


 これにたたらを踏みつつ飛び退く攻輔。道瑠の拳により地面が陥没し、その衝撃波で周囲の鬼が吹き飛ぶ。攻輔はこれに巻き込まれないように飛び退いたのだ。

 続けて、道瑠の足の装甲に付いているバーニアが噴射され、彼女は高速で移動しながら鬼を次々と叩き伏せていく。攻輔と龍彦は道瑠の援護に回る。鬼の部隊は瞬く間に壊滅していった。


「こちら北条。水鏡方面は片付いたよ。そっちの手助けは要るかい?」

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