第33話徒歩は時間が掛かるのです
帝都上空にて改めて全体を見下ろしてみると、城壁で囲まれた帝都は五角形をしていた。
東城壁門は王都の方角を向いて建ててあり、北西城下町の城壁門を含め、二カ所から帝都に入ることができるみたいだ。
朝9時に総合学院生との大森林地帯討伐の待ち合わせ時間だが、宿から歩いて北西城壁門に向かうと約40分~1時間くらいかかる。
私の歩幅に合わせて行くと時間が掛かるだろうと、ミリーとユラを待ち合わせ場所の北西城壁門へと先に向かってもらった。
ただ朝早く起床できなかったわけではないと、1人言い訳しつつ空から行けば5分~10分もあれば間に合うと自負した結果、城壁門の外に全員集まっているのが見えた。
「俺はブレウ・ソートって言うんだ、よろしく頼むぜ」
「・・・ユラ・ブライト、よろしく」
自己紹介の最中みたいで時間的にはちょうどよかったみたいだ、この世界でも5分前行動の概念があるのかとも思ったが・・・単純に誘った側が遅れるわけにもといった感じなのだろう。
「私はレナ・グレイス・・・・・・あれ、フィオナはどうしたの?」
「後で来ると宿で言っていましたけれど・・・また寝入ったとかではありませんわよね・・・」
「なんかポーッとしてる子だったよね、レナの言う凄い魔導師には見えなかったっていうか・・・」
みんなの傍に立っているのに何故かスルーされてるなと思ったが・・・宿から飛行する前に展開した全方位バリアー、それと合わせて付随させている光学迷彩はしっかりと効果がでているらしい。
「ミリーさんの後ろで物音がした気がしたんだけど・・・気のせいかな」
なるほど、音を遮断するイメージも再現できたら完全なステルスが可能になりそうだなと思いつつバリアーを外す。
「お待たせしたのです、ポーッとしてるつもりはないのですが」
急に話に混ざったからか驚かせたよう、全員が一瞬身構えていた・・・人の視線が集中するのはこちらもドキッとするのだった。
城壁門から北に向かうと大森林地帯なのだが、徒歩でいくと軽く3時間くらいかかる距離だった。
これを近いととるか遠いととるかは体感次第だろう、大森林地帯行きの馬車がないので移動手段は必然歩きになる。
ミリー達と合流する前に遠目でみた大森林は広大で、軽く帝都の6倍くらいはあるだろう。
アーシルに行く際はここを抜ける必要があり、迂回しようとすれば山岳というおまけ付きだ。
「大森林は行くまでも時間かかるが、問題はそこからだもんな」
「雑草は少ないから足を取られないけど・・・見通しがいいわけじゃないもんね」
長杖を持ったルミは支援をする関係上、仲間の位置を把握をする必要があるのだろう。
手入れ抜きで雑草が少ないのも珍しいが・・・木々に栄養が吸われて生えきれないとかだろうか。
「そういえば、一際大きい木がそびえ立っていたのです・・・森を眺めようとしても木に目がいったのです」
大森林の中心に大樹がある・・・もしかするとあの木がそうなのだろうか。
「ディオール大樹だよ、あれを中心に一定距離近づくと魔力が使えなくなるね」
レナが左目を瞑りながらざっくり説明をしてくれたのだが、軽く言っているもののそれってかなりマズいのではないか?
「レナ、使えないは言い過ぎだよ・・・魔力を吸われるから術式の構築が困難で魔導師には厳しいんだけどね」
内気魔力までは吸われないようだが、体外に放出されている辺りから大樹が干渉してくるようだ。
「俺の高速詠唱も少し使いにくくなる、森の中心を避けて討伐が基本になるかな」
各々道すがら会話が弾んでおり、行きはピクニック気分だが、内容的には軽く討伐とはいかなさそうである。
あくまでディオール大樹がある中心付近に近付かなければ影響もないみたいだが、魔導師組は注意したほうがいいだろう。
「それはそうとフィオナ、さっきのあれは何ですの?」
ミリーが私に話しかけてくる、さっきのというのは光学迷彩のことだろう。
「ステルスバリアーなのです」「はい・・・?」
仕組みは複数存在するらしいが、私の場合は全方位バリアーに周囲の景色を反射して同化させるイメージで展開している、再帰性反射材がどれかもわからないので無理矢理周囲に景色を認識させるものと説明してみる。
「それは・・・再現のしようがないですわね。それって龍族の島で使われてるものにかなり近い所業ですわよ?」
「・・・気配も感じなかったからね、驚いたよ流石に・・・」
ユラでもそんなにびっくりするとは、正直な話、帝都でバレずに飛行して楽をしたかっただけ・・・とは言い出せなかったのだった。
私の場合は冗談で燃やすと言っていたのだが、視界に入る木々が次々と薙ぎ倒され・・・今現在、森林伐採が行われていた。
正確にはミリーに向かって飛んできた虫型の魔物を中級魔導術、ウインド・カッターの余波が木ごと巻き込んでるといった感じだ。
「・・・援護しようにも、私ごと真っ二つにされそう」
ユラはミリーの背後に立ち、刀を抜かずに鞘の触媒結晶を光らせ、ライトニング・バレットでの遠距離戦に切り替えている。
「やべえな・・・トール、あれって中級魔導術じゃなかったか?」
「ウインド・カッターっぽいけど・・・あんな速度で連発できるような術式じゃないよ・・・?」
高速詠唱の使い手からみてもあれは相当らしい、やはり虫型相手で精神的な余裕がないようだ。
逆を言えばミリーの方向を気にせず戦えるともとれる・・・国級の魔導師が魔力切れを起こすことは少ないだろうが、過剰に使い過ぎな気がしなくもない。
「ユラさんって近接職・・・だよね、ライトニング・バレットの無詠唱なんて・・・」
ズバァァァンッ バリバリッ
「ほいっと・・・そっちいったよー?」
レナの槍捌きも流石はミスリルの冒険者といえる技術だ、前方の虫型を貫き、背後に迫る鳥型を振り返りもせずに背中越しに槍を横に払い真っ二つにしている。
私の方に向かって飛来してくるのはミリーと本で確認した溶解液を吐く奴だ、毛虫に羽が生えたような人のサイズの虫型・・・あれは狂気である。
これはミリーでなくとも好かれにくい見た目であろう・・・この距離で撃つとそのまま慣性でこちらに飛んできそうなので岩塊を当て遠ざけ、その岩塊を燃やし虫型を焼却する。
「以前に見たやつとは微妙に違う・・・?」
レナが私の攻撃を見て呟いている、以前というのは合同戦の時のことだろうか。
「レナ!そっち行っ・・・」
レナの右側からきた虫型を槍の刃のない石突部分で突き飛ばし、直後くるっと槍を持ち替え刃で貫く・・・?。
今の動作も殆ど視線を合わさず当てたのもそうだが、その刃先で突き刺した時が少し妙な感じだった。
槍自体は届いてなかったように見えたのだが・・・虫型には風穴が空いていた、ふと思わず魔力の性質を視てみると・・・
レナの体を覆う魔力は紫色だが、槍に通っている魔力の色は白く光っていたのであった。
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