第12話魔族の兵器でした

 約400年以上も昔、人族と魔族の大戦が起こりその戦いは数十年にも及んだ。

 魔族の力は強力で人族以上に魔力の扱いに長けており、人族は苦戦を強いられるがその魔族を相手に同等の条件・・・対等な状態にまで迫るきっかけになったのは2つの神器と勇者の存在だという。

 正確には神器は3つあるらしいがその内の1つは獣人国にあり、その当時の獣人族と人族は関係が良好ではなく協力的ではなかったそうだ・・・

「王都に獣人族が住んでないのもこれの影響です?」

「現在はそうでもないですわ、行商人の獣人族の方も稀に訪れますから・・・お父様のお話では霊峰山の気配が苦手で、長期滞在は無理とのことですわ」

「あの一際大きい山なのです?」

 確かに空を飛んでるときにあの山から視線みたいなのを感じたがあれのことだろうか・・・気配に敏感な種族のよう、あれを強く意識してしまうのだろうか?

「古龍ヴェルガリアが棲む神聖な地、といわれてますわ」

「そういえばなんで歴史の話になってたです?」

 個人的にはその神器がどういうのかが気になるところだが、それも関係のある話みたいだった。

「お父様・・・国王にあの大型ゴーレムの報告をしたところ、あれは400年前の大戦に使われていたものでしたの」

 大型ゴーレムは勇者と神器の1つである聖剣に対抗するための魔族側が用意した兵器だった、過去に2体確認されていたらしいが・・・今回遭遇したのは別の個体だったようだ。

「魔族って現在は人族と共生してるという話でしたが・・・対話できたのです?」

「大陸の分断で、こちらに残った魔族の方達に敵対意志はないみたいですわ・・・私(わたくし)も直接会話したことはないのですけれど」

 分断される前からあの山岳地帯に隠されていたみたいだが、使う前に事変が起き放置されたままだったというのが上の見解のようだ。

「本来であれば、勇者の力が必要な相手を倒したフィオナは賞賛されて然るべきなのですわ・・・国は今回の件を公表しないと判断しましたわ」

 歯痒いですわ、と憤慨するミリーだがその判断もやむなし・・・大戦時の兵器が王国圏内で発見されなおかつ攻撃をしてきたというのは民衆の不安を掻き立てかねない。

「別にいいのです、大迫力のリアルロボゲーのようで少し楽しかったのですよ」

 ミリーが何言ってんだこいつみたいな複雑な表情を浮かべていた・・・確かに戦闘中は皆を守りたいと本気で戦ったが、リアルなVRのようで前世では体感できないであろう経験ができたのも悪い気はしなかった。

「勲章の授与をするにも、正式な場で鎧を外すと素性の隠しようもないのが理由の1つですわね・・・」

 年齢詐称の件を有耶無耶にするにはもうしばらく時間が必要であった。


 大型ゴーレムの一件から2年が経過した。

 毎年王都の闘技場が賑わう祭典が行われているのだが、それは魔導学院と剣術学院の王立私立両校の学院合同戦と呼ばれている。

 学院は7年制なのだが、卒業試験や就職活動などで忙しくなる前の6年生上位成績者から代表の生徒数名が選ばれる。

 兄のアストはその祭典にて勝利を納めているのだが、今年は姉のアイリが私立代表の1人として選出していた。

 自分の姉に対して失礼な事を言うと、学院の上位に入っていたのか?・・・と。

「私立は上位4人とのことですから、アイリさんの魔力自体相当なものですし・・・」

 魔力の『色』・・・以後性質と呼ぶことにするが、アイリの魔力を見ると目が痛くなりそうな赤いオーラを発しており実力も高いだろうとは思っていたが・・・何せ普段が割とマイペースな人だ。

「実戦で使う武器は危険じゃないです?」

「龍人貴族の方が回復を担当しておりますから大丈夫だそうですわ、ただ・・・」

 痛いものは痛いですわと、あまり笑えない冗談を言った・・・と思いたいが多分本気で言ってるのだろう。

「兄様の時は大丈夫だったです?」

 隣で闘技広場を眺めていたアストに聞いてみる、アストの時は大型ゴーレムの件で私は見に行けていなかったのだった。

「そうだね、火の魔導術で火傷したり風系や斬撃の切り傷とか雷系で痺れたりしたけど大丈夫だったよ」

 アストの言葉で私はこの祭典には参加したくないと心に決めた。

「アストさんのパーティーは勝利を納めたのですわね?やはり王立の方との共同戦は大変だったのではなくて?」

 王立は2名ずつ、私立が4名ずつの魔導師と剣士の混合なのだが編成は王立の剣士と魔導師が相対するようになる。

 少々複雑だが簡単な話エリート中心に私立がランダムでどちらかに振り分けられると・・・祭典であって試合ではないから勝敗というより即席編成での判断力や応用力を重視される。

「あ、いえ、その・・・大丈夫・・・でした」

 アストはどうも綺麗な女性にはしどろもどろになってしまうようだ、美人にはとても弱いよう・・・基本的に一番しっかりしているのだが人は誰しも弱点は付き物。

「それならよかったですわ、王立学院生は比較的プライドが高い人が多いみたいですから」

「あ・・・はい・・・そうでした・・・ね」

 これは将来、誰と付き合っても尻に敷かれるだろうなと思いながら開始の合図が鳴った。

ドカァァァァンッ

 アイリの突進からの横凪で相手3人の剣士が一瞬で全滅していた・・・性質を視ようとしてた訳でもないのに赤いオーラが全身を纏っていたように見えた。

 闘技場はあまりにも一瞬の出来事で静まり返っていた。


 冒険者のディオール級やドラグーン級の近接職の中には強力なオーラを纏う者もいるらしく、故に騎士団長や近衛騎士のような特権階級の仕事に抜選されたりもする。

 学院生でこの領域に至っているのは過去に2人しかいないらしく、アイリが3人目ということになる。

 母のマリナがその1人だって知った時が一番驚いてしまったのではあるが・・・

 本来この1戦が長期戦になることを想定してるため、あの一瞬でこの祭典は終わりを告げるという、過去最短で幕を下ろした。

 国王様の善戦祝いの言葉を掛けている時の顔は私の勝手な想像だが、ウィクトール家には問題児しかいないのかといった空気を含んでるように感じたのは気のせいだろう・・・

「フィオナ、あんなに強いだなんて聞いてませんでしたわよ・・・」

「私も初めて知りましたー、姉様本当に強かったんですね~」

 あれなら大型ゴーレム相手でも倒せるのではと素直に感心してしまった、異世界は広いということなのだろう・・・寧ろ逆か。

 しかしアイリもそうだがディオール級やドラグーン級のような強さを持つ人達がいてもなお、過去の大戦で苦戦を強いられていたのだから魔族や龍族の力の強大さを改めて感じる。

 龍族まで敵対されていたら人族はとっくに滅んでいたに違いない・・・転生できたことに少しだけ感謝をしてしまっていたのだった。


 時は過ぎ16歳になった、大型ゴーレムの件でジオのランクはミスリル級になっていたのだが、私フィオナのランクはシルバーという二重申請のせいでたまに頭がこんがらがる状態になっていた。

 アイリの力を見て考えていたのだが、近接職の上位になるような実力者は魔力の可視化が起こせるほどの強さをみせる・・・性質による属性の変換は起きてないがその魔力によるオーラは確かにその人達が持つ『色』をしていた。

 この世界の人はそれが得意属性という認識はしていないみたいだが、果たして近接職が性質を理解してあのオーラをそのまま属性として放出した場合どうなってしまうのか・・・アイリに至っては全身炎に包まれ有名なイフリートみたいなことになりそうだ。

 昔ミリーが話していた大戦時の映像記憶の宮廷魔導師の纏っていた暴風というのは、もしかするとオーラの属性解放のようなものだったのかもしれない。

 ここ最近ジオで試していたのは、あの大型ゴーレムの時に放ったレーザーキャノンは私の属性解放だったのではと思い同じように使おうとしているのだが・・・

バシュゥン バシュゥン

 ブレードの要領でレーザーライフルみたいには出るが、意識を集中して撃ってもあの時のような威力は出せなかった。

「うーん、魔力を蓄積すれば光るはずの触媒結晶も光らないし・・・そういう魔力の性質なのか?」

 討伐依頼を受けてきてるわけでもないのでそのまま帰路につく、鎧と杖の追加パーツを自宅倉庫に転送しておく・・・普通にやっているけどこの転送がなんでできてるのかも謎だ。

 答えもでないので大人しく帰って食事を済ませ就寝・・・学院の始業は前世と対して変わらず、空を飛べる分ギリギリまで寝ていられるのはいいことだと登校する。

 今日は確か学院合同戦の上位4人の発表だったな・・・ミリーは確実として他の3人は誰かなといつもの掲示板に6年生達が集まっていた。

「みんな集まってどうしたのです?」

 とりあえず発表のことは知らない振りをして、杖に付けた取っ手に片足を掛けながら空中で静止する。

「あ、フィオナちゃん!私も合同戦に選ばれたんだ、一緒に頑張ろうね!」

 仲良し3人組のココが胸元に両手を握りながら声を掛けてくれる、やる気があるのはいいことだが・・・今一緒にって言った?

 掲示板に目を向けると1から順に名前が書いてあった。

1:ミリー・シュタッド

2:クレイ・ハイアット

3:ココ・スレイン

4:フィオナ・ウィクトール

 私の名前もしっかり書いてあったのだった。

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