【長編】ギア・クロニクル【連載中】

椰子カナタ

 

第一章 異世界転移

プロローグ

 気付けば、目の前に異形がいた。

 それは一言で言うなら鬼。二本の角を持ち、瞳は金色に光り、筋骨隆々とした肉体すら小さく感じるほど巨大な金棒を携えてこちらを睥睨する。


 東埜とうのまもるにとってこんな経験は初めてだ。いや、こんな事態に遭遇することなど誰にとってもあり得ないことだろう。

 いつも通りの帰り道だった。通っている高校を出て、いつも通りの通学路を歩く。そのはずだったのだ。


 故に、護は何もできなかった。鬼が金棒を振り上げ、それを護めがけて振り下ろしてくる様を見ても、護の足は、身体は、恐怖と混乱で微動だにすることはなかった。

 ただ、迫り来る死を受け入れる暇すらないまま叩き潰されるしかない。


 ――そのはずだった。


「……え?」


 護はいつの間にか瞑っていた目を開いた。

 異形の鬼が後ろに向かって倒れていく。地面に倒れた鬼の胸倉を踏みつけ、刀を持った少年がこちらを見やる。


「よう。大丈夫だったかチビ介」

「……こう、すけ……?」

「……まさか。おまえ、護か?」


 そう。これはかつて無情にも引き裂かれた二人の、新たな出会いの物語だ。

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