第二話 別世界
「楽しそうですね」
その声は
振り返ると、そこにいたのは眼鏡をかけた女性だった。スーツに身を包んだ彼女は、護たちより年下のようにも見えたし、はるか年上のようにも見えた。
彼女はアップにまとめた髪をほどく。ヘアゴムを取ると、腰まで伸びる長い髪が解放された。
「四方ちゃんおつかれー」
「お疲れさまー」
「お、お疲れ様です! 座ってください」
「ありがとう、
「いえ、とんでもないです!」
軽く手を挙げて挨拶する
「みなさんも座ってください。あなたもお疲れでしょうがもう少しお付き合いください。
「んじゃ、俺飲み物用意するよ。護もこっちに座ってな」
攻輔に示された、女性の対面の席に護はおずおずとかけた。その隣に龍彦が座り、女性の隣に道瑠が座る。テーブルを囲む椅子は六つ。飲み物を入れたグラスをそれぞれに配ると、攻輔は龍彦の隣に座った。
「ありがとうございます、攻輔さん。では少しだけお話をさせていただきます。まず、私は
四方と名乗った女性は胸ポケットから名刺入れを取り出し、護へ名刺を渡してきた。人から名刺を受け取るのはこれが初めてだ。
Wの文字を基調にデザインされたロゴの入った名刺には、四方の名前と肩書き、連絡先が記されていた。
「東埜護です。よろしくお願いします」
「ご丁寧にありがとうございます。不思議と、攻輔さんたちに出会ったときのことを思い出しますね」
四方は攻輔たちを見やり、微笑む。それにバツの悪い表情を浮かべるのが攻輔と道瑠、頬を緩ませるのが龍彦だった。
「話を戻しましょう。もうお気付きかもしれませんが、東埜さん。ここはあなたがこれまでいた世界ではありません」
「それは、まさか」
「ああ。そのまさかだぜ護」
攻輔の言葉に四方は頷き、続ける。
「ここは護さんのいた世界から見て、異世界。学園都市世界・
学園都市世界・月影。その治安維持組織『ウィザーズ』。聞いても今はピンとこないが、なるほど。ここが異世界だというのは理解できた。文明レベルは護がいた世界と同等のようだが、こんな知らない場所に突然迷い込むなど、異世界だからとしか言いようがないだろう。
加えて攻輔によって倒された鬼。あんなものが実際に出てくるのは異世界だからだとすれば納得せざるを得ない。
「でも、なんで突然……?」
「護。お前がここに来たとき、どんな状況だった?」
龍彦の言葉に護はあのときの状況を思い返す。
「あのときは普通に下校してて……。いつもの角を曲がった瞬間……」
目の前に、いつもとは全く違う光景が広がっていた。
「なるほど……。あのときの俺たちと同じだな」
龍彦は護の話に頷き、攻輔を見やる。目を合わせた二人は頷き合い、そのまま攻輔が口を開く。
「そうだなぁ。護、言いにくいんだけど……。はっきり言って今の護も、あのときの俺たちもなんでこの世界に来たのかはわからない。なんらかの理由があってここに飛ばされたのかもしれないし、ただの偶然なのかもしれない。何もわからないんだ。元の世界に帰る方法も、ね」
攻輔の言葉に、護は俯く。
元の世界に帰れない。それは、きっと――。
「護くん……」
道瑠の声に顔を上げると、全員が心配げに護を見つめていた。
「ごめん、護。はっきり言い過ぎた」
「あ、ううん、大丈夫。それより、みんなの方こそ大丈夫なの?」
帰ることができるなら、攻輔たちは既にそうしていたはずだ。彼らがいなくなってからすっかり疎遠になってしまったが、親や兄弟だっているのだ。護の憶えている限り、その仲は良好だったはず。帰りたくないわけがない。
「もちろん、てをこまねいているわけじゃないぜ。別の世界に渡る方法はあるし、それを改良して俺たちの世界に戻る方法は研究されてる。それに何より、もしかしたら近い内にもその方法が手に入るかもしれないんだ」
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