四日目

「このぬいぐるみ、可愛いな。」

ガラス越しに見たぬいぐるみを気に入った。

蝦蟇口の財布を開けるのに時間がかかる。

どうやら不器用さは変わっていないようだ。

「クレーンゲーム、苦手なんだよな。」

大きさはそこまで大きくない。

クレーンゲームが得意な人なら数回でとれるだろう。

お金を細長い穴にいれると、何事もなく操作ができるようになった。

「もうちょっと右じゃないかな。このあたり?」

アームがぬいぐるみのお腹のあたりを刺した。

また、お金を細長い穴にいれる。

「さっきの結果を活かして、今度はもうちょっと奥だ!」

アームが頭を掴む。

持ち上がったが、不安定になって落ちるだけだ。

またまた、お金を細長い穴にいれる。

「やっぱり、難しい……」

結果は言わずもがな。

「うーん。悔しいけど、これ以上はお金使うのが嫌になるな……」

ぬいぐるみと目が合った。

「じゃあね。」

私は泣く泣く、クレーンゲームから離れた。

出入口を通ると、邪魔にならない端に移動した。

「ぬいぐるみか。買える場所、近くにあるかな。」

スマートフォンをとりだすと、検索機能を使う。

「ぬいぐるみを買える場所、っと。」

条件に当てはまった場所は、遠く離れた場所だった。

「今年の誕生日プレゼントはぬいぐるみにしてもらおう……」

スマートフォンをズボンの右のポケットにしまった。

「愛月さん!」

いきなり名前を呼ばれ、後ろを振り返った。

「高村くんじゃないですか、奇遇ですね。どうかされたんですか?」

高村くんはなにかを隠しもっている。

「もし良ければ、これ!」

高村くんが見せてきたのは、私と目が合ったぬいぐるみだった。

「譲ってもらっていいんですか?」

高村くんは深く頷いている。

「嬉しいです。取るにあたって、何円かかりましたか?」

高村くんは財布を覗いた。

「三百円でしたけど、どうかしましたか?」

百円玉を三枚で返せるかな。

「いやいや! 俺が勝手に取っただけなんで、お金を返されようなんて思ってません! いつもお世話になってますので、それのお礼でもありますし!」

高村くん、それじゃあ、私の気が済まないよ。

好きな人に努力させておいて、対価も用意しないだなんて。

「拒否しないで。またいつか、私が返すことになる。」

私は高村くんのズボンの右のポケットに手を入れた。

「ぬいぐるみ、ありがたくもらうね。じゃあ!」

ぬいぐるみをもらうと、高村くんに背を向ける。

「いろいろと、すみませんでした!」

背中に響く声。

高村くんの右のポケットに不器用に入れられた五百円玉は、私の中ですごく価値のある五百円玉になった。

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