第26話力には力でした

 ザシュッ! ビシャァァンッ!

 跳躍から雷を纏った斬撃による近接戦、ユラもなかなかやりますわね。

「フィオナを追っていこうとした鳥型も落とせましたし、後は・・・」

 残りは5体程度ですわね、洞窟と違って拓けてると厄介ではありますけれど・・・こちらも魔導術を抑える必要がないのは楽ですわ。

「・・・ミリー、そっちに行ったよ」

 ライトニング・バレットを空中移動に使うのはフィオナとも違う戦い方、器用なものですわね。

「ライトニング・レインで十分ですわね、念のため馬車の方にエア・シールドは張っておきますわ」

 ビシャァァンッ バリバリバリッ

 4体に命中・・・残り1体が私(わたくし)の方へと嘴を突き立て・・・

 ブンッ! ザシュッ!

「よいしょー!私ほとんど何もしてない気がする!」

 アイリさんが横から振り下ろした斬撃で鳥型が真っ二つ・・・あんな軽く振って威力もあるのは凄いですわね。

「同じゴールドでもこれは凄いな・・・君達まだ学院卒業したばかりだよね?」

「私こんなに無詠唱で連発してる魔導師初めてみたよ・・・使える人は何人か知ってはいるけど・・・ユラちゃんだっけ?君って剣士だよね?」

「・・・そうですね、ライトニング・バレットだけなら無詠唱でも展開できるといった程度ですけど」

「なんかミリーちゃん達を見てるとその詠唱?しないのが普通なのかなって思うよ!」

 無詠唱って宮廷魔導師の領域じゃなかったっけ?と思い思いの感想が聞こえますわね。

 そういえば卒業しても尚、フィオナは結局術式を使うことがなかったですわね・・・あの魔導術の使い方だけは未だに理解不能ですわね。

「・・・村に向かわない?フィオナなら大丈夫だと思うけど・・・建物に関しては別だけど」

 馬車に乗り直し程なくして村が見えると、こっちに飛んでくるフィオナの姿、どこか慌てた様子ですけれど・・・まさか本当にフレア・ランスで燃やしたとかではありませんわよね・・・?


 家屋に身を潜めていた村人たちが活発に動き出し、村に賑わいが戻っていく。

 初めてくる村なのでどの程度が普段の光景かはさておき、私達はこの村特有のギルド食堂で食事をご馳走になっていた。

「さあさあ食ってくれ・・・特にそっちのちっちゃいお嬢ちゃん、食わんと大きくなれんよ~?」

 陽気なおじさんが鳥の丸焼きのようなものが乗った大皿をドカッとテーブルに置く、さっき討伐した鳥型の魔物が脳裏をよぎる・・・・・・気にしても仕方がないのでナイフを使い切り離しながら齧る。

「・・・フィオナは食べてる方だけど小さいんですよ」

 敢えてスルーしてたおじさんの声にユラが律儀に説明していた。

「それにしても思っていたより冒険者が少ないですわね、中間村にはそれなりに立ち寄ると聞いておりましたけれど」

 鳥とは別に豚の丸焼き?みたいな肉を切り分け、皿に乗せて皆の前に配っていたおじさんが、酒を片手に座り直す。

「ああ、帝都の建国祭の話もあるんだが、腕利きの冒険者がアーシルに出向いてるっつう噂だ」

 豪快に酒を飲みながら事情を説明してくれるが・・・さりげなく飲み会モードになっているおじさんだった。

「アーシルにですの?確かに高ランク冒険者は稼ぐ際に魔海関連の依頼を受けるようですけれど・・・」

「なんでも近頃やべえのが目撃されたって噂があったんだけどな、まあ魔海周辺にあるアーシルは元から危険区域だしなぁ」

 お陰でギルド食堂に閑古鳥が鳴いてらぁ、王様が言っていた大物の魔物だろう。

 海の大物だとクラーケンみたいのだろうか、討伐隊を編成するような事態に至るのも時間の問題か。

「・・・噂のやばいの?・・・どんな魔物なの?」

「それは分からんねぇ、何せアーシルから中間村にまで戻ってくる奴は少ないからな。帝都で出回ってる噂をここに来た冒険者が話をしてる程度さ」

 切り分けられた豚焼きを齧りながら話を聞いてると、おじさんが更に話を続ける・・・酒が入るとおしゃべりになるのはどの世界も変わらないようだ。

「今の話とは別に、帝都のギルドで一つ噂になってる事があってな、なんでもジオって冒険者が王都から来訪するだとか・・・ギルドが冒険者を名指しってのは珍しい、アーシルのやべえのと関係あるんじゃねえかってな」

 人集まる場所に噂有り・・・良くも悪くも情報というのは広まるものかと、我関せずと肉にフォークーを刺そうとした所をミリーに手を掴まれた。

「フィオナ・・・この話は独り歩きですの?それとも・・・・・・目が泳いでいますわよ・・・?」

 帝都に辿り着く前にミリー達の耳に入ってしまった。


 宿屋の部屋を2つ借り、その1つの部屋に皆が集まり話を問いただされた。

「水くさいですわ、帝都に着いてからどうするつもりでしたの?」

「あ、でも魔海ってことはその魔物水中にいるのかな?」

「・・・なるほど、だからジオに話がいく・・・・・・とはならなくない?」

 ジオは魔導具使いの冒険者で通っている、海上で活動するのであれば飛行できる私の方に話がいくのではとミリー達が推察していた。

 実際はどちらにもきているのだが、同一人物なので無理と・・・改造短剣を飛ばしてる要領でジオの鎧を遠隔で動かせれば話も変わってくるが。

「帝都ギルドで噂になっているのは予想外なのです、アーシルの件も含めて・・・」

「大方、串焼きの露店探すとか言って別行動・・・と安易な考え・・・・・・その顔は図星のようですわね?」

「流石にそれで通すのは無理があるじゃろ?」

 串焼き買いに行く間に片を付けるなどとは考えていないが、様子見くらいはできるかと・・・どの道アーシルまでの距離を知らないから無策であることは否めない。

「・・・というか、一人で行くつもりだったの?」

「考えてるようで実は考えてないのがフィオナの悪い癖ですわね、というより私(わたくし)達の事を考えて自分の事が疎かだったと言うべきですわね」

 私的には寧ろアーシルにできれば行きたくないのが本音ではある、戦闘狂でもあるまいし・・・わざわざ危険な魔物に好き好んで立ち向かいたいわけではない。

「ミリー達を連れて行く以前に、私も極力行きたくないのですが・・・帝国から話を持ちかけられたのですよ」

「いつそんな話を・・・いえ、ジオで王城に行ったというのがその事でしたのね」

「え、フィオナ王城に行ったの!?どうだった??」

 アイリはマイペースだったが、ミリーとユラは私の心配をしてくれているよう・・・だからこそ穏便に済めばよかったのだが。

「妾が手伝ってもよいのじゃが・・・あまり干渉するのもあれじゃしのう」

 リアが出張れば一瞬で片は付きそうだが、珍しく言いよどんでいるようだ。

「古龍様なら簡単に倒せそうー」「リアで駄目ならそれこそ問題・・・」

「ふむ・・・フィオナ、魔海にいるのはコーザル体じゃ。それこそ神器がない今の人族ではお主が切り札になるしかなかろうて」

 聖剣があれば話は別じゃが、大型ゴーレムの比ではない魔物だった。


 コーザル体の魔物・・・それはもう魔物で済ませていい話なのだろうかと考えていたらミリーが話を続けた。

「リアさんとフィオナはたまに意味の分からない話をしますけど・・・以前にも言っていたアストラルとかコーザルは何の事ですの?」

「あ、レイちゃんが言ってたのもそれだよね?」

「ふむ、領域の話くらいは聞かせておいた方がよさそうじゃな。アストラルやコーザルは人族でいうところの神の領域みたいなものじゃ」

 正確には違うがの、高次領域など生物が認識するものではないから説明も難しそうだ。

「・・・そのコーザル体というのは・・・神様ということになるのかな?」

「近くはあるが違うものじゃ、物質界の生物からすれば、そのくらいの差があるというとこじゃ」

 実際問題、本当にコーザル体なら目視できない気もするが・・・観測されているなら実体が魔物の姿なのだろうか。

「そうじゃな、本来であればコーザル体・・・高次元体を人も含め生物は認識できないはずじゃが」

「ちょっと待って下さい・・・そんなのを相手に何故フィオナが切り札ですの?」

「アイギスを貫けると話したじゃろう?あれはコーザルの根源領域の力故に、物質界の現象では干渉できぬ」

 それを貫けるなら如何なコーザル体とて例外ではないのじゃ、とリアにそう言われてもあまり私はピンとはこないのだが。

「・・・フィオナが使ってるあの光の柱みたいなの・・・そんなに強力な魔導術だったの?」

「私の十八番であるレーザーブレードはゴーレムに効かなかったのですが・・・近衛副団長にも弾かれたのです」

 割と自信があったはずのブレード光波をかき消された記憶がふと蘇った。

「領域内の力を現象化させておるだけなら物質界の現象でも干渉はできる、この段階であれば魔力でも防げるがコーザル体、もしくは根源の高次領域までに至れば物質界での干渉はできなくなるということじゃな」

「私皆が言ってることさっぱりなんだけど!」

 アイリだけでなくここにいる全員理解はできないだろう、体感しているはずの私も正直に言って分かっていない・・・

「簡潔に述べるのであれば、凄い力には凄い力をぶつけるのじゃ」

 とんでもない暴論で話を纏めたリアなのであった。

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