十五日目
「みんなのことを名前で呼んでみよう!」
橋川さんが急に、謎な提案をしてきた。
「なんのため?」
高田くんと戸田さんも、同じ考えだろう。
「私ら、友達じゃん?ㅤなのに、苗字呼び。かなり珍しいと思うんだ。」
たしかに、苗字呼びは珍しい。
「でも、好きな距離感でいればいいんじゃね?」
橋川さんは、首を振りながら笑う。
「当たり障りのない人生を送るには、世間に合わせとけばいいってことよ!」
戸田さんの台詞を笑った割には、大した発言じゃない。
「まあ、面白そうだからいいんじゃね? ︎︎高田、じゃなくて。千斗も賛成だろ?」
戸田さんの適応力が、凄い。
「ああ。戸田、じゃなくて。貴史。」
やっぱり、この四人は暖かいな。
「……貴史さん、飲み込み早いですね。」
苦笑いしながらも、慣れない名前呼びをする。
「冬美も早いけどね!」
提案者が最後に名前呼びにするぐらい、みんなが積極的。
それは、この四人のいいところだろう。
「冬美、千斗に好きな食べ物を聞いて!」
私にはわかる、夏菜の見たいものが。
「あの、せ。せ……」
それは、私が好きな人の名前を呼ぶところだ。
最初からこれが目当てなのかもしれない。
「あ、千斗です。名前忘れちゃいますよね。」
なんか、好きな人の名前を忘れているってことにされちゃった。
「千斗くん! ︎︎私、忘れないよ。名前。」
名前も覚えてない人だなんて、思われたくない。
その思考で、頭がいっぱい。名前を呼ぶ行為への緊張もなくなって、そんなことを口走った。
「ふ…… ︎︎そうですよね。すみません、馬鹿にしたみたいになっちゃって。」
今日も、私は怖がられている。
世間的な好きな人との関係値とは、だいぶ違うのだろう。
でも、千斗くんに近づくの。
私の速度で。
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