第32話苦手なものは・・・

 帝都の北西城下町は商業が盛んな町のようで、建物に様々な看板が立て掛けてある。

 3階建ての一棟に3つの看板がある所も、それぞれの階で別の品を取り扱っているようだ。

「東城下町ともまた違った賑わいなのです、そこはかとなく都会の空気感に似ているのです」

 東城下町のおもてなし感とは違い、この北西城下町は物売りの圧が少し強めだ。

「王都の下層街にも少し似てますわね、市場のほうは一般の方も多いですわね」

 図書館でレナ達総合学院生と別れ現在は5時くらいだが、この世界では夕方と言える。

 7時に太陽は沈み月が登り始めるが商業地区のこの町は飲み屋街の側面もあり、あと2時間経てば夜の町に変わるみたいだ。

「鉱石加工のお店は・・・あったのです」

「もしかしてまた鉄板ですの?今度は何を作るおつもり?」

 ジオの追加パーツ、というより武器っぽいものを作ろうと思っているが、これには一応理由もある。

 アーシルに行くまでに装備なり何なりと整えるのもあるが、万が一を考えディオールの杖をミリーに渡した時、自分での手持ち武器を増やしておく予定である。

 大森林地帯までなら必要にはならないかもしれないが、魔海にいるのを相手にする際はミリーも上級魔導術を使う時がくるかもしれない。

「それに専用装備はあったらかっこい・・・」

「ユラ達がいますわね、あの通りですと北東城下町からここまで来たみたいですわ」

 アイリとリアに振り回されたのか疲れた顔をしたユラがこちらに気が付き、私達の方に歩いてくる。

「・・・2人もこっちに来てたんだね、何を見てるの?」

 ミリーが指差す方向を見て、察したユラが軽く頷いたのだった。


 宿屋1階の食堂で食事を済ませ、3階の部屋に戻る。

 階段から奥の両脇が私達が使う部屋で左手が私とリア、右手がミリーとユラにアイリ3人が使っている部屋である、今集まっているのは3人の部屋である。

「色々映像投射器で撮ってきたよ!」

 アイリが自分のベッドに飛び乗りながら3枚の黒いカードを入れ換えている、映像を記録するカードは1枚1時間程度の容量・・・3時間はあちこち撮り回っていたのだろうか。

「・・・東城下町で1枚、北東城下町で2枚くらい使ったね」

「総合学院の教師の人が撮影許可をくれたんだ!フィオナ達も見てみる?」

 この撮影時、私とミリーがいた図書館で一緒だったレナ達の実力の程は見れそうにないが、帝都の学院生の力量は確認できそうである。

 3つの棟の間の低くなっている地表に訓練用の広場があり、そこで学院生達が実技の訓練をしているみたいだが・・・

「ユラも訓練に混ざっているように見えますわね、誘われましたの?」

「・・・刀を使う冒険者は珍しいとかで是非にと、お陰で疲れた」

 2人に連れ回されただけの疲労ではなかったみたいだ、映像から見られるユラの剣技は華麗でありつつ軽く慣らしている程度のようだ。

「お主らは図書館に行くと言っておったな、何か必要な知識でもあったかの?」

「大森林地帯の魔物の情報を・・・虫型が多種・・・想像するだけで憂鬱ですわ」

 ミリーは都会っ子によくある虫嫌いの気があるが、田舎暮らしでも苦手な物は苦手だから致し方ない。

 苦手なものを克服するより、得意な事に集中したほうが早いとはいえ・・・避けては通れない事もあるだろう。

 害虫と呼んでいるのは人間側の都合で、傲慢なのは分かってはいるが、久しく見ていないあの黒い奴も別に人を攻撃してくるわけでもない、一方的に駆除しているけれど。

 この世界の魔物もただ生きてるだけなのだろう・・・申し訳ないがこちらの都合で退治させてもらおう、と散々好き勝手狩っておきながら今更な事を考えるのであった。


「・・・図書館で総合学院生に絡まれた?」

「少し語弊がありますわね・・・フィオナが声を掛けられたという話ですわ」

 総合学院の訓練に混ざった話から、私達も図書館で会った事からレナ達の事を伝える。

「・・・他の学院生の中でも、そのレナって子がいるパーティーの話が出てた、かなり強いらしいよ」

 どうやら帝都の学院では有名だったらしい、短杖を持ってたトール・クロキスは高速詠唱の使い手、長杖を扱うルミ・プロクは回復と防御の魔導術が得意。

 剣士のブレウ・ソートは体捌きでの技術、そして・・・

「学院生でミスリルランクになってるって凄いね、どんな魔物討伐したのかな?」

 レナ・グレイスは総合学院に通っている期間でミスリルランクに到達している槍使い、思っている以上に強いよう。

 魔力の性質くらい視ておくべきだったか、とは言え別に敵対するわけでもないから問題はないだろう。

「ジオでもミスリルなのに凄いのです、帝都周辺だと・・・大森林地帯の魔物の討伐ですかね?」

「ジオに関しては体裁もあるでしょうから、本来ならディオールやドラグーンに認定されてもおかしくないのですわ」

 明日の討伐に誘われているが、別に私達が手伝う必要性もなさそうに思えるが・・・。

「私(わたくし)とフィオナを誘ったのは別の理由だと思いますわ、合同戦の事を知ってるみたいですし」

「合同戦を観に行ったのは学院をサボる口実だったのか・・・単純にミスリルランクの余裕なのか・・・謎なのです」

 まあ学校は仮病で休むに限るのだが、病気で休んでも何もしようがない。

「それはそれとして、ミリーはよかったのです?大森林の魔物は強い弱いの問題じゃなさそうなのですが・・・」

「いずれは通る道ですわ・・・部屋も借りてる以上、共和国まで行ってアーシルに向かうのも遠回りになりますから・・・」

 ちなみにアーシルには共和国側から行けば大森林地帯を避けていけるよう、下調べ不足だったと言えるだろうが・・・紹介してもらった手前宿のキャンセルも申し訳ない・・・という言い訳を誰にするでもなく。

「・・・私もついていこうか?ミリーの護衛として」

「そうですわね・・・・・・お願いしますわ、用心に越したことはないですもの」

 アイリも一緒についてくるかと思ったが、総合学院の訓練に誘われているらしい。

「森林地帯をいっそ焼き払う・・・はやめたほうがいいです?」

「そんな事をすれば、住処を失った魔物が帝都に殺到しますわよ・・・」

「・・・フィオナの炎の槍の掃射なら・・・できなくもなさそう」

 冗談で言ったつもりなのだが、本気でやりかねないと思われてしまったのだった。

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