二十五日目

「それ小口切りじゃなくて、輪切りだよ!」

え?

そのふたつの違いなんて、私には分からないよ。

料理なんて、まともにしたことないもん。

切り方が違かったとしても、それも個性じゃないかな。

言い訳か。

「戸田、お前は馬鹿か。なんで、強火にしてんだよ!」

橋川さんは料理ができるから、調理実習では大忙しだ。

「弱火で九分だろ、強火で六分くらいやればよくね?」

それな。

戸田さんと橋川さんがコンロの方に行ってしまった。

仲良しだな、あの男女。

「一応、戸田さんも切り方は分かっていたのにな。」

小口切り。

教科書の説明を見ても分からない。

「あ、小口切りはこうやって……」

うわ、びっくりした。

私の後ろに、高田くんの声が存在する。

好きな人に、いきなり手を握られると困る。

というか、これもう抱擁じゃ。

ドキドキ、イケメン高田くんと作ってみよう。

心の方が熱くなっちゃう、調理実習。

いけない、いけない。

訳の分からないタイトルコールをしてしまった。

「って感じです。」

あ、本当にいけない。

一生懸命に説明してくれていた、だろうに。

聞き逃しちゃった。

咄嗟に、私は高田くんの目を見た。

困ります。

「あ、困りますよね。勝手に師匠気取りで、すみません。」

いや、困ったは困ったけど。

そういう、意味じゃなくて。

私の心、調理しないで下さい。

あ、ちなみに。

私の心臓を食べるなら、活きのいいハツの踊り食いですよ。



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