第4話天才と出会いました
全身鎧の謎の冒険者ジオのギルドからの不信感を取り払うこと早2年、私は私立シュタッド魔導学院の正門を前に改めて周囲を見渡していた。
学院生が行き交う中、私の横を通る度に顔と杖を見比べては近くの学院生仲間に話しかけていく。
身長の割に大きな杖を持ってる幼女が気になってしょうがない・・・といったところだろうか?
「ちっちゃ可愛い~」「なんだあの杖、変わった形だな」「試験受けにきたのかなあ?杖気合い入りすぎー」
などなど、私フィオナ・ウィクトールのことに関して様々な憶測が飛び交う中
「あ、杖に乗ってよく中流層飛び回ってる子じゃない?」
「あぁ、ウィクトール家の三女か?じゃあ貴族ではない・・・にしては立派な杖を持っているな」
話の最後に杖のことをいうことからやはり置いてきた方がよかったなと思ってはいたのだが、というより置いてくる予定ではあったのだが母がとても悲しげに・・・
『フィオナ・・・杖置いていっちゃうの?入学試験なんだから持っていってあげてほしいわぁ・・・』
と母を悲しませるつもりはないから渋々持ってはきたのだが、宝具相当の杖を卒業時ではなく入学前から持っているのは少々意味合いが異なるだろう。
例えるなら挑戦しようする際に初心者用ではなく、プロ仕様の本格的なものを用意し形から入ってるようなもの。
恐らく周囲にはそのように見えているだろう・・・実際才能の有無なんて入学してから徐々に分かってくるというのが一般的な考え方だろう。
まあそれはそれと気を取り直し、門をくぐり杖を携えた老人の象の前にある掲示板を見ようとしたのだが・・・位置が高くよく見えなかった。
体を宙に浮かせようと魔力を込めようとした時、周りにいた入学予定であろう子たちの会話が耳に入った。
「実技試験は絶対俺が一番になってやるぜー」
「も~その前に筆記試験でしょ~、そこでの不合格が多いってお母さんいってたもん~」
「そうだよ、僕とココは余裕だけどカームは術式構築のとこ全然覚えてくれなかったから不安だよ」
そういうお前だってと会話が続いていくが、私はこの子達の話から致命的なものを見落としてる事に気付いてしまった・・・筆記試験・・・だと・・・?
ふと今までの記憶を辿ってみると魔導師や魔導術に関しての本は確かに読んではいる、しかし筆記試験を前提に勉強してるような事など何もやっていない。
空を飛び回ってたり冒険者ジオとして魔物狩りしたり採取したりと・・・筆記対策など皆無な記憶ばかりである。
実技で周りより凄めの魔導術を使ってあいつはいったい何者だ?的な展開を想像していたから、筆記試験があるだなんてそもそも考えてもいなかったのだ。
最初に通うのが剣士の道か魔法使いの道かの違いで、選んだ後は小学生の義務教育よろしく普通に入学するものだと勘違いしていたことに気付いたが・・・時すでに遅し。
私立シュタッド魔導学院は3つの棟で構成されており、老人の象の左右に2つと象の奥の道を進み魔導術の稽古に使われているであろう広場を抜けた先に立派な棟が1つ。
そして私が今いるのは広場であるが、抜け殻のように私はぽーっと立ち尽くしていた。
目の前では入学試験を受ける子供達が的にむかって様々な魔導術を放っている、思えば他の人が魔導術を使うのを見るのはこれが初めてではあるのだが・・・
「風よ撃ち飛ばせ、エア・バレット!」
「風よ、敵を撃て!エア・バレットォ!」
同じエア・バレットという魔導術みたいのようだが・・・詠唱内容が使う子によって違う。
でも杖の先端に浮かび上がっている魔法陣みたいな模様には違いはないと・・・魔導師を目指していた私は魔導術の事を理解してはいないのだと思い知らされた。 中には詠唱せず杖を構えてる状態から火の玉を放つ子もいた・・・無詠唱って転生者特権ではないのかぁと空を仰ぎ見ていると、後ろから声をかけてきた子がいた。
「あなたがフィオナ・ウィクトールですわね?」
声の主は私より背が高く(私より背が低い子はここにいないが)肩甲骨辺りまで伸びる金色の髪に淡い緑色の瞳の可愛いというより綺麗な少女だった。
「はいぃ~そうですけど、私なんかに何か御用です?」
筆記が壊滅的でやる気が消し飛んでいる私は気の抜けた言い方で返す、その子の名前は
「私(わたくし)はミリー・シュタッドと申しますわ、噂は耳にしておりますわよ。小さな天才魔導師さん?」
・・・小さな天才魔導師?初耳ではあるがそれを聞き返す前にミリーが言葉を続ける
「杖に乗って空を飛ぶというあなたのその魔導術が気になってしょうがなかったんですの、そんな魔導術をどうやって覚えることができたんですの?」
んーあれか、幼年期の少女が魔法少女を夢見るとかそんな感じの好奇心で私に声をかけてきたようだが・・・魔導術といっていいようなものでもないしどう説明するべきか悩む。
無詠唱を使ってた子のようにすればいいのではと返してみたところ、興味深い話が更に返ってくる。
「クレイ・ハイアットのことですわね、流石は宮廷魔導師の孫といったところですけれど。無詠唱だろうと術式を理解し構築するところは同じですのよ?私は杖で飛べるような術式をどう構築しているのか尋ねてますの」
無詠唱でも術式は必要・・・ミリーのその言葉で私は魔導術と魔法の違いとは何なのかと考え直してしまった。前世で特別頭がいいわけでもなかった私だがここにきて改めて無知を思い知る。
術式を通して魔法のような現象を発生させるのと魔法を使うために術式が必要だというのは意味は変わらないだろう。
何がおかしいのかというと私はそもそも術式を理解できなかったから触媒結晶に魔力を通して直接イメージだけで魔法の現象を発生させていたのだと思っていたが、ここでも違う所がある。
それはジオの全身鎧を作ってた時とそのジオでレーザーブレードやらシールドとか使う時に、杖は使ってなかったという単純なことだった。
ここまでの解釈だとこの世界の人達が使っている魔導術に術式も触媒結晶も必要はないということになるのだが・・・いやそもそもまずこの実技試験だけでも受からないと学院でより深く追求するといったこともできなくなる。そうこう考えていると
「まあ学院に入ってからでも遅くはないのですけれど・・・そうですわ、実技試験の評価順位で私のほうが上だった時は教えて下さるということでどうかしら?」
付き人達の間でわたくしも天才と呼ばれてますのよ、と話が勝手に進んでいる・・・断ろうと話を返す前にミリー・シュタッドと呼ぶローブを羽織った教師の声が聞こえてきた。
「よく見ておいでなさい、私の実力を」
と広場の的の方えと優雅に歩いていった、あの子の天才という言葉が実力として示されてしまった場合・・・私が生半可な魔導術で挑んだら学院側の印象そのものが弱くなるということにほかならない。
するとどうなる?筆記も実技もアウトになる・・・圧倒的な魔導術で周りどん引きのなんかやっちゃいましたも通用しなくなってしまう・・・
「ちょっと待っ・・・」
周囲の空気が変わる、ミリーが両手を横に広げ詠唱を唱える
「雷よ鳴り響け、ライトニング・レイン!」
名前のニュアンス的に中級魔導術だろうかと少し安堵しかけたがその光景には違和感があった。両手にそれぞれ違う魔法陣・・・術式が展開されている。杖を持ってないことに気付いたがそれは両手それぞれに触媒結晶を取り付けてある手甲のようだった。的の真上から雷とは別に竜巻も同時に発生していたことからミリーがやっているのは・・・
「重なれ、サンダーストーム!」
直撃した的以外もまとめて吹き飛ばすそれはとても中級の威力ではなかったのだった。
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