第27話帝都到着なのです

 ギルド食堂前には大きな通りがあるが、先日の戦闘でできたであろう穴の補修作業等で様々な人達が行き交っていた。

 ギルド自体はどの国も24時間の交代制らしい、この中間村のギルド食堂のモーニングで朝もそれなり人が集まるとのこと。

「ギルドにしては冒険者以外も利用するのですね・・・市役所の食堂みたいな感じなのです」

「急に何を言っておりますの・・・?」

 ギルドではあるが今朝は食堂で補修作業していた村人が食事を取っていた。

 最近では村人の溜まり場になりつつある食堂で食事をしながら見渡していると。

「駐屯騎士が言ってた空飛ぶ魔導師は嬢ちゃんだったのかい、帝都には冒険者としていくのかい?」

「帝都って観光で行く人もいるのです?個人的に軍事国家のようなとこかと・・・・・・」

 帝国といえば皇帝の元に集う厳格な国、というイメージを持っていたのだが、歴史を習った時には傭兵国家アーシルがその位置付けだった。

「卒業した途端忘れるの早すぎませんこと・・・龍族信仰の国、この辺りまで忘れてはおりませんわよね?」

「・・・フィオナは歴史苦手なんだっけ?私も詳しいわけではないけど」

「まあ今は建国祭関連でそこそこ賑わってるだろうさ、お嬢ちゃん達も参加するんだろ?」

 飲み会モードではないおじさんからよく分からない話が飛び出していた。

「参加する・・・とはどういう意味ですの?」

「ああ、なんでも来年の建国祭は500周年の記念式典らしくてな。冒険者も参加できる闘技戦を行う予定だったらしいんだが・・・」

 アーシルでの魔海の魔物の件で議論が行われており、開催するかは未定らしい。

「アーシルでの件次第では闘技戦も行うだろうから、嬢ちゃん達も開催されたら優勝を狙ってみるといいさ」

 建国祭やら闘技戦、魔海の魔物と随分と忙しない状況での帝都訪問になりそうだった。


 中間村まで来たときの馬車はずっと幌上に乗っていたが、その時一緒に乗っていた2人の冒険者は中間村の護衛依頼で残るそう・・・ディオールの杖はやはりスペースを取る。

「さっきのおじさんの言ってた闘技戦、楽しそう!」

「・・・魔海にいる大物の魔物がいると開催されない、みたいにも取れたけどね」

 中間村でも魔海に出現した魔物がどういう姿なのかは聞けなかった、大物というからには巨体を誇る怪物なのだろうか。

「昨日リアさんが言ってましたわね・・・そのコーザル体というのに戦力を集めてどうにかなりますの?」

 リアの話した通りなら少なくとも、古龍ヴェルガリアの次にヤバい存在のはずだが、人族側が確認してることで判別がしにくいのである。

「リアはアートマ体ですが私達にも見えるのです・・・これは何故なのです?」

「簡単な話じゃ、物質界の現象として見せてるだけのこと、魔海にいるコーザル体は現象化してもいないはずじゃが」

「逆を言えば、リアも本来のアートマ体に戻せば私達が観測できない状態になると・・・」

「・・・フィオナの知識って偏ってるよね、この話には自分からついていってるし」

 人間とは興味があるものは自然と覚えるものである、知能がある故にその好奇心で破滅することもあるから一概にいいことでもないが。

「勉強とは違うのですよ、勉強とは・・・・・・」

 ミリーが考え込んでいたが、はっとした顔で私を見ると・・・

「フィオナの魔導術・・・・・・もしかして魔力ではなくコーザルというもので発動させている事になりませんこと?」

「今更隠してても仕方ないかもしれぬぞフィオナよ?」

「隠したつもりはないのですが・・・寧ろ魔力が使えないからコーザル領域の力を流用していたのです・・・リアに会ってから知りましたけど」

 簡単にいいますわね・・・と言われてもそうとしか言えなかった。

 これが魔力っていうのを実感できていないのもそうだが、魔力が使えない魔導師、なんて字面だけだと残念な事この上ない。

「合同戦の時、ユラにライトニング・バレット擬きも水の槍も弾かれてるので、コーザル体に効くのかも怪しいのですが」

「あれは擬きだったんですの・・・言われてみればフレア・ランスも炎の槍と呼んでますわね」

 天才の目であっても原理が違うものを認識できたわけではないらしい、外気魔力を利用した独自の魔導術も当たらずとも遠からずではある。

「卒業前に王様から魔海の事を聞いたのですが、それ前から確認されているのを考えると・・・随分何もしてこない魔物なのです」

 あまりこちらに追求されても困るので少々強引に話を変える。

「・・・それだけ時間が経ってるなら抗戦にはいってそう、でも・・・」

 普通の海ではなく魔海にいるのが問題なのだろう、船で海上にもでられない状態で戦闘を行うのは厳しい。

「向こうから攻めてこない限りは下手に刺激するのも得策とは言えませんわね・・・位置によっては魔導師でも手が出せそうにありませんわ」

「・・・魔海は魔力が満ちてるって学院で習った、足先に集中させればいけるんじゃない?」

「確かに可能でしょうけれど・・・それだと攻撃に回す分も足りないかもですわ、魔海から出現する魔物は上陸後に迎撃が基本になりますから」

 足先の魔力操作をミスればそのまま魔海に引きずり込まれると、討伐隊が編成されても無理に攻める事は自殺行為にも等しい。

「・・・ギルドで話を聞いた方が早いと思う、帝都までまだしばらく掛かりそうだし」

「ふむ、それにしても人族は毎回こんな移動をしておるのか・・・こういうのもまたよきじゃな」

 悠久の時を生きるリアからすれば急ぐ旅である必要はなさそうであった。


 王都から旅立つこと9日、帝都の城壁が見えてきた。

 馬車の移動は特別早いものではないが、国の移動期間的には寧ろ9日で済むのは比較的距離が近いとも言えるかもしれない。

「城壁が見えてきたよ!王都より高く感じる!」

「400年前には城壁はなかったのう、まああの時は作ってる余裕もなかったんじゃろうな」

 王都は地上からでも上層や王城が見えていたが、帝都は城壁で城の頭部が見えるくらいだ。

 城壁が高いというより王都のような山形になっていないことで地表の高さが違うのだろう・・・縦ではなく横に広い地形のようだ。

「・・・城壁の外に露店があるね、城下町にあるものじゃないの?」

「お嬢さん達帝都は初めてかい?と言ってもあの露店はここ数年に出し始めたって話だよ」

 馬を引いている青年が言うには、人が行き交うことで城下町の外で帝都に戻ってきた冒険者や旅人に商売しているとのことだ。

 採算が取れるのかは知らないけれど、チェーン店みたいなフランチャイズかもしれない・・・それはそれとして。

「あら、フィオナがいない・・・露店に飛んでいったみたいですわね・・・」

 いきなり空から行くと面倒な事になりそうなので手前で降り、露店に駆け寄る・・・酒は飲まずとも焼き鳥の匂いは食欲をそそるものである。

「お姉さん、とりあえず5本ほど買いたいのですが」

 移動が可能な屋台のようだ、若い男女の1人に声をかけてみる、焼き鳥・・・串焼き?を焼いてる男性と屋台前に立っている女性、夫婦だろうか。

「お嬢ちゃん1人?子供が外を出歩くのは危ないわよ?」

「ん?でっかい杖みたいのを持ってるが・・・・・・冒険者かい?」

 ギルドカードを見せつつ冒険者であることを告げ、いくらか聞いてみる・・・この世界の通貨は金、銀、銅の硬貨が主流である。

「その年でゴールド・・・・・・ああ、王都からきた冒険者が言ってた小さな魔導師って君のこと?」

 魔導師の能力より先に背の低さが先に出てくるのも複雑な気分ではあるが、無駄に疑われるよりはマシか・・・串焼き美味いな。

「フィオナはホント買い食いが好きですわね、帝都に着いてから食事は摂ると言いましたのに」

 馬車から飛び降り、私の方に駆け寄るミリーに手を振りつつ城壁を見上げる。

 帝国という厳格で物騒なイメージも、露店の人と話していたら薄まっていたのだった。

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