二十日目

「チェス大会!」

目の前にチェスの盤面と、駒の入った袋が置かれた。

「なんで、いきなり?」

きっと、二人も同じことを思っただろう。

「でも、どうせ。動画サイトで見て、興味を持ったってところだろ?」

そう言われた橋川さんは、笑顔で高田くんを指さした。

「さあ、始めるよ。」

皆で一斉に、駒を並べ始める。

私はどの駒が、どの位置かも分からない。

その場に、突っ立っているしかなかった。

「馬鹿にするつもりはないんですけど。駒の位置、わかりますか?」

高田くんの手が、駒を並べる手を止めた。

好きな人の優しさは、いつでも心地いい。

「ごめん、ボードゲーム詳しくなくて……」

うわ、ずるい。

本当に謝ってるのに、そんな笑顔。

「分かりました。じゃあ、ポーンっていう小さい駒。これを、手前から二番目の列に全部おいてください。」

小さく頷き、駒を並べる。

「ちなみに、このポーンっていう駒。将棋でいうところの歩みたいなイメージです。」

初めて知った、そうなんだ。

まあ、私の距離の縮め方は歩よりも遅いけれど。

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