第一話 再会
だがそんな彼にも、人並みとは言い切れない過去があった。十年前、彼には幼なじみと呼べる間柄の友人が三人いた。
そして今、護の前にはあの日いなくなったはずの攻輔がいた。背はあの頃とは比べ物にならないほど高い。髪は短く切り揃えられ、整髪料で逆立てられている。しかしその、自信に満ち溢れたような快活な顔立ちは昔とそう変わらない。あの頃の攻輔のままだ。
「本当に、攻輔なの……?」
「あー、ちょっと待ってな。すぐ終わっから」
と、攻輔は右手を挙げて護を制止すると、そのままヘッドセットのようなものに手を当てた。今の彼は何やら未来的な装甲に身を包んでおり、どこかの兵士のような風体をしていた。
「こちら北条。現着と同時に一般人が鬼に襲われているところを発見したため、そのまま戦闘に入った。鬼の方は討滅完了。なお一般人の方は……。ああ、そのまさかだぜ四方ちゃん。『
*
その後、駆け付けた車両に保護された護は、走る車両の窓から外の街並みを眺めていた。高層ビル群に囲まれた大都会。最先端の科学都市と言った印象だ。空は暗く、夜の闇の中に星は一つも見えない。
なぜ自分がこんなところにいるのか、何が起きているのか。そして目の前にいる彼は本当に、護の知る北条攻輔なのか?
「護。不安だよな。わかるよ。俺たちもそうだったな。不安で、何もできなくて、どうしようもなくて……。でもまあ、ここはいいとこだぜ? さっきみたいな大変なこともあるけど、いい人ばっかりだしさ。それに何かあったとしてもさ、護。おまえは絶対、俺たちが守るよ」
だから気休めにしかなんないかもだけど安心しなって。と、攻輔は護の肩をポンポンと叩く。
やはり攻輔だ。昔と変わらない人の良さで、こちらを安心させてくれる。
「攻輔……。ところで、『俺たち』って、もしかして……」
「ん? ああ、そのまさかだぜ護。道瑠と龍彦もいるよ」
「そっ、か……。よかった……。みんな、生きてたんだ……」
「ああ。もう二人には連絡しといたから、この後すぐ会えると思うよ」
俯いて嗚咽を漏らす護の肩を、攻輔が優しく叩く。
そしてやがて、車両は一つの建物の前で止まった。それは三階建ての小さなビルだった。車両を降りた護は、攻輔の先導でビルに入っていく。
ビル内は入るとまず、広いロビーのような空間になっていた。木製の床に白い壁と、どこかマンションのような印象を受ける。
「こっちに談話室があるから、まずはそっちに案内するよ」
攻輔が指差したのは、入ってすぐ右手側のドアだった。
「ただいまー」
「おかえり攻輔くん! それと……」
攻輔がドアを開けると、中にいた美少女がこちらに駆け寄ってきた。長い栗色の髪が印象的な、瞳のパッチリしたセーラー服の少女で、護たちと同年代のようだ。
彼女は攻輔の後ろの護を見やると、瞳を潤ませながら抱き着いてくる。
「え、ちょ……」
「護くん……! よかった、生きてて……!」
「え、えっと、その……」
「落ち着け道瑠。護が戸惑ってるだろう」
突然のことに護があたふたしていると、低く迫力のある声がかかった。声の主はソファに座る大柄な男性だった。長めでクセの強い金髪が目を引く、ジャージ姿の彼は、立ち上がって護の前まで歩み寄ってくる。
「久しぶりだな、護。パッと見じゃわからないかもしれないが、龍彦だ」
「えっ? それじゃあ……」
護は自身に抱き着く少女を見やる。確かにそう呼ばれていたし、まさか。
「ああ。そのまさかだぜ護」
「久しぶり。会えて嬉しいよ、護くん。あたし、道瑠だよ」
はにかんだ彼女の笑顔が、確かに記憶の中の道瑠に重なる。
道瑠と言えば、護の中ではとんでもないガキ大将というイメージだった。友達に向かってとんでもないなどとは何事かと思われるかもしれないが、本当にそんな感じだったのだ。ただ、今は問題はそこではない。今でこそどこかの学校の制服なのだろう、セーラー服に身を包んでおり、ボディラインも女性らしくなっているのだが、当時はどこからどう見ても男子だった。
「攻輔も早めにフォローしてやれ」
「いやぁ、どっから説明したもんかなと思ってさ。護、道瑠のこと男子だと思ってたろ? 俺もこっち来てから初めて知ったんだよねぇ」
「おまえら……。道瑠は最初っからちゃんと女子だったろうが」
続いて護は、ため息をついて呆れる龍彦を見やる。そこにいるのは大柄で金髪という非常に目立つ存在だが、護の記憶にある龍彦はいつもおどおどしている気の弱い子供だった。護よりも小柄で、攻輔や道瑠に守られているのが常だったように思う。
それがこんなたくましい男性になっているとは。
「そういう龍彦にもびっくりしてんじゃね?」
「何ッ……!? そ、そうなのか護」
「え、う、うん。たぶん、道瑠より」
「ガッ……!?」
口をあんぐりと開けてショックを受ける龍彦。それがおかしくて、護はつい吹き出してしまう。
それに釣られてか、攻輔と道瑠も笑い出す。
「ははっ、またおもしれ―顔になってるよ龍彦!」
「う、うるさい! そんなに笑うな、おまえら!」
「ふふっ、久しぶりだね、こういうの」
口に手を当てて笑う道瑠が、護に目配せしてくる。
確かに。当時はこうやって四人で笑い合っていた。たくさん遊んで、たくさん笑った。未だに訳がわからないままだが、ここでならそんな日々を取り戻せるのかもしれない。
「楽しそうですね」
後ろから声をかけられたのは、そんな時だった。
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