異世界でロリッ子魔導師になりました

リオック

第1話転生しました

 目を覚ますと見慣れない天井が広がっていた。石造りでランタンのような物が複数垂れ下がっており、周囲を確認しようと体に力を込める。

 指が動いてるような気はするが力が入ってる感覚はせず、首の方もうまく回らなかった・・・と、視界に女性の姿が入ったと同時に抱えられる。

 女性の隣から男性の声が聞こえてきた。

「無事に生まれたようでよかったよマリナ、頑張ったな」

「あなた・・・どう致しまして、と言っても、この子も頑張ってくれたからですよ」

 どうやらこの2人は夫婦のようだが見覚えがない、と言うより、この状況を理解できなかった。

 確か仕事から帰宅途中で頭と胸が激しく痛みだし、家についた頃には意識が朦朧とし、ヘッドホンを外さずにベッドの前で倒れた・・・はずだが気がつくとこの状態で目の前には知らない夫婦が笑いかけている。

 ・・・死・・・だったのだろうか、あっけないものだ、いつ死んでも後悔のないようには生きてきたつもりだが、後悔どころか死の瞬間すら感じなかった・・・。

「この子に、神の御加護のあらんことを」

 聞こえてきているのは日本語のようだが、転生先が同じ日本・・・というには女性の銀髪と男性の水色の髪が違うということを物語っている。

 外国の可能性もなくはないが、だとしたら日本語なはずはないだろう。

 転生者特有のご都合主義な状況だが正直ありがたい・・・前世と言っていいのかはわからないが、外国語は文字通り死ぬまで覚えれなかったから転生先で言葉が分からないというのは勘弁である。

 この異世界・・・と確定したわけではないが、ここウィクトール家の子供として生まれ変わったのもある意味では神の御加護と言えるのかもしれない。

 正直に言うなら異世界以前に、死後の世界すらないと考えていた驚きを隠せない、自分がそれに立ち会えるとは夢にも思わなかった・・・。

「んー、でもアストとアイリの時と違って泣かない子だな・・・こんな事もあるのかぁ」

「のんびりした子に育ちそうですねぇ」

 特に不信がる事もなく呑気に世間話をしだした父と母のような人達、あまり細かいことを気にしない性格なのかもしれないが・・・限度はあると思う。

 気にされても困るのでこのままでいてもらっているほうが、とこちらとしても助かるので控え目におぎゃぁと声を出した。

 私はフィオナと名付けられ、このウィクトール家の三女として生活している。

 しかしながらここがどういう世界なのかも現段階ではよくわかっておらず、体もろくに動かせないので生活を送るという状態でもないわけだが・・・いずれ分かるだろうと母マリナ・ウィクトールの背中で周りの人達の会話を聞きながらこの世界の知識を確認していくのであった。


 銀色に三本の黒いラインが混じった髪が生え揃ってきた1歳になる私こと、フィオナ・ウィクトールとして生まれ変わってから、この世界に関してある程度わかったのはここは日本でした・・・なんてことはなく、異世界という認識で間違いないようだ。

 建物や風景だけでは外国に転生した可能性もありえるのだろうが、前世ではない感覚がある・・・おそらくは魔力だと思っているのだが。

「さあご飯の時間だぞ~一緒に行こうなぁフィオナ~」

 ベビーベッドに横になっていた私を父のノルス・ウィクトールが抱きかかえる。

 部屋を出た右手側の階段を降りたところにキッチンや居間があるようだ、ご飯は極力、家族全員揃ってから食べるというこのウィクトール家はとても暖かな家庭であることが伺える。

 この家は三階建てらしく二階が家族みんなの寝室と隣の空き部屋、三階は後々姉のアイリ・ウィクトールと私の部屋にする予定みたいだ。

 建物は全体的に石造りで、床に絨毯はある程度ひいてあるのだが、ハイハイで移動するには少々膝に優しくない。

 立って移動しようとおもえばいけるにはいけるが、まだ体のバランスがうまくとれないので階段でこけようものなら再び死んでしまいかねない。

「父さん、明日の剣の稽古ついて行っていいですか?」

 兄アスト・ウィクトールが父ノルスに問いかけていた。

 姉は3歳、兄は今5歳みたいだが、アストは凄くしっかりしている。

「わあいいな~私もいきたいー!」

 姉のアイリの方は明るく落ち着きがない、だが3歳ならこんなものなのだろう。

 兄のアストが5歳にしては落ち着いているのだが、一方私のほうはぽわーとしていてのんびりした子と、そのように見えてるらしい。

「おお、いいぞいいぞ。2人は剣士に興味があるのかなあ?」

「ブンブン振り回してて楽しそうー」

 家族団らんを見ながらのんびりご飯を食べている私が今考えているのは、この世界に魔導術なるものがあるらしく、それを扱える者が魔導師と呼ばれている・・・それが気になってしょうがない。

 ウィクトール家は剣士の家系らしく話を聞いててもあまり魔導師や魔導術のことが話題に上がらないのが少し残念なところだ、聞くところによると魔導師同様剣士も魔力は使うらしい・・・この世界では常識らしい。

「フィオナも連れていくか、と、思ったが・・・まだ剣士の戦いを見せるには早いか?」

「流石に気が早いですよあなた、1歳になったばかりなのよ?」

 まあ中身的には問題はないのだが、子供に剣の打ち合いを見せるのはといいたいところだがここは異世界。

 日本現代人の常識で当てはめてもしかたないだろう、兄のアストに至っては5歳でもう剣の練習をしている上、魔物も存在している・・・魔導術という魔法のようなものがある世界と常識が同じなわけもなく。

「じゃああれだ、魔導学院を見学させてみるのはどうだ?」

「それこそ早いと思いますよ?私達もわからない分野ですし・・・」

 魔導学院・・・以前剣術学院がどうという話をしていたからもしやとは思っていたのだが、ちょっと気になると声を出そうとしたが、思いとどめておくことにした。


 そんなこんなで2年の月日が経ち、私は3歳になったのだが・・・前世のような保育園や幼稚園といったところに通うこともなく日々を過ごしていた。

「えーと、魔導術とは・・・魔力を触媒結晶に送り・・・増幅と放出を起こす事で、術式による火や水のような属性に・・・・・・杖に何かしらの宝石がついているのか?」

 口に出しながら読んでいるのは寝室の隣の部屋、現在はアストの部屋になっているが、そこにあった本棚の魔導術に関する本だ。

 この2年の間で言葉と違い文字は読めなかった事で、覚えるまでに悪戦苦闘していた、それ故に暇はしなかったが、いざ読めるようになってきたところで内容を理解しきれていないのが現状・・・。

「うーん、この魔導術に必要不可欠であろう術式に関する部分が・・・まったく分からない」

  魔法陣のようなものが描かれているから地面に描くか空中に魔力の光みたいなもので描くのかとやってみたものの・・・特になにも起こらない。

 この触媒結晶というのを使わないといけないのか、この体に適性がないのかもわからずじまいだが・・・。

「魔力があるというのはなんとなくわかるのに使う方法がいまいちピンとこない、魔力を放出するように念じてみたら体から抜けていく感覚だけはある・・・」

 あーだこーだとやってはみるものの、魔力を放出というのはできてるように感じる事から、魔力がないなんてことはないだろう。

 この触媒結晶というものに魔力を込めて、その光の軌跡で描くのだろうか・・・それにしてはこの初級の魔法陣の段階で結構複雑である。

 魔物と戦うと仮定した場合、これを毎回描いてから魔導術として使うのは厳しくないだろうか・・・?



 ゲームで詰まってはやめて、もう一回やってはまた詰まる、遊んでいながらに暇を感じるかのような何とも言えない不毛な日々を過ごし更に1年が過ぎ、気付けば4歳・・・まるで成長していない。

 もういっそのこと考え方を変えよう、術式だ触媒結晶だを一切合切無視して自分の中の魔力に意識を強く向けてみる。

 その時『色』が見えた・・・目をつむり何も見えないはずのそれは、色と呼ぶにはあまりにも深く黒い何かのように感じられた。

 そんなことをしていた最中、姉のアイリが部屋の扉を思いっきり開け、その音で我に返る。

「フィオナー、ママがご飯だってー!」

 6歳になっても姉のアイリは相変わらず元気一杯で、落ち着く気配は今のところない。

「は~い今行きまー・・・・・・!?」

 返事をしながら目を開けると今まで見たことのない光景を目にした、それは眩い赤い光を放っているアイリの姿だった。

「お、お姉ちゃん!燃えてるー!」

 そのあまりの光景に、私は姉の体が燃えていると錯覚してしまい思わず大声を出してしまっていた。

「え!燃えてるってどこどこ!?」

 アイリが慌てて周りを見渡すが、何も燃えていないということを確認しほっとした後に言葉を続けた。

「もー驚かさないでよ!どこも燃えてないじゃないフィオナ!」

 そんな冗談言うなんて珍しいと姉が言いながら部屋を出ていく、アイリが部屋を出るその時まで確かに姉のアイリからは赤い光・・・オーラみたいなのが放たれていたがそれを燃えていると勘違いしてしまったみたいだ。

「・・・もしかして、あれが魔力なのか・・・?」

 特に自分の体から赤いオーラみたいなものは見えないが、もしあれが魔力なのだとしたら私には魔力がないということになってしまうのだが・・・。

 しかし前世の感覚にない魔力みたいなのは確かに感じてはいるしと、そんなことを考えながら居間にいくと驚きの光景が更に広がっていた。

「んー、アストといい、剣術学院の生徒たちといい、才能豊かな子たちばかりで鍛えがいがあるなぁ」

 椅子に座る父と兄から青白い光が放たれており、食事をテーブルに置いている母からは淡い紫色の光を放っていた。

 ここで思い至ったのは、魔力の『色』は人によって違うという事である。

 そう仮定して見ると、その色は髪や瞳といった体のどこかしらの部分に共通してる、ようにも見える・・・ノルスやアストにアイリは髪、マリナは瞳の色といった感じだ。

「アイリー、そっちの皿も持ってきてー」

 私は何故か安堵を感じながら椅子に座る、赤い光は自分からは確かにでていなかったが、それ一色が魔力ではないという安心感である。

 前世にない魔力をこの身で感じてはいたのだから、魔導術の適性についてはまだ可能性があると・・・そう考えていた所でアイリが皿を持ったまま走ってくる。

 転んでしまいそうで心配だと頭をよぎったその瞬間、アイリがつまづき料理の盛られた皿が宙に舞った。

「きゃ!」「お姉ちゃん!」

 両手をかざして風で受け止める、何故かふとそんなイメージをしたとき、それは起こった。

 ひゅぉぉんと風が発生し、アイリと皿が宙で止まった。

「わわわ、なにこれ!」

 それは紛れもなく風の魔法・・・魔導術と呼べるものだった。

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