第14話もうこりごりなのです
王都クロウディルの闘技場は王城正門の斜め前の目と鼻の先にある、使用用途は様々で騎士団の稽古や剣術学院の練習試合、イベントの式典や宮廷魔導師の認定式等々。
今回の祭典となっている学院合同戦もその一つだが、一種のお祭りみたいな感じで王都の住民も観に来て大賑わいだ。
観客席が周囲を覆い、王城方向の中心に国王含め来賓席が設けられており王都の上流階級の人達もどんな戦いを見せるのか注目しているのだろう。
この合同戦で騎士団入りを果たす者も数多く、父ノルスも推薦されたが断って母マリナと共に冒険者になったという話を聞いたなと・・・私が参加するとは思わなかったが。
今観客席の魔力の『色』をみようものなら目が潰れるかもしれない、少なくとも人混みの人捜しみたいには使えそうになさそうだ。
学院生達がそれぞれ開始地点に移動するがアイリの時に見たときより離されている・・・今回の終了判定も剣士か魔導師が1人になるに変更されているとのことだった。
今までは剣士側か魔導師側全滅だった故に、開始早々の剣士全滅で終了したのが理由なのだろうが・・・相手にミリーとユラがいることでこの終了条件で勝つのは厳しいだろう。
開始地点の距離が唯一最大の利点と言ってもいいだろうか、初手で仕掛けるには私の飛行襲撃が一番早く届くと思いたい。
こんなことなら、ミリーの魔導術の射程がどれくらいあるか見させてもらうべきだった・・・と私達は武器を構える。
開始の合図が鳴り、音が空に響き渡った。
いつもの横乗りではなく跨がって一気に加速しつつ高度を上げる、低空で行き過ぎて斬り捨てられたら目も当てられない・・・・・・ミリーは優雅に歩きながらこちらを見ている。
最初から私のみに集中すること前提だったのだろう、周りとの連携は皆無な立ち位置・・・王立魔導師組を守る素振りも見せない。
つまりはやっちゃえと言わんばかりに先制攻撃を譲ると・・・あれは開始前に王立組とは話が合わなかったと言ってるようなもの、というより態度に表れすぎていた。
炎の槍をイメージし王立魔導師組2人に放つ、飛んでる事の動揺か炎の槍が飛来してくる状態に王立魔導師組は術式の展開が遅れる。
2人の間に落ち衝撃で態勢が崩れてるところに2,3発打ち込み命中・・・思ってた以上にあっけなかったというのは流石に失礼か。
キィンキィン キィィィンッ
既に近接組の攻撃の金属音が響く、やはり剣士の身体能力は高い・・・思ってる以上に交戦が早かった。
プッドの盾がユラの斬撃をいなし続け、クレイがショットガンのように長杖を構え歩きながら初級の火魔導術を間髪入れずに撃っていた・・・あの構え方今度ジオで真似しよう。
剣士組はほぼタイマン状態、ユラに対してはプッドとクレイ、ココの3人掛かりだ。
そして、ミリーが両手を私の方へと向け、一瞬初級の術式が見えた時・・・風の魔導術エアバレットが連続して飛んできていた。
「こ、これは思った以上に・・・」
見えない、風を肉眼で捉えるのは難しく空気の微かな淀みで判断する・・・耳元で風切り音が通り過ぎる。
こちらも負けじと炎の槍を連続で撃ち込むがミリーの直前で風に阻まれる、エアシールドで防ぎつつ片手でエアバレットを放っているよう・・・攻撃と防御の同時併用とは器用である。
いっそのことブレードで・・・と言いたいが迂闊に近づくと投げ飛ばされかねない、レーザーライフルを使うのもいいが直線軸に杖を向けるとエアバレットを直撃してしまいそうだ。
正確には素手でも撃てるのだが、ジオでやってることはあまりしないようにしている・・・と言ってる場合でもそろそろなくなりそうだ。
近接組も接戦しており、戦闘は膠着状態になっている・・・長引くと近接組が先にやられそうだ。
風を物理的に押し通すなら土系かと考え、尖った石を精製しミリーに向け放つ。
エアシールドを少し抜けそうになるが弾かれる、ミリーも少し警戒し攻撃の手がゆるむ。
「やりますわねフィオナ、本当に属性を選びませんのね」
「ミリーのほうこっ・・・そ!」
エアバレットを避けつつミリーに言葉を返し、お陰で1ついいことを思いついた。
石の槍を精製しそこに炎の槍を重ね、一気に放つ!
「!?」
ミリーが初めて目を見開き両手でエアシールドを出しつつ後ろに飛ぶ。
どぉぉぉんっ
ミリーには避けられたがエアシールドを貫通し炎を掻き消された石の槍が地面をえぐり刺さる。
「これなら防ぎきれないです!」
とこちらも油断していたみたいだ・・・私は見えない壁に衝突していた。
進行方向にエアシールドを設置されていたらしく私は大きくバランスが崩れ・・・ミリーが跳躍していた。
「油断大敵ですわ、高度が落ちてましてよ!」
靴に仕込んである触媒結晶で風の魔力放出でのジャンプ・・・飛ぶのに慣れていなくとも跳躍なら話は別だった。
「まずった、です!」
ミリーが私を地面に掴み下ろしながらエアバレットを至近距離で撃ち込んできた。
私はピンポイントにレーザーシールドを張り、体への直撃を免れたが地面に叩き落とされた。
「なかなかにエグいことするですね!?」
杖に取り付けた取っ手に足をかけ減速をかけ床ぺろを防ぐ・・・地面に足をつき息を整えたその時、近接組の方から声が聞こえた。
「・・・後、任せます」
ユラ・ブライトが鞘尻を前に向け、こちらに突進してきていた、杖を構え直そうとした瞬間・・・鞘の装飾の宝石が光っていた。
「・・・雷(いかずち)よ貫け、ライトニング・バレット!」
横に走る雷で私は杖を弾き飛ばされていた。
手から離れたディオールの杖は、急速に重量が増し、遠くには飛ばされなかったのが幸いだった・・・とその一瞬が致命的だった。
「ふっ!」
ユラの刀が私の左肩に迫っていた・・・死ぬ!?
バチィィィンッ
「!?」「くっ!」
左手で間髪入れずにシールドを展開し後ろに吹き飛び、地面をバウンドした後片足立ちの状態で土を滑る。
迷うも何もなかった・・・あの一撃は死を感じ取ってしまうほど鋭かった。
シールドで防いだ左手が震えていた・・・間に合ってなかったら手ごと上体が斬られていただろう。
いくら龍人貴族の回復で元に戻せても、斬られた瞬間の痛みなど想像したくはない・・・人に刃物を向けられるのはこんなに恐怖を感じるものなのかと、体勢を整える。
ユラも刀を構え直すが再度仕掛けず様子を見ているようだ、あの状態で防がれるとは思っていなかったのだろう。
改めて意識をし直す、この世界の人達は強い・・・戦い方を選んでいるほど余裕があるわけではないのだと杖を手元に引き寄せ・・・
「すぅぅぅ・・・」
炎の槍を4,5,6と一気に空中に展開し、ユラに連続で照射するが・・・
ゴォォッ! ふぉん ゴォォッ! ふぉん
ユラは左右へ避けながら私との距離を離す、その隙に先程見た雷をそのままお見舞いする。
バチィィィンッ 「!」「うわ・・・」
真正面から飛んでくる雷は切り払われていた・・・人間の視力であんなの捉えれるのだろうか、異世界人恐るべしということか・・・
根本から前世と身体能力が違いすぎると今実感する、どうも私は魔力を身体能力にうまく使えない・・・この直接現象化させることで対処するしかないみたいだ。
足を止めたところでの一撃を狙うべく水の槍を連続照射するが避けつつ切り払われているのを目の当たりにする・・・液体も関係なしか!
観客の声すら聞こえないくらい集中し、ユラの周辺を濡らす・・・私の狙いは足元の氷結。
杖を地面に付けユラの方へと氷の波を起こす・・・飛んでよける想定からそこをレーザーライフルで射抜く、とユラは刀を納めていた。
「・・・ライトニング・バレット!」
雷は鞘方向に発生し、踏み込みからの前方跳躍・・・低空で突進してきていた。
刀の神速一刀の抜刀術・・・その可能性も予想さえできていたからこそ私は反応できた。
ブォォォン
「・・・なっ!」
杖の触媒結晶付近に横からレーザーブレードを発生させ、大鎌のように展開する。
真横に振り切られた刀をいなし、そのまま回転切りの要領で態勢の崩れたユラの首元でブレードを止める・・・
「ふぅぅ・・・」「・・・これは・・・」
私の勝ちか?・・・と思っていたら離れた位置から竜巻が発生しており。
ドゴォォォゥッ!!
私立組は私を除き、ミリーのエアストームで吹き飛ばされていた。
ユラとの一騎打ちにはどうにか勝ったと言っていいのだろうが、ミリーが私立組を最後に全員まとめて凪払ってしまった。
勝負には勝ったが試合のほうは完敗である。祭典自体は勝敗を決めるものではないとはいえ、やはりミリーを止めないと勝つことは難しかったようだ、と言ってもユラの方も正攻法で倒せたかというと多分無理だったろう。
善戦祝いの言葉を賜った後それぞれ解散したが私立組は皆で集まっていた。
「あのエアストームはやべぇって・・・自分中心に発生させるとかありえねぇ」
「ミリーはそんな撃ち方してたのです?」
「私一瞬だけ見えた・・・術式が3つ同時に展開してたよ!」
術式を3つ同時とか・・・二重詠唱どころか三重詠唱の様なことをしていたらしい。
脳の処理はいったいどうなってるのやらと思っていると、ミリーとユラがこちらに歩いてきていた。
「皆さんお疲れ様ですわ、怪我の方は大丈夫でして?
「私の盾も背中からのは防げないとわかりましたよ、よい経験ができました」
「普通盾は背中防げねえんだわ・・・」
「龍人様の回復・・・私も見習わないと」
皆今回でいい経験ができたようだ、かく言う私もその一人で・・・仲間だと本当に心強いがミリーとユラに関しては敵に回したくないなと。
「盾で防ぎながらフィオナ君を見てたが、いやお見事でした」
「ミリーを止めるのは無理だったのです、三重詠唱なんてできたのです?」
二重詠唱も難しいと聞いたが三重詠唱はもう宮廷魔導師確定と見ていいだろう、近々認定式も行われるだろうなと考えていたら。
「・・・フィオナちゃんの属性バラバラに連続で撃ってくる魔導術・・・相当ですよ?」
「そうですわ・・・あれ詠唱がどうといった話ではないですわよ?」
「あたい的にはどれも初めて見る戦い方だったけどね・・・」
前世の常識的には・・・雷だろうが水だろうが物理的に切り払う方がよっぽどやばい気がする。
魔力を込めるとどうやら魔導術にも干渉できるみたいだ、つまりシールドで斬撃を防いだとはいえども牙突のような一点集中は貫通されてた可能性もあったわけだ・・・末恐ろしい。
「僕もお爺さまに魔導術を習っていたけど、術式の展開もなしにあれだけ同時に発生させるなんて話は聞いたことないね」
「私は直接現象化させてるだけなのです、学院には内緒なのです」
「・・・それに私の斬撃を止めたあれは・・・いえ・・・」
ユラが何か言い掛けたが言葉を濁した、ここで一番の疑問に思い当たった。
「剣士から魔導術で攻撃されたのには、本当にびっくりしたのですよ」
ある意味今日一番の衝撃は、この世界でも魔法剣士はいるんだなと少し感激したのであった。
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