第5話疑われました
この世界の魔導術には5つの階級が存在している。下の階級から初級・中級・上級・国級・龍級であるがこれとは別の例外である魔級も含めると6つになる。基本的に魔級に関しては魔族側が使う魔導術という認識らしい。
人族や獣人族には使えないということで魔導術の階級には入ってないようだが、何故この魔導術の階級の話をしているかというと・・・
「準備が整い次第、試験を再開するのでしばらく待っていてほしい」
と今魔導学院の入学実技試験を中断させた張本人、ミリー・シュタッドが使った魔導術がどの程度のものだったのかと考察するためであるのだが・・・
あの魔導術はサンダーストームというもので、上級にあたるライトニングストームを模して放たれた中級魔導術である。中級であるだけならまだよかったのだが私フィオナ・ウィクトールの前でドヤ顔をしながらサンダーストームの解説をしているミリーの話で不安が絶望に変わっていく、周りが凄い凄いと騒いでるのもお構いなしにミリーが解説を繰り出す。
「あれは中級のエアストームとライトニングレインを組み合わせた私(わたくし)の独自に完成させた魔導術であり・・・」
ペラペラと流暢に説明している内容を私の中でまとめていくと・・・つまりあれは二重詠唱という形で中級魔導術を2つ同時に発生させて上級魔導術ライトニングストームを再現したものということになるのだが、これが意味することはこの世界の人族が使う魔導術の中でも複雑で難易度の高い方法ということなのである。
「す、凄っ!あれって二重詠唱ってやつだよね?」
「俺らと同じ年であんなのできるやついるんか・・・」
などなど周りの入学予定の子や学院教師側含め、興味を隠せないこの様子ではこの後に続く実技の判定基準のハードルは相当高いだろう。
本来なら普通に初級を発動させるか発動手前の術式の魔法陣を浮かばせられれば十分のはずなのだが、私が問題なのは筆記が壊滅的な結果だとわかっている状態で実技の印象すら薄いとなれば確実に落ちるだろう・・・
「小さな天才魔導師と言われているあなたの実力、しかと拝見するつもりですから本気でやって下さいませ」
準備も整い残りの子たちが魔導術を披露していくがこれは本気でまずい、あのミリーの二重詠唱だとか上級を再現した独自の魔導術というインパクトをどう超えるか・・・もはや上級魔導術並みのことをやっても周りの反応を引き出せないんじゃないかとすら思い詰めている。上級を再現したものと単純に上級をぶっ放すのでは似て非なるものである。
もちろん普通に考えるのならば10歳の幼女が入学前に派手に上級魔導術をぶっ放すというのは十分というかやり過ぎなレベルであの子すげぇでいけたかもしれないが、それより先にミリーという子がそれをやってしまっているというこの状態・・・正確には違うのだが上級の威力を意図的に複雑な方法で下げて放つというのはそのまま上級を使っているようなものと同位とみてもいいだろう。さて、どうしよう・・・。
自分の順番が刻一刻と迫ってくる、考え方を変えるならばこの状況はまだ救いがあるとも言えるか。
私が先に中途半端な魔導術を使ってからあのサンダーストームを放たれていた場合、入学はできなかっただろう。ミリーが話し掛けてこなければ上級と中級の間で実技の才能は高いから評価だけで学院に入れる・・・といった程度に抑えて魔導術を放っていたかもわからない。
2年前からの冒険者ジオとして活動している時の他の冒険者達の反応を思い出してみると、特殊な魔導武器・・・と認識されているレーザーブレードやシールドといった魔力を直接放出して斬ったり防いだりなどする魔導術は認知されていないようだった。
属性を直接纏わせたりするエンチャントみたいなのはあるようだが、今私が可能性を見出しているのは上級でも中級でもないけど見たこともないような魔導術・・・まあ要するに大出力のレーザーブレードである。
「次、フィオナ・ウィクトール」
呼ばれる前に結論を出せてよかったなぁと気を取り直して、的の方えと向おうとした所で教師に呼び止められた。
「ん?君、杖は持ってきてないのか?筆記試験の前に杖の所有の有無を試験を見る先生に伝えるように言っていたはずなんだが・・・」
とそう言われて杖を教室の前に置いてきてしまっていたことに気付く、筆記の壊滅的な結果にショックを受けてトボトボここにきてしまったことで持ってくるのを忘れたみたいだ・・・
「しょうがないな・・・誰か杖を」
そう周りへと言おうとした教師の言葉を私は遮るように声を出す
「あ、大丈夫ですーすぐ呼び寄せます~」
私は目をつむり教室の前にある杖を意識しここまで飛んでこさせ、横にのばした右手で受ける。ジオの鎧みたいに転送しなかったのはなんとなくやめておいた方がいいという直感である。
「つ、杖が飛んで・・・」「乗らなくてもあの杖浮せれるのか」という言葉を後目に頭上で杖を回し触媒結晶を上に向け構え魔力を意識し集中させる。
杖の先の空気が淀み蜃気楼のようにぼやけ巨大な紫色の光の柱が延びる。
ブォォォォォン!!
私はそれを思いっきり振り下ろした。
ミリー・シュタッド程ではないが設置しなおされた的は凪払われ前方の地面は縦方向へと抉れており、光の柱は徐々に収束し消えた。 薄目でその光景を眺めていた者達は皆静けさから声をあげてゆく。
「なんだ・・・今の・・・?」「ま・・・魔導術・・・だよね・・・?」
ミリーの時のようなすげぇという言葉が聞こえてくることもなく、ちょっと予想していた反応とは違うが概ね思い描いた大出力レーザーブレードを放つことができたといってもよいだろう。杖を肩に抱えて後ろを振り返るとミリーが駆け寄ってきていた
「凄いですわ!あんな魔導術を使うなんて思いもよりませんでしたわ!」
私の両肩を掴み目を輝かせて喜んでいるようにみえる。自分の方が天才だというマウント勢みたいな感じかと思っていたがいい娘じゃないか、とへらへら笑い返ながら周囲をみていると試験受けにきている子達とは別に教師複数人がざわついているのが目に入る。
また広場の修繕がといったような困惑的なざわつきとは何か違う、こう少しピリついた印象を受ける。
「フィオナ・ウィクトール君」
広場を再度整え直している教師達を脇目に見ながらいつの間にかミリーの後ろに立っていた長い顎髭を垂らした老人に視線を向ける。
「はい~?」
ミリーの反応的にこれなら十分度肝は抜けただろうと少し安堵していた私は気の抜けた返事をしていた。
「申し訳ないのだが、君の杖を少し学院のほうで預からせてくれないかね?」
とこれまた予想していない言葉を投げかけられたのだった。
後日改めて学院のほうに合否を発表するので確認しにきてください、日程の方についてはお家に手紙を送りますので・・・という話の後に解散していく入学予定の子供達を学院で一番大きい棟から私はぼーっと眺めていた。
待たされてる理由を色々と考えてはいるものの、広場の被害的なやつであればあのミリーって子の方がやらかしてるよねぇとか考察しているとその本人の私を呼ぶ声が聞こえてきた。
「こんなところにいたんですのね、探し回りましたわ」
「ミリー・・・ちゃんも残ってたんです?」
ミリーは私の事が気になって理事長室のほうにまで顔出しにいったらしく、どういうことなのか話を聞きにいってくれてたみたいであった。
どうも私の杖が魔導具なのではないかという疑いを掛けられているようだった。
「まさか本当に魔導具・・・なんてことはないですわよね?」
確かに入学前にあんな気合いの入りまくった杖を持ってくる子供がいるかと頭を抱える大人達が一定数いるかもしれないくらいにはこと構えてはいたのだが、まさか魔導具の可能性を疑われているとは思いにもよらなかった。
まず杖自体が魔導具だろうと私は認識していた為だ、と目の前に立っているミリーにそれとなく尋ねてみる。
「魔導具ってどういうものなんです?」
と口に出したら魔導具を知らないみたいなニュアンスになってしまった気がするが、ミリーは特に気にした様子もなく素直に応えてくれた。
「ミスリルやディオール樹の素材に術式を刻み込んで魔導術を自動化する武具全般の事を魔導具と呼んでいますわね、魔力を刻まれた術式に流してそのまま触媒結晶を通して直接発動する・・・て筆記試験にも出てる初歩ですわよ?」
ふむ、私の杖はディオール樹製で・・・術式による魔法陣の展開もなく・・・詠唱もなしでの魔導術の発動っと。
・・・私はもしかして凄い過ちを犯してしまったのではと城壁に沈む太陽を遠い目で眺めながら溜め息をついたのだった。
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