第15話プ~ラ~ズ~マ~
冒険者が使う武器は様々だが、熟練冒険者が好んで扱う物に魔導武器がある。
魔導具に使われる素材であるミスリル金属とディオール樹のどちらかを一部使用してる武器の事を指す、その魔導武器の中でも全部をその素材で固めてる物が最上級とも言えるが・・・。
残念ながら欠点もあり、ミスリル製は魔力を通すと重くなり一撃が強い代わりに取り回しが悪くなる。
兄のアストの誕生日に贈られてるのは刃先が交換可能な剣の中心部、茎(タング)と樋(フラー)にミスリルが使われていたみたいだ。
一方、姉のアイリの方は持ち手以外全部ミスリルといった熟練冒険者が使うような剣だった・・・ウィクトール家はもう少し年齢に合わせたプレゼントを贈った方がいいと思う。
今思えば私以外も標準的な武器を使ってない人が多いよう、ミリーは魔導師だが杖の形など欠片もないフィンガーグローブとブーツの圧底に触媒結晶を取り付けた特注品だ。
合同戦の時のプッドに至っては盾1つと武器ですらなかったり・・・そう考えると正統派を見たのはジオの時に同行したことのある複数の冒険者くらい。
この世界の世間一般論的には私達の方が珍しいのだろう、私のディオールの杖も普通は触媒結晶付近か持ち手の一部に素材を使用して魔力伝導率を高める程度にしておくのが無難だそうだ。
単純に魔力を通してないときの重量で扱いづらくなるからだそうだが、私は特にこれを重くは感じていなかった・・・なんなら汎用長杖の方が個人的には寧ろ重いくらいだ。
故に合同戦の最中、私の手から離れた瞬間凄い勢いで落ちたと。
ユラ・ブライトに弾き飛ばされた時、遠くに転がっていかなかったのもそのせいか。
誤って足に落とそうものなら潰れるやも・・・まあ今更か。
「私(わたくし)初めて刀を使う人を見ましたわ」
「・・・お金を貯めて買いました、鞘は特注品ですが」
10歳以降ずっと溜まり場になっている私の部屋にユラも加わって3人でいることが多くなり、母のマリナが大変喜んでくれた。
しかしながら友人が少ない可哀想な子扱いされるのも複雑ではあるが、喜んでくれているならいいかと私も話に混ざる。
「その鞘の宝石は触媒結晶だったのですね、あの時の雷は焦ったのです」
正直あれを私に直撃させればそこで終わってたのだが・・・私が放った雷の方を切り払えるのなら多分レーザーライフルも弾けるのかもしれない。
「ユラは剣士ですのに魔導術を使いましたわね?剣術学院では教わらないでしょう?」
「・・・独学です、魔導師に興味があったけれど・・・ブライト家は剣士貴族で魔導学院に行かせてもらえませんでした」
幼少期に魔導術関連の本を読んで試したら雷の魔導術が使えたという、才能があるのもそうだが・・・魔力の『色』は瞳と同じ赤紫。
雷系は魔力の性質上使いやすかったのだろうか、ユラに魔力の性質が見えるようになったら属性放出で雷撃を纏う刀身が可能になるのではと思い。
「ユラは魔力の『色』が在ることは知ってるです?」
色?と首を傾げるユラの反応で、私は試しに呼吸を整え自身の中心と魔力の概念を意識してみるよう伝えてみる・・・。
人にそう伝えておいてあれなのだが、私自身は本当に認識できているのかという思考が脳裏をよぎる。
「・・・これは・・・」
手のひらを上にし電気がバチバチと弾ける・・・うん、これでもう次やり合えば確実に死ねるなと遠い目をしつつ話を続ける。
「ミリーの時と同じなのです、意識して魔力を放出するとその人特有の魔力の性質による属性放出ができるようなのです」
ユラも出来ることで魔力操作に長けた人ならこの性質にたどり着けることがわかった、やはり宮廷魔導師あたりはこの事を知っているのだろうが・・・多分あまり理解されなかったから浸透もしなかったのだろう。
「・・・これはフィオナちゃんが発見したの?」
「4歳くらいの時だった気がするです、それが視えるまでは魔導術を発生させることもできなかったのですよ」
現在進行形で術式の模様を意識しても展開しないのではあるが・・・魔導師なのにこの世界基準の魔導術は使えないとはこれいかに、その反面一度見た魔導術の現象化した部分は出せる。
と言っても炎の槍も中級のフレア・ランスを真似たものだが術式は覚えていないな・・・まあ困ってはいないからいいのだけども。
「4歳でというのは初耳ですわよ・・・?」
「・・・一つ・・・気になってる事が」
ミリーと2人でユラの方に顔を向け、言葉を待つ。
「・・・あの全身鎧の人はフィオナちゃんで合ってる?」
ジオの正体を何故か見抜かれてしまっていた。
ユラ・ブライトの魔力制御の技術はかなり高く、恐らくミリーにも劣ることのない魔力操作を可能にしている。
剣士の魔力は基本全身に巡っての身体強化の側面があり、魔力測定での上限量が高ければ強化による恩恵はそれだけ大きくなる。
私が放った氷の波を低空で直進していたのも魔力操作での足先に集中させ、ライトニング・バレットを鞘に当てた反動と飛び込みによるものらしい。
「・・・むむむ・・・」
唸りながら手先に雷を集中させているようだが・・・部屋の中で試すのはちょっと勘弁してほしいと思っていると。
「ユラはさっきから何をやってるんですの?」
「・・・いえ・・・フィオナちゃんがやっている光の剣を再現しようと・・・思っているんですが」
電撃が収束してバチバチと音が鳴り、これはこれでプラズマブレードみたいでいい感じである。
「なるほど、レーザーブレードをやろうとしてたのですか」
雷系なら確かに再現できるかもと思えるが、属性放出でここまでできるなら無理にやる必要もなさそうだが。
「・・・フィオナちゃんのあれは・・・属性放出ではないの?」
「感覚的には近いのです、どちらかというとそうイメージして放出・・・みたいなです」
ミリーの手甲を真似て、フィンガーグローブに刃先を引っ剥がした短剣の持ち手を取り付けた所から短くブレードを展開する。
素手でも出せるけれど・・・このほうがかっこいいじゃんという個人的な拘りである。
「短剣を何に使ったのかと思えば・・・この外した刃先はどうしてますの・・・?」
「・・・想像したとおりに出せるほどの魔力操作・・・小さな天才魔導師と言われてるのは・・・」
「不思議ですわね、最初に魔力測定したときから数値は一切変わってもいないですのに」
最初に測定した数値の369から今も同じままである、個人差で上限量が上がると聞いていたが・・・まったく変動してないのは少し残念・・・かといって魔力の枯渇感を覚えた事もないのだが。
「・・・魔力の変動・・・その性質を視てもとても静か・・・というか動いてないようにしか・・・」
「まあ細かいことはいいのです、ユラのそのプラズマブレードは私的に好みなのです」
ブレードをそのままプラズマに変えてみたり試してみている時ふとミリーが言葉にした。
「クルス商会の製品にはもしかすると、その属性放出を利用しているのかもしれませんわね」
なるほど・・・でそれを利用した製品の一儲けで大企業的な位置に上り詰めたと、私以外に転生したであろう人物は科学に精通してるのかもしれないなと思うのであった。
以前大型ゴーレムが出現した山岳地帯を上空から見渡していると、なかなかに壮観なものがある。
ここにはギルマスからの直接依頼で調査をしてほしいと頼まれたのだが、あれ以降は特に目立った異変はないように見える。
ユラにジオということがバレたことでそれまでの話を伝えたところ、実地訓練中の魔物達の行動に納得したようだった。
「それにしても・・・遠くに見えていたと思ってた湖が海だったとは」
王国地域周辺を覆っているのは川とか湖といったものが転々としてるのかと思っていたが、以前見た地図の形を思い起こすと・・・王国以前に4つの国が1つの大陸でそれを周りで覆うそれはあくまでこの大陸の地図だと思っていた。
ミリーが世界地図といった時にはあまり考えてなかったが、それがこの世界に存在する土地の全てだったらしい。
ここから帝国や共和国といった大きい街みたいなのは見えないから地図での距離感は縮小されてはいるのだろう・・・と下で待っているミリーとユラの元に降りる。
「山岳地帯はどうでして?何か居りました?」
「木々の間から鳥型の目が光ってたです、襲ってくるかもと警戒したですよ」
鳥型があちこちの木々からチラチラ上を飛んでる私を警戒しているように見えたが、洞窟の時のように無差別に攻撃仕掛けてくることはなかった。
あのゴーレムの気配で気が立っていたのだろうか、今は近付かない限り自ら襲ってはこないみたいだが。
「・・・王都付近の魔物はどこか受け身な印象を感じます。こちらから近づいた時には攻撃してくるけど、王都周辺の高原までにはこない・・・」
「繁殖で増えて洞窟や森林等での縄張りを追われた個体が襲ってくるくらいですわね、城の書物庫で調べた限りは・・・」
魔物は野生動物を食べることもあるが、霊峰山が近くにあるこの山岳地帯付近は外気魔力がよそに比べ濃いらしく、その魔力で十分事足りるとか・・・大型ゴーレムは、外気魔力も吸い続けて動力にしたことで周囲の魔力が一時的に減っていたのも要因ではという見解に至る。
「・・・寧ろ静かすぎるとも・・・あの時と真逆でこれはこれで不気味かも」
洞窟は魔力が籠もっているのか魔物を見かけるのだが、今は逆に静かであった。
「討伐を生業にしてる方は困るかもですわね・・・いつの間にか繁殖しての大侵攻とか起こらないといいのですけれど」
王国としては平和でいいが人によっては困ることもあるか・・・全体の平和と個人の平穏はまた別なのかもしれない。
無駄に魔物を刺激しても仕方がないので、私達はギルドに報告するために帰還することにした。
ヴェルガリア霊峰山は元々はただ一際大きいだけの大山だったが、400年前の次元断裂事変の後に古龍ヴェルガリアがその山頂に居座った事で霊峰山と呼ばれるようになったとのことだが・・・
「居座ったってことは今もいるのです?」
お馴染みとなった私の部屋で紅茶を飲んでいるミリーに尋ねてみる。
「確認は取れていませんわね、山頂に行けた人がいないのですわ」
「・・・山頂に向かった冒険者はいつの間にか麓に戻されていた・・・と聞いたことがあります」
なるほど、それはもう居るって言ってるようなものだが・・・実際に辿り着いて確認してはいないから分からないと。
「ちなみにどんな姿してるです?教科書にも描かれていないようですが」
「私(わたくし)が昔みたアーティファクトの映像記憶にもそのような姿は見られなかったですわ」
・・・色々謎な存在のようだが、1つ言えるのは確かにその古龍は実在している・・・それは今までずっと感じていたあの視線のような気配。
ここ最近特にその気配、視線が強くなっている気がするが・・・魔物達はあれに警戒しているのかもしれない。
「ならいっそのこと見てくるです」
「・・・なるほど、空から行けば確認できるかも」
「もし居たとしたら警戒されるのではなくて?最悪の場合・・・」
何かしらの攻撃を受けるかも・・・歴史上では魔王とか勇者の戦いの中に存在してるような龍族。
「とりあえず麓まで行ってみるのです」
ディオールの杖を持ち席を立つ。
「て、今から行くんですの!?」
と私は部屋を出て二階の窓からそのまま霊峰山に向かうことにした。
そのまま全速力で飛んでそこ10数分で麓に辿り着く、空に障害物もないから直線に飛ばせばなかなかに早く・・・・・・ふと冷静に山を見上げると。
「・・・整備されてもない・・・山道を今から歩いて・・・?」
と後先は考えてと心に決めていたはずなのにこれである・・・前世の山登りとは訳が違うのだと。
やっぱり面倒なので帰ろうかなと踵を返したところ・・・
『ここまで来ておいてまたんか!』
頭に声が響き渡ったその瞬間・・・私の足下が光を放ち、全身が包まれ何も見えなくなったのだった。
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