第2話杖を貰いました

 5歳の誕生日、母マリナが私の身長よりデカい木箱をテーブルに置いた。

 ぽーっと本を読んで暇を潰していたものだから目の前にいきなり置かれた際に、思わずびくっとしてしまった。

「?凄く大きい箱なのですよ母様・・・」

 もしかして誕生日プレゼントとか思ったりもしたが、この大きさだと流石に違うかと、本を読みながら母に尋ねる。

「誕生日おめでとう、フィオナ、きっと絶対気に入るわ・・・!!」

 度々テンションが上がってるときのマリナは周りが見えなくなることがあるが、今日は特別食い気味に言葉が返ってきた。。

「え、これ私になのです?凄く立派な木箱なのですよ・・・」

 横に長く大きい木箱は立たせれば私の身長の2倍はあるであろうくらいの大きさ、5歳児に渡すものではないぞ・・・いや中身が何かは知らないけれども。

 前世であればデカい熊のぬいぐるみということもあるだろうが、元冒険者の剣士をやってた母が少し重そうにして置いたところをみるに違うだろう。

「お婆様にも援助してもらって奮発したのよ~」

 料理の手を止めて二階にあがって持ってきたみたいだが、誕生日パーティーまで渡すのを我慢できなかったみたいだった・・・我慢できないのはもらう側の方のような気がするのだが、早く渡したくて仕方なかったのだろう、いったい何が入ってるのやら。

「アイリ姉様やアスト兄様の時の誕生日にもここまでのは用意してなかったのに、なんか悪いのですー」

 ポケポケのんびり娘(家族の認識)の私はとぼけて返してはいるものの・・・流石に気になってくる。

 アイリやアストの時も立派な剣を用意していたとはいえここまで大きくはなかった、アイリの剣は子供が持つにはサイズがあったが。

「開けてみてフィオナ、驚くわよ~?」

 もらう側より何故か開けるのを催促してくる母に応えつつ、開けてみるとその中身は・・・・・・?

「?これは・・・・・・杖なのです?」

 思わず疑問系で聞いてしまったのは、杖というには少々・・・かなり仰々しい見た目だったためだ。

 表面を撫でてみると木製とも金属とも言えない何とも不思議な感触をしている、さらさらのようなツルツルのような・・・。

「そうらしいわよ、何でも宝具相当の魔導具に使われてる素材でできてるとか、多分あれかしら?」

 それっていくらしたのだろうか、ウィクトール家は中流階級でも裕福なほうみたいだが、流石に宝具相当の素材ともなれば貴族でも厳しいのではなかろうか。

 ちなみに宝具というのはアーティファクトと呼ばれる古代魔導具の次にくる高級魔導具である。

「アーティファクトと宝具の次くらいの代物・・・ということです?これは流石に」

 うん、本当に5歳児に贈るような物ではないな!興奮して周りがみえなかっただろうとはいえ、借金まみれになるのはちょっと・・・ギャンブルにハマってた前世の友人の顔が少しだけちらついた。

「お金のことなら気にしないでいいのよ、元冒険者時代の友人が王都の宮廷魔導師でね、お願いしたら用意しれくれたのよ」

 それは初耳である、宮廷魔導師なら・・・で済ませていいのか?その甘さはあれか、冒険者パーティー時代母に思いを寄せてた・・・みたいなパターンなのだろうか・・・。

 そうこうしてるうちに、父ノルスと兄姉達が帰ってきた・・・ノルスは笑顔、アストとアイリは私と似た反応であった。



 王都クロウディルには大きく分けると2つの区画がある、城下町と王城・・・といったらざっくりとしすぎなので正確には王都を囲む壁門から下層、中層、王城を含む上層の3つ。

 3つの区画にはそれぞれ広場が設けられており、そこの中流広場で魔導術の練習をしていたが、あの杖を持ち歩いて広場に毎回いくのは骨が折れる。

 と言うより悪目立ちするので、二回ほど出向いて杖を持っていくのは断念した。

 6歳になって町を歩きまわっていると、やはり違う世界に来てしまったのだと再確認した、前世で生まれ育った地域からでないまま死んでここに来てるのだから外国すら異世界に見えてたかもではあるが・・・。

 太陽?が真上に昇る前に帰宅し扉を開けると、母マリナがちょうど扉の取っ手に手を掛けようとしたところだったよう。

「母様、今からお出掛けですか?」

 そう声をかけたところで、少し大きい風呂敷を持ってることに気付く。

「おかえりフィオナ、お父さん達、弁当を忘れていっちゃってたみたいだから届けようと思って~。闘技訓練だっていうから一杯作ったんだけど・・・そういう時に限って忘れていくんだものノルスったら」

 闘技訓練とは、王城近くにある闘技場で行う王家直属の騎士団も来るような、かなりガチな訓練である(恐らく)。

 剣術学院の敷地内の稽古と違い、騎士団も交えた訓練となると普段以上に体力も使うことだろう・・・張り切って出て行った3人の姿が目に浮かぶ。

「家から闘技場はそこそこ距離あるですよ母様?」

 闘技場があるのは上町・・・王城の目と鼻の先の所に建てられているから歩いて行けば結構な距離だ、しかも地味に登り坂なのも相まって、荷物を持ってとなれば行くまでに体力を消耗しそうだ。

「お腹空くだろうし、お母さんも闘技訓練に参加したことあるから、訓練後の気持ちがわかるのだけれど・・・」

「んー・・・私がもっていくですよ、少し興味があるですし」

 前世の母の顔がちらつき、この世界の母にも親孝行はするべきだと思いそう口にしていた、この世界の初めてのおつかいというやつだ。

「それは助かるけど・・・フィオナの体ではちょっと重いわよ?距離もあるし・・・」

 私は体格に恵まれてはいないらしく、同年代でもかなり小さい部類にはいる(目線の高さで察したが)。

 8歳の姉と10歳の兄は同年代の中でも身長は高いのだが、私の身長と体格の小ささは、二回目の人生ゆっくり生きようとしているせいなのだろうか・・・それはそれとして。

「大丈夫ですよー秘策があるのです」

 母にそう言いながら二階に向かい杖を取りにいく、上等の杖を貰ったのだから、今こそ使うべきだろう。

「杖?うーん、荷物が重いのに更に重い杖を持ってくるのは・・・余計に無理じゃないかしら・・・?」

 この杖・・・名前をディオールと付けたそれは、見た目に反して重くは感じない。

 この小さい体であまり力を入れずに持てるほどである、宝具の次にくるだけのことはあるが、これで何をするかといえば、やはり乗って飛んでいくというのが王道というもの。

 箒ではないから魔女っぽくはならないが、まあ細かいことは置いておく。

 広場を行き来してる時に思いついてはいたのだが、初披露がおつかいとか・・・まあいい。

「空を飛ぶ魔導術があるのですよ、建物を気にしなくていいので楽々なのです恐らく」

「まあそれは便利ねぇ、ならお任せするわね」


 いってらっしゃーいという母の声を背に杖に身体を横向きにして座り、そのまま上昇する。

 風の魔導術の応用・・・だと言いたいが、そもそも書物に書かれてる魔導術を未だにどれも再現できてはいない。

 やはりあの術式の構築という部分がさっぱりである・・・現在のこれは魔力放出の際、自分のイメージできる属性に直接変換して発動させている・・・言ってしまえば、紙飛行機を風で浮かせつつ自身からも後ろに向かって風を送り、無理矢理前へと進ませてるようなもの。

 空から見下ろした城下町はなかなかに壮観で、ついつい鼻歌を口ずさんでいた。

 下で何かあったのか少しざわついているみたいで、気になって見下ろしてみると道行く人が空を見上げていた、というより私を見ていた。

「な、なんだあれ・・・人か・・・?」

「子供が空を飛んでる・・・・・・?」

 そこそこ目立つかもとは思っていたが、王都の人達は空を見上げるくらいには余裕のある生活をしてるようだった。

 日本にいた前世では歩きスマホ越しで下向いていたり、通勤通学で死んだ魚の目してる人達が多かったから(偏見)予想より反応があった。

 母マリナも普通にいってらっしゃいと送り出したから、飛行自体、実は珍しくないのかもしれないという考えもあったのだが・・・。

 宮廷魔導師の友人がいると言っていたから、もしかしなくても魔導師に関しての認識が少しずれてるのかもしれない。

「・・・それにしてもこの距離・・・歩いていくのはきつそうだなぁ・・・」

 空を飛んで闘技場に向う間、改めてそう思ったのだった。

 

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