第13話長い武器は携帯性が・・・

 冒険者、というよりこの世界の人達の主な戦術は大きく分ければ近接職と遠距離職になる。

 近接職は片手直剣・大剣・短剣と種類は様々だ。剣術学院は片手直剣の基礎を教わるらしいが、14歳のギルド正式登録後はそれぞれ自由に武器は選べるとのこと・・・私立の場合は多種多様な武器構成になるが、王立は片手直剣を極めるのが殆どだそうだ。

 卒業後の王都や帝都の騎士に志願する際はそれがアドバンテージになるみたいだが、私立は卒業後そのまま冒険者で稼ぎに行く者や傭兵、諦めて家業を継ぐなど律儀に剣を習わない事も多い。

 遠距離職は基本魔導師だが弓やクロスボウなどもある、魔導師が使うわけでもないので冒険者の近接職が補助として利用するようだ。

 魔導師の武器は短杖と長杖が主になるがミリーのような手甲型は稀・・・というかいないみたいだ、本人曰わく持ち運びに邪魔にならないからと。

 そう、私のディオールの杖は残念ながら携帯性は皆無である、体格の小ささも相まって飛んでいない時の持ち運びが大変に面倒なのが最大の欠点と言えなくもない。

 というわけで肩掛けガンホルダーみたく杖を取り付けて、手放し状態ができるようにするのが今の所の最善案と結論付け・・・完成させたところでミリーに声を掛けられた。

「気は済みまして?合同戦は剣士とも戦うことになりますから、万が一剣の間合いに入ったら困るのはフィオナなのですわ」

 学院合同戦に選ばれたことで否応にも戦うであろう剣士との対近接の練習に誘われていたのだが、ガンホルダー改め杖ホルダーを作っていたら思いのほか熱中しすぎていたようだ。

 というのも私は基本戦闘を行う際、全身鎧でブレードやらライフルで攻撃してる事が多く生身での戦闘はどうなのかという話になった。

 学院の授業でくらいしか生身で魔導術を使っておらず、今回の合同戦は鎧を使うわけにもいかないので必然的に生身での戦いになる。

 中層広場でミリーと体術で組み合ったところ、私は手も足もでないというのが現実だった・・・

「フィオナは剣士の間合いに入らないほうがいいですわね・・・ジオの時とはえらい違いですわ」

「直接体を動かすのと思考で動かすのは別物なのです・・・ジオの関節とかも魔力を流した意識だけで操作しているのですよ・・・」

 土埃を払い立ちながらそう言った後、今日は解散したのであった。


 学院での授業を終え、合同戦に選出された生徒4人は理事長室に呼ばれていた・・・なんでも今回の合同戦は編成基準の変更があるとのことだが・・・アイリの時のような事態を避けるためだろうか?

「授業の後ですまんのう、今回は少々要りようでな・・・この件で王立側が憤慨しておったのだ」

「理由は察しがつきますよ、ミリーさんとフィオナちゃん・・・そしてこの僕クレイ・ハイアットが私立にいることでしょう?」

 このクレイ・ハイアットは王都の宮廷魔導師、キルス・ハイアットの孫なのだが・・・この子は6年通っていて殆ど話したことがない。

 というより私と目を合わさない、嫌われることをした記憶はないのだが。

 小さな天才魔導師と呼ばれている私をライバルと認識しているのだろうか・・・自称したことは一度もないし、それを言うと入学する前から既に負けてるんだが。

「王立のエリクラットには編成の際、ミリーとフィオナを分けると言っただけなのだがのう・・・エリクラットの奴がごねてな」

 どうも私とミリーが一緒になった場合、アイリと同じ事が起こる可能性を王立のエリクラット理事長に伝えたのを啖呵を切ったように捉えられたようだ。

 端的に喧嘩を売られたと感じたのだろうが・・・シュタッド理事長はそれを通したとの事で、結果的に合同戦は私とミリーが別に編成されるようになったとのこと。

「明日の合同戦の編成は決まっておりますの?本来なら当日の試合1時間前の発表ですわよね?」

「勝敗を競う場ではないとはいえ、力の差がありすぎた前例があるのでな・・・アイリ君の場合はどっちにしろああなっていたではあろうがのぅ」

 面倒な事になっているのは恐らく大型ゴーレムの件だろう、上が私の事情を知っているが故の編成問題に発展しているみたいだ。

 それに加え、ミリーとクレイの2人と私立側にパワーバランスが寄っていることでランダムに編成して3人が揃った時点で勝敗が見えるということらしい。

「あ、じゃあ私が辞退しま・・・」

「これがその編成なのだが、ほぼ私立対王立の図式になっておる」

「これは・・・かなり極端ではありませんこと?王立魔導師2人と私(わたくし)に加え、王立剣士2人と私立剣士1人・・・」

「フィオナちゃんとココさんに僕、私立魔導師3人に私立剣士3人・・・今までの合同戦と基準が違いすぎますよ?」

 王立が基本別々に編成されるはずなのを私とミリーを分けることでこうなったらしい、どうしてこうなったと言いたいのを堪える。

「王立剣士の1人はユラ・ブライトですわね、以前洞窟で共闘しましたが・・・かなりお強いですわ」

「私立剣士の方達の実力がわかりませんが、僕とフィオナちゃんが攻撃、ココさんが回復とバランスはいいですね」

「か、回復は得意なので頑張ります!」

 どうやらもうこれで戦うことは決まっているようだった・・・まあ勝ち負けで何が変わると言うわけでもないのだが、やるなら勝ちにいくとなるのは人の性(さが)なのだろうか。

「ちなみに武器の使用制限みたいのはあるです?」

「フィオナ君の杖も使ってよいとのことだ、ミリー君には悪いが是非王立に一泡吹かしてきてくれたまえ」

 既にやり合う前から疲れましたなどとは言えず、明日の祭典に備え解散となった・・・



 祭典当日、開催式が終わり私(わたくし)達のパーティーは試合前の作戦会議をしておりますが・・・王立組は実力でわからせると戦略を練ろうとはせず、それぞれが武器の手入れを始めましたわ。

「・・・ミリー・シュタッドさん・・・でしたよね?」

 ユラ・ブライト・・・マリナさん以来の天才剣士との話でしたが・・・確かにあの洞窟での剣術は見事と思いましたが。

「ユラ・ブライトでしたわね?パーティーということでよろしくお願いしますわ」

「・・・こちらこそ・・・一つ聞きたいことが、フィオナという子のことですけど」

 フィオナも会っているとはいえあの時は鎧を着ていましたし・・・勘が鋭そうには見えますけれど。

「・・・あの子私達と同い年・・・なんですか?」

「?そうですわね・・・確かに体格も小さいからそう思ってしまうのも無理はありませんわね」

 フィオナの身長は10歳の頃に比べれば少し延びたとはいえ、鎧を調整したのは1度くらいでしたわね・・・

「・・・王立と私立を分ける要因となった子・・・そう思えるほどの強さには到底見えませんが・・・」

「油断は足を掬いますわよ、正直フィオナがどう戦うかは定かではありませんが」

 改めて思い直しても、ジオ以外の戦い方を見た記憶がありませんわ、でも・・・

「フィオナは空からの奇襲で攻めてくると踏んでますわ」

「・・・空を飛ぶ小さな天才魔導師でしたね。何故そう言いきれるのか聞いても?」

「私(わたくし)以外で警戒する人がいないと私立側が判断するという可能性が1つ、そして分かっていても反応ができない事ですわ」

 実地訓練で鳥型の相手をしたことがあっても、空からの魔導術での攻撃など魔族とでも戦ったことがなければ対応できないはずですわ。

「・・・なるほど、飛ぶのとは別に魔導術が使えるんですね・・・二重詠唱もできるのなら・・・」

「私(わたくし)もフィオナと直接魔導師として相対したことがありませんから、どうなるかわかりませんわ」

 肉弾戦が苦手なのは2日前に確認済みですから、ブレードで斬りかかってくる可能性も低いのですわ。

「・・・私がフィオナちゃんと戦えば・・・どうなると思いますか?」

「わかりませんわね、フィオナは生身での近接戦闘は苦手みたいですし・・・」

「・・・生身?」

「お気になさらず、ほんとの事を言いますとフィオナ自身の本気は見たことがないのですわ」

 杖に乗って飛んでからの魔導術が本気というのであれば別ですけれど、ジオでの戦い方が本気だった場合は実力を発揮することはないでしょう。

「・・・なら私が、本気を出させましょうか?」



 私立剣術学院の3人はそれぞれ違う武器を持っていた、短剣使いの男性ケリー・片手直剣使いの女性ノイ・・・そしてある意味一番私が驚いてるのは盾のみでこの合同戦に選出されているプッドという男。

 盾で去なす技術で私立剣術学院の4位にまで迫るというのは、剣術を極めるのと同等の難易度なのかもしれない。

「しかしどうするよ?相手全部王立とか、いや1人はガレルだけどよ・・・」

「ふっ、ガレルの攻撃は私には届いたことないからね。この私プッド・ハガードに任せたまえ」

 仲がいいなと眺めていると魔導師組も話に混ざる。

「王立相手でミリーさんもいる、中級の術式も展開が速いと見るべきだね」

「開始地点からだと先に撃たれそうだよ、私回復は得意だけど・・・ミリーちゃんのサンダーストームとかの威力は無理だよー!」

 ココは入学実技試験時のサンダーストームを思い出してるのかカタカタ体を振るわしていた。そうでなくとも魔力の性質を理解しているミリーの風系魔導術は恐らく最速と言っても過言ではないだろう。

 何より5年生の時点でミリーの魔力量は国級に至る、宮廷魔導師に認定されていてもいいくらいに・・・いくら私、というかジオがミスリルランクの冒険者になってるとはいえ差がありすぎな気がする。

「フィオナちゃんはずっとミリーさんと一緒だったね、どうにか止めれる?」

 と目は合わせずに問いかけてくるクレイ・・・まあ話を振ってくれただけでもよかったと取るべきだろうか。

「私しか空から奇襲かけれる魔導師はいない・・・というのを読まれてるのだけはわかるです」

 でも王立魔導師2人を止めるには術式を構築される前に速攻しかける・・・クレイの成績がいいとはいえ剣士にユラ・ブライトがいるのは一番の不安要素かもしれない。

 ミリーに気を取られると、刀の鋭い一撃でこっちの魔導師組を直接狙われてもまずい。

「私の盾裁きで必ず防いで見せよう、なので魔導師に専念してくれたまえ」

「どの道、フィオナちゃんの空からの攻撃は王立魔導師組には対応できないと思う。授業でそんな対処法は教わるはずないからね」

 結論は私が魔導師組に空から奇襲をかけてるあいだに剣士3人でクレイとココを守り、クレイの上級魔導術で一気に仕留める戦術となった。

 いかに天才剣士であろうとも、上級魔導術を剣で止めれないという話で片を付けた。

 全員が開始地点につく、闘技場を見回すと多くの観客が見守っていた。

 

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