第28話異世界に異世界の食べ物があったのです

 帝都ヴェルガリアは龍族信仰で有名な国だが、龍族が仕切っているというわけでもなかった。

 この国の貴族には上位の龍族が多く、てっきり龍族に従属している印象を持っていたのだが、皇帝は人族であり建国後からずっとその血筋だそう。

「王都とはまた違う賑わいですわね、・・・フィオナもすぐ何か買おうとするのは控えなさいな」

 特にそのつもりはなかったのだが、城門前の露店で買い食いした結果、先に釘を刺されたようだ。

「・・・龍人が串焼き露店出してる・・・」

 ユラが行列のできている露店を指さすと、確かに龍人特有の角を生やした女性が串焼きを客に渡していた。

 貴族ではないのだろうか?・・・人の姿になれる龍族は種族全体でも上位の存在ではあるはずだが。

「帝国には結界のアーティファクトがある、それの維持をしてるはずじゃが・・・まあ全員が担当してるわけでもないからの・・・趣味の一環であろうな」

 リアもそうだが、長寿な種族は基本的に暇を持て余しているらしい。

「とりあえず何か食べに行かない?お店どこにあるか分からないけど!」

 ここは帝都東門から入ってきた東城下町らしいが、王都みたいに東西南北に城壁門があるわけではない。

 王都の下層街のような空気感で露店から宿場等、外から来た人達に商売しているのが東城下町みたいだ。

「龍人さんの露店の買い食いで済ませ・・・」

「却下ですわ、少し話を聞いてきますわ」

 最後まで言わせてもらえずミリーは町の人に話を聞きにいったのだった。


 ミリーがざっくり聞いてきたおすすめの店は南西城下町にあるカフェテリアらしい。

 カフェテリアと言ってもどちらかといえばカフェ&レストランと言った感じだそう。

「カフェ・フレイア・・・何か強そうな名前なのです」

「気持ちは分からなくもないですけれど・・・・・・帝都の中でも有名なお店みたいですわ」

 帝都で初めて開店したのは20年前らしいが、じわじわ浸透していき3年で人気店になったらしい・・・口コミの影響力もあるだろう。

 業務用の冷蔵庫とか異世界にはなさそうだから大変そうである。

「そういえば家にもあったあの保冷庫・・・冷蔵庫並みの機能があったのです」

 元々この世界で普及してたものにも見えないがやはりクルス商会だろうか、科学無双してる人が既にいるのは生活する側には助かる話だ。

「携帯型保冷庫は行商人がよく扱っておりますわね、食材の品質が向上してなによりですわ」

 まあ前世みたいに添加物認可数世界一などでもない限り、生鮮食品は温度管理くらいないと厳しいだろう。

「フィオナが食べていたのを見たらおなか空いてきちゃったよ!そのフレイアってどこにあるのかな?」

 二階建てで一階がカフェ&レストランらしいが、周囲にそれらしいのはあったが違う名前だ・・・喫茶街の側面もあるのだろう。

 と、城壁沿いに一軒それらしい建物が見える、この帝都の敷地内では珍しい小さな菜園が隣にある雰囲気のいいお店だった。

「あそこがそうかもです、ほのかに甘い香りがするのです」

 肉の香ばしい匂いとは違う甘い香りも、食欲をそそるのであった。


 入り口前にある5段の階段を上がるとすぐ横にテラスがありテーブル1つに椅子が3つの1席、制服姿の少女3人が楽しそうに話していた。

 帝都の学院生だろうか、よく見ると2人は剣を携えているが1人は短杖だが同じ制服のようだった。

「・・・帝都は総合学院だったね、王都もそうだったらフィオナとミリーと一緒に通えたのかな」

 合同戦以降ずっと一緒にいるものだから、学院が別だったのを忘れそうになる。

 同じ学院で通うのも楽しそうなのだが、勉強漬けはごめんである。

 過ぎた時間を気にしても仕方ないことだとカフェの扉を開けると、テーブル6席にカウンター5席が目に入る。

 カウンター端の龍人の男性が優雅にコーヒーを飲みながら、テーブルにパンケーキのようなものが見える。

 天敵の少ない種族が1番平和ボケしてるんじゃないだろうか・・・力による圧政よりは断然マシだが。

「いらっしゃいませ~カフェ・フレイアにようこそ~」

 ウエイトレスの少女が陽気に出迎えてくれた、緑髪のボブカットがよく似合う少女だ。

「5名様ですね、窓際の席にどうぞ~」

 特にリアを特別気にしない事からやはり龍人の常連も多いのだろう、なれた様子で席に案内しお冷やを取りに向かっていく。

「ふむ、王都とは違い龍族信仰の国じゃからな。周りもそれ程視線を送ってはこないのう」

 龍人と一緒にいる私達の方が逆に視線を感じるくらいだ、帝都内に入る前にディオールの杖は転送しておいてある私よりミリー達に視線は送られてるよう。

「王都では見ないメニューがいっぱいある!どれにしようかな~」

「あ、やっぱりパンケーキがあるのです!見間違いではなかったのですー」

「こういうところはやはり姉妹ですわね・・・」

 王国産小麦使用なのに王都にはなかったこの気持ちはなんたるや・・・別にパンケーキが好きと言うわけでもないのだが。

 前世でホットケーキとパンケーキの違いが分からない程度に食べたことがないが、初めてが異世界でというのも複雑な気分である。

「仲がいいですね~姉妹ですか?お冷やどうぞ~」

「ありがとうなのです」「・・・どうも」

 ユラが控え目に礼を言う、近い年齢との初対面の相手は少し苦手なようだった。

 合同戦の時には普通に話してたが、実は割と人見知りだったのかもしれない。

「学院生の方ですか?あ、でも制服じゃないですね~」

「私(わたくし)達は王都から来ましたの、露店の龍人の方からおすすめされましたわ」

 マースチェルさんですね~、どうやら顔なじみのようだった。

「私達冒険者として帝都にきたんだー、あ!これにしよう!」

「私はパンケーキにするのですー、人生初なのです」

「ふむ、妾もそれにしてみるかのう」

 それぞれ注文をして復唱すると、ウエイトレスの少女が名乗る。

「ノアっていいます~今後もご贔屓に~」

 厨房の方へと注文を伝えに行くのを眺めながら改めて内装を見回す。

 窓際も2つあり私達のいる席は店正面を映し、もう1つは店の横に菜園が見える。

 外にあるテラスに学院生のグループと私達の隣の席には冒険者っぽいグループと客層も様々、この時間は学院生もそこそこ多いみたいだ。

「この時間は学院生も来るみたいですわね、総合学院は反対側の北東城下町に位置しているようですけれど」

 帝都全域は広大だが、6時の時点で学院生が来店しようとすれば5時くらいで授業が終わらないと厳しそうだ。

「学院生の方達には贔屓していただいてます~私は家業を継ぐことになるので通っていないんですけど~」

「・・・1人で接客大変そう、訓練の一種に等しいかも」

 テーブル2席とカウンターが3席空いてはいるがピーク時で1人は大変そうだ、ここから厨房の方に2人の人影が見える、3人で切り盛りしてるのだろうか。

「お姉ちゃんも接客してくれるので大丈夫ですよ、今は配達に行ってますけど・・・・・・」

 からんからんと扉から音が鳴り、籠を持った女性が入ってきた。

「予定より少し時間掛かったね、ノア忙しかっ・・・・・・!」

 その女性は私達を見るなり、少し後ずさりしながら右手を腰に手を当て一瞬だけ構えを見せる・・・が、はっとしながら姿勢を正した。

「失礼しました・・・魔力に少しびっくりしてしまいまして・・・」

 ピンク髪のロングヘアーで、スラッとした綺麗な女性だった。

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