第3話冒険者になりました(仮)

 キィン! キィン!

闘技場の広い敷地内のあちらこちらから金属音が響き渡っているのに我にかえる。

 危うく通り過ぎて王城に空から突撃するという事態避けることができた、そんなことをしたらテロ認定で打ち落とされても文句も言えない。

「考え事しながらの運転は危ないですよっと」

旋回しながら高度を落としつつ父と兄姉の位置を確認したのちゆっくりと着地した

「父様~兄様~姉様~」

3人の顔が複雑な笑みを浮かべ何事かと周囲を見渡すと、あれだけ響いていた金属音が鳴り止んでいた。

「フィ・・・フィオナか、びっくりしたぞ・・・どこから入ってくるんだ」

父が私の娘ですと周りの騎士や制服を着た少年少女達に説明しに行ってしまった、アイリが目を輝かせながら近づいてくる。

「今空を飛んでたよね!?凄い凄いどうやってるの!?」

「なるほど、それが魔導術というものなのか。空中からの攻撃とかも考えると・・・」

アイリの方は好奇心、アストの方は対処の考察と反応は色々である。

「フワァ~ビューンって感じなのですよ」

のんびりマイペース設定でアイリに面倒な説明をぼかしつつ、チラチラみてくる周囲の人達を眺めていると・・・ノルスと騎士の一人がこちらへと向かってくる

「待たせたなフィオナ、この闘技場はこの国で一番偉い王様が作った由緒正しき場所だから入り口から来なきゃ駄目だぞ~」

あ、気にするのそこなんだと呆気に取られていると騎士がノルスに話し掛ける

「いやいやノルス、それ以上に空!空を飛んできた事の説明を聞きたいんだが!?」

「あーいや、フィオナが来たのにもびっくりだが空を飛べるなんて俺も知らなくてなぁ。マリナが天才だわと大袈裟に喜んでいたがお前のその反応だと・・・マリナの判断は間違いじゃなかったということだな」

うんうんと頷きながら私の頭を撫でてくる、なんというかウィクトール家の人逹も私のことを言えないくらいにはマイペースなのでは・・・

「それよりどうした?剣に興味もってくれたのかぁ?」

「母様の代わりにお弁当届けにきたのですよー」

「「「ありがとうフィオナ!」」」

3人の声が見事にハモっていた。


 初めてのおつかいから2年が過ぎ私はでかい鎧の前に立っていた。ここは家の屋上に作られた物置小屋の中なのだがようやく完成したこのでかい鎧というのは・・・

「それなりの形にはなったかな・・・」

自作した全身鎧なのだが何故こんなものを作っていたのか、それは冒険者ギルドに登録する手段として身元を隠蔽の為に用意したのである。

 何分前世でこんなの作る経験はしてないからあーだこーだと7歳から作っていたら8歳になっていた。

 ゲームもなければ動画も見れないこの世界の娯楽不足で魔術学院入学までの年月を過ごすのには長いのだ。

「冒険者登録に年齢制限があるとは・・・いやまあ普通に考えたら、子供に命の危険もある依頼を扱うような仕事を任せるのは無理だよね」

しかもこの体は同年代でも更に幼く見えるから最悪登録できる14歳でも断られるんじゃなかろうか、無理して冒険者になる必要はないが駄目といわれたら無性にやりたくなってしまうというもの。

 身分証は必要じゃないから実力を示せる事が条件というからいけるんじゃねと思ったが年齢には厳しいとかこの世界の基準のわからなさよ・・・

 ということで全身を覆い隠し身分を偽って登録してやろうという勢いで7歳の誕生日プレゼントに多めの鉄板銅板をお願いしたところノルスが買ってくれたこの素材達を溶接し続け作ったのだが、細かいことをあまり気にしないあの父でも鉄板銅板を所望する娘に対しては困惑を隠せない様子だった。

 魔導師を目指しているのに鎧を作っているこの矛盾、魔法騎士なんてものを目指してるわけではないのだがとにかくこれで準備は整った。

 動作確認も済ませたから後はバレないことを祈る、この体が小さいといっても2倍以上大きく見せれば大人達の平均以上にはなるからいけるとふみ、一旦鎧をここに置き冒険者ギルドの近くに移動する。

 鎧は人目を避け転送してから装備、声は低周波を発生させ低く聞こえさせることで誤魔化せるだろう。


 ブォォン ブォォン 

 紫色の光の軌跡を描き魔物を切り裂いていく全身鎧の謎の冒険者ジオ。ギルドではその噂が出回ってるらしいがどうやらこれを疑ってる者もいるらしい。

「噂は本当だったのか・・・なんだあの武器は・・・」

「魔導具・・・かしら?」

一緒にパーティーを組んだ冒険者達があれこれ考察をしているが、彼等が目にしているのは両腕から2本の紫色に光る剣で魔物を斬る全身鎧の男の姿。

 盾と剣を持った女性と杖を持った男性、後は短剣を持った男性の3人組に助っ人を頼まれて付いてきたのだが目的地の洞窟で魔物に遭遇するやいなや・・・

「あんたの実力を確認したい、先に戦って見せてくれないか?」

ということでまあ戦っていたらそんな話をしだしたというのが今の状況だ。

 実力での証明は望むところだが正直戦いが得意というわけではない、アイリやアストのように剣を習っているわけではないからだ。

 この戦い方もイメージは前世でハマっていたロボットゲームのレーザーブレードやレーザーシールドによる、ファンタジーとは無縁な戦闘スタイルでやっているため異世界の人達には異様に見えるだろう。

 読んでいた本の中に魔導具があるのは知っていたからそれで通すつもりだったがやはり限度はあるようだ。

 結局1人で全滅させた後で改めて話し掛けることにした。

「それで・・・実力の方はこれで十分見せれただろう?帰っていい?」

 声の方は鎧頭部に低周波で反響させ低く通していることで誤魔化している。

「あ、ああすまないな。こちらにも事情があったものでな」

冒険者の1人が馬車で送るときに訳を説明するといって私含め4人馬車の中で話を聞くことにした。

「改めて、俺はこのパーティーのリーダーをやっているシーフのイートだ。さっそくだが俺はギルマスに依頼されてあんたを助っ人に誘ったんだが・・・」

 なんでもギルドマスターが私を貴族の道楽で冒険者をやってるんじゃないかと疑われているようだった。

 ここだけ聞くと意味が分からないだろうが理由はこうだ・・・

「貴族の暇潰しで鎧で身を隠し依頼を護衛にやらせてるのではないか、とギルマスがあんたの実力を疑っていてな・・・」

「誰とも組まず、それでいて武器も何も持ってないというのは怪しい・・・とおっしゃってましたからねぇ」

私の隣に座っていた魔導師の男がそう言ったことではっとした、全身鎧の癖に剣も盾も持ってないから魔導師には見えないだろうし杖を持ってきてるわけでもない。

 他の人には別な意味で異様に見えていたようだった・・・確かに前衛だろうが後衛だろうが、何かしら武器は必要なのは明白だった。

 元からこのブレードとシールドで戦う予定だったが、展開してなければ何も持ってないようにしか見えない・・・

「私もまさか魔導具で戦うとは思ってもいなかったわ、だってこんな魔導具見たことも聞いたこともないもの・・・」

 魔導具を戦闘で扱うには慣れも必要らしく小さくなればなるほど貴重な物になるが、その理由は素材への術式を刻み込むのが困難になるからだそうだ。


 魔導具、それは触媒結晶や術式を刻み込んだ特殊な素材を用いて作られている魔導術を自動展開させるというものだった。

 特殊な素材とは魔力伝導率の高いミスリル金属とディオール樹の木材の2つが使われており、私の杖もこのディオール樹製である。

 素材が高価なのもそうなのだが、この触媒結晶と術式の部分が魔導具の小型化を難しくしてる要因らしい。

 触媒結晶まではなんとかなるようだが術式を細かく刻むというのが難儀らしく、職人が減っているというものも相まって小型の魔導具になればなるほどその希少性が増す。

 希少素材と刻まれた術式によっては宝具に認定されるものもあると・・・この全身鎧を魔導具として通すにはブレードとシールドを2つずつというのは盛りすぎになるのかもしれない。

 ジオの鎧自体は張りぼてで、鎧の内側に張り巡らせている銅板に魔力を通して腕に取り付けた籠手の先からレーザーブレード、表面からレーザーシールドをイメージして出している。

 魔導武器というものもあるらしく違いは術式が刻まれていないミスリルやディオール樹が使われている武器全般の事・・・少々括りがややこしい。

「鎧の魔導具・・・といっていいのかしら?」

「盾みたいなものまで展開してるのも見たし、いったいどこでそんな物手に入れたんだ?」

さて・・・これをどう説明するか、王都までの帰路の途中で途方に暮れる私なのであった。

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