第30話解毒の基準とは
宿三階の部屋の窓から皇城、闘技場、神殿が見え、東城下町の明かりがイルミネーションのように光っている。
こうして上から眺めてみると帝都はかなり広く、東城下町からカフェ・フレイアに行くまでに一時間くらい掛かったのも頷ける。
「王都とは違い坂道がありませんわね、移動が少し楽に感じますわ」
「昔に比べ随分広くなったものよな、しかし城壁を建てるとこれ以上広げられないじゃろう」
人口が増えると土地面積が必要になりそうだが、帝都の外にも村があるのだろう。
王都の時みたいに空から俯瞰して・・・・・・
「帝都で飛ぶのはやめておいた方がいいですわね、王都民のように周知されてるわけではないのですから」
あまり噂されるとアーシル送りされてしまうだろう、逆を言えばディオールの杖もしくは飛行しなければ私は冒険者という認識もされにくいよう。
「あれ、そういえばフィオナ、杖はどうしたの?フレイアに忘れてきた?」
どうやらアイリは気がついてなかったようだが、大して重要な事でもないので軽く説明した。
「家の横に建ててもらった物置に送ったのです、こんな感じなのです」
屋上で洗濯物を干すようになって使われてなかった小さな庭に、父ノルスが作ってくれた物置をゲームでいうインベントリのように使わせてもらっている。
そこに全身鎧や杖を保管しているが、文字通り物理的なスペースなので適当に転送するとすぐに圧迫するだろう。
「え、帝都からでも呼び出せるんだ!?じゃあフィオナ自身もいつでも帰れるの?」
「肉体は無理みたいなのです、母様から貰ったディオールの杖も帝都では目立ちそうなので・・・外に出たときにでも転送するです」
普段は腰に下げてる短剣入れくらいに済ませている、短剣の取っ手を取り付けたフィンガーグローブも今は物置にある。
「・・・短剣6本も変わってる気がするけど、予備で持つにしても精々2本くらいじゃない?」
「盗まれるような事があると仮定して・・・刃先がないから意味はないですものね」
魔導師が普段から、杖を持ってないことに関して誰も突っ込むこともなく・・・・・・部屋分けをしてそれぞれ就寝するのであった。
リア曰わく魔海にいるであろうコーザル体に動きはないとの事だが、下手に刺激してもろくなことにならないだろう、ということでしばらくは帝都を散策することになった。
龍人貴族が結界のアーティファクトを管理している恩恵もあり、帝都は意外にも平和だった。
勝手な印象だが、もっと荒くれ者が多いのかと思っていたが割と穏やかな国だ。
「因みに盗賊っていないのです?」
「どうしましたの急に・・・王国圏内では見かけませんけれど・・・」
近隣の村が襲われたり、などというと不謹慎かもしれないが、異世界にきてそういう輩に出くわしたことがないなとふと思った。
「・・・冒険者に憲兵、騎士団もいるから下手に問題は起こせないんじゃない?」
「国が守ってくれるからこそ、問題も起きないということですかね・・・裏社会を生むのは精神性が貧しくなるからかもですね」
自由には責任が付き物だが、最低限の統制で問題は最小限に止めれるものだろうか。
人は見られてない時ほど本性を現すものだが、盗賊があまりいないということはそれだけこの世界の人達が誠実なのだろう。
「フィオナは盗賊に何か恨みでもあるんですの・・・裏社会がどうとか、意味不明ですわ」
「何でもないのです、私は特に善悪など興味はないですし・・・立ち位置と主観の差でしかないのです」
正義も悪も本質的には大差がないことはよく知っているが、殊更気にすることでもないと、私達はカフェ・フレイアに向かうのであった。
2日目にして指定席みたいになった窓際の席で店内を見回すと、お客の入りは上々・・・現在12時くらいだが満席にはなっていないタイミングだった。
「皆さんいらっしゃいませ~連日ありがとうございます~」
ノアがお冷やを持ってテーブルに置くと、カウンターのお客にパンケーキを出しているフィアさんが見えた。
「冒険者とは違う大変さがあるのです、これもまた1つの戦争なのです」
「さっきからフィオナはどうしましたの・・・我が家が恋しいとかですの?」
力でどうとでもなる冒険者はある意味楽なのかもしれないと、感慨に耽っていたせいか口に出てしまった。
「妾は昨日のを貰おうかの、あれは癖になるのじゃ」
よく見ればカウンターでパンケーキ食べているのは昨日の龍人の男性だった、昼もパンケーキなのだろうか・・・甘味類は龍人を依存させやすい食べ物なのかもしれない・・・それこそ人も大差ないか。
「私ステーキで!」
「タンパク質は重要ですが分解酵素も・・・人の構造が同じとも限らないですし、私もまだ頭が堅いのかもなのです」
「・・・今日のフィオナ、特に独り言多くない?」
ブロテアーゼがどうこうと、この世界で科学的に見たものなど、理自体が異なるかもしれないのだから考えても意味はなさそうだ。
「私(わたくし)はこのポモドーロというのにしますわ」
「ぽ、ポモドーロ??パスタのポモドーロなのです?」
昨日はパンケーキに意識を持っていかれた為気がつかなかったが、メニューを改めて見ると既知の料理名が並んでいた。
ノアが注文を聞いていたが、少し驚いた顔で話を返してくれた。
「共和国で最近流行ってるらしいんですよ、お客様が教えてくれたんです~」
食文化まで侵食していくのは・・・このパンケーキもそうなのだろうか。
「というよりトマトもあるのですね・・・王都では見かけなかったのです」
王都はパンみたいなのが主食だからありそうなものだが・・・転生した先が共和国や帝国だったら異世界という認識が薄まっていたかもしれない。
フレイアでの食事後私達は一旦解散し、ミリーと2人で図書館に来ていた。
「帝都の図書館も立派ですわね、フィオナも無理につき合わなくてもいいですのよ?」
特に行く宛もなかったのでミリーについてきたのだが、学院の時の私を見ているからか・・・本が嫌いに思われているようだった。
「勉強以外での本は別に嫌いではないのですよ・・・?読むのは遅いですけど」
怪訝そうな顔でミリーが私を見ていた・・・そこまで勘ぐられるのは心外である。
ミリーは読書家でもあり、私の家にいるときも最低1冊は本を持ってきていた。
「で、因みにどんな本を読もうと?」
「あの・・・本棚を見てからで・・・」
とりあえず入りましょうと図書館へと足を踏み入れると右手に受付があり、そこで入館料を払うようだ。
「帝都周辺の魔物図鑑はあります?」
どうやらミリーは魔物のことを調べるつもりだったようだ、私も気になったのでミリーについて行くことにした。
「三階の・・・・・・ここですわね、フィオナは私(わたくし)と一緒に読みますの?」
「ミリーの魔物図鑑を眺めつつ、少し魔導術関連の本を読もうかと・・・」
卒業する前に読め・・・みたいに考えてそうなミリーの表情だが、魔導術の効果確認をしようと思っただけである。
「う、やはりといいますか・・・大森林地帯は虫型が多いみたいですわね・・・そんな気がしておりましたわ」
なるほど、以前ユラとアイリで王都外の森林地帯についてこなかったが・・・今回は避けて通れない可能性があると。
「ミリーの場合、中級のウインド・フィールドを張っておけば大丈夫と思うのです」
合同戦で自分を中心にエア・ストームを発生させて、自身はウインド・フィールドでの保護ということができていたのだから余裕だろう。
「フィオナは魔導術の何を調べておりますの?」
「解毒とか状態異常の魔導術があるのかなぁと・・・どの本を見比べても、回復魔導術しかないみたいなのです」
調べてみようとしたのは割とどうでもいいことなのではあるが、生物は摂理的にどの成分であろうと『直接』作用させれば毒としても機能する。
直接糖でも同じ作用をもたらすなら、体内に取り込んだ際に解毒の魔導術を発動させると機能するのか?みたいな。
術式を再現できないからあったとしても私では展開できないが、依存もしくは中毒もその仕組み自体変わらないのだからできるのか少し気になってしまった。
「フィオナの言ってることはたまに・・・往々に意味が分からないのですわ・・・」
「解毒したら砂糖の甘さも消えるのか気になったのですよ、そうなると体内で精製物質の作用中に使おうものなら人体丸々分解しかねないですが・・・」
覚醒剤も人には必要な物質のドーパミン(表記上では別の物質名だが)を直接打ち込むから理性が飛ぶわけだが、かといってそれ自体が毒物というわけでもなし・・・純度の高い精製物質は生物にはどれも毒と言えるが。
異世界でも依存の法則は変わらないだろうから、毒の基準はやはり難しいよう。
故にこの世界の回復魔導術は自己再生力を高める効果なのだろう・・・ピンポイントに奇跡など起こせない現実を突きつけられた気分である。
龍人の強力な回復魔導術は魔力の性質によるものなのだろうか、人族の回復魔導術でも即死しない限りは一命を止めれる力があるし。
「注意すべきはこの溶解液を使う虫型ですわね・・・風で弾くとなると周りも危険ですわ」
「ジオの鎧に当たったら修復するのが面倒なのです、最優先で倒すのです!」
溶解液を内包してる魔物を近距離で倒した場合・・・と考えたら改造短剣も飛ばすのは止めておこうと心に決めておくのだった。
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