第60話 ささやかな食事会

「いやぁ、アイク君。君はいつも何かしらの偉業を達成しているなぁ」


 目の前にはギルガ王がニコニコとした表情を浮かべて座っている。


 ただ、いつもの玉座に座っている訳ではない。


 ここに円卓上のテーブルがあり、食事を囲むように俺、ルナ、アリサ、リコリス、マーシャ姉、そしてエルフ王国の国王オベロンが座っている。


 今回は魔人崇拝者の拠点をつぶしたことに加えて、エルフ王国との国交を結べたことに対してのな食事会である。


 俺もルナも功績を見せびらかしたい訳ではない。功績を周囲に知らせることは、無駄に敵を生み出しかねないからだ。


「ひょっとして、我が王国の国庫を枯らしに来ているのかな? まぁ……その分のリターンが大きいから何も言えないのだけれど」


 ギルガ王はわざとらしく、大げさに首を振る。


「まさか。たまたまですよ」


「本当の謙虚だな、アイク君は。たまたまでこんな偉業をいくつも達成できる訳がないではないか」


 ギルガ王はまたまたわざとらしく溜息を吐く。


「恐れ入ります」


 俺もギルガ王に合わせ、わざとらしくお辞儀をする。


 正直なぁ……結果的にそうなっただけで、俺はルナと幸せな生活ができればなんだっていいのだ。たまたま利害が一致したにすぎない。


「ギルガ王。本当にすまない。本当ならエルフの王宮内で話をしたいところなんだが……今、王宮が魔王崇拝者の攻撃で王宮内を修繕中なのでね。この場を貸して頂いて本当にありがたいと思っている」


「とんでもない! とは言っても今回はアイク君、ルナ殿、アリサ殿のおかげだがな!!  私もいつも世話になっているがな!! はっはっはっは!!」


 何故かギルガ王は高笑いをする。


「しかし、報告を受けて驚いた。まさか魔王を倒すべき勇者が魔王崇拝者と繋がっていたとはな……まったく困ったやつらだ」


 正直はそれは全く予想していなかった。


 原作だと魔王を倒すべき勇者と敵サイドである魔王崇拝者が手を組んでいたのだ。


 往々にして、主人公とかつての敵がタッグを結ぶ展開は熱いとされているが、これじゃあただ面倒な敵と面倒なやつが手を組んだだけ。


 なにも熱くない。むしろ感情が冷えていくような気がしてならない。


「たしかに君達の活躍がなければ、我がエルフ王国は滅亡していたかもしれない。本当に感謝しているよ。この場を借りて感謝申し上げさせてほしい。それに私の息子ファウラスのことでも迷惑をかけた……いや、正直に言えば息子とすら思いたくないが」


 オベロンは頭を下げる。正直、自分の息子が謀反を起こしたとなればショックだろう。


 しかも一歩間違えれば、息子のせいで、自分が統治するエルフ王国が滅亡するかもしれなかったのだから。


「お気持ちお察ししますが、私は善なる者のために聖女としての役割を全うしたに過ぎません」


 オベロンの言葉にアリサが返す。あくまで気持ちを察することだけ。これ以上はそっちの家庭の問題だ。こればっかりは俺もアリサも踏み込めるものではない。


 そこはアリサも察してか、あえてオーバーなリアクションで続ける。


「それに私よりルナ様はすごかったですよ? その場にいる兵士達に強力なバフをかけた後、『やっぱりアイク様と一緒にいたいわ!!』って言って飛んで行かれてしまわれてのですもの」


「そうですね。アイク様はこんなにルナ様に愛されて羨ましいですわ」


「え? 当たり前ではないのですか? 正直に言えば、私はアイク様以外どうでも……」


 ルナはアリサとリコリスの言葉にさも当然かのように言う。


 やだ……! ルナが俺と一緒にいたいと駆けだしてくれていたなんて。


 こんなの萌えない方が失礼というものだ。


「本当にね。アイク? こんなに尽くしてくれる女の子、なかなかいないわよ?? アンタ万が一でも浮気したら、分かってわよね??」


「あ、当たり前だろ?? 俺にはルナしかいないんだから」


 マーシャ姉は俺に圧をかける。別にやましいことなんてないのに、ちょっとドキッとしてしまう。


 もちろん悪い意味で。そこにトキメキポイントはない。この感覚はむしろお化け屋敷に近い。


「まぁ、俺の活躍はともかく、今回被害が出なかったのはルナとアリサのおかげだと思います。俺はルナが良ければなんだって構わないので」


 ほぼほぼルナとアリサのおかげではあるが、こちら側の人的被害はゼロ。


 曰く、ルナの強力な全体バフとアリサの回復魔法によって死亡者はおろか重傷者すらいない。


 さすが原作最強のラスボスと正ヒロイン。まさかこの二人が力を合わせるなんてフォーチュンラバーの大ファンである俺からしたら嬉しい限りだ。


「そうは言っても、余としても感謝の気持ちを形にしたい。私にとって君は友人以上の存在だ。なにより私の娘、リコリスの命の恩人でもあう。なにか困ったことがあったら遠慮なく言ってくれ。全力で手助けすることをここに誓うよ」


 オベロンはリコリスの頭を撫でながら、言う。


 オベロンはよっぽとリコリスの事が大事なんだと感じた。


「そのお言葉……有難く頂戴致します」


 しゃあ!! これでこの王国で何かあってもルナと逃げられる先ができたぞ!!


 もちろんそうならないことが一番だが、いかなる時も保険はあった方が良い。


 ルナが幸せなことが俺の幸せだが、逆にルナの不幸は俺の不幸でもある。


 その不幸を軽減できるなら、今回はそれだけでも十分価値がある。


「それとこれを受けとってほしい。余からの心ばかりの礼品だ」


 オベロンは風の魔法に乗せて、ゆっくりと金属の箱を渡してきた。


 俺は受け取ると、箱が勝手に開いた。


 貰っていきなり開けるつもりはなかった、マナー的にも良くないから。


 まぁ、勝手に開いたなら仕方ない。


「これは……?」


 箱の中から、苗とかなりの大きさであろう葉っぱが筒状に丸めた状態で収納されていた。


「これはユグドラシルの苗と葉だ。葉は1年に数枚しか採る事が許させないが、苗があれば疑似的にユグドラシルの葉を採取できる。アイク君達が魔王崇拝者を倒した後、我が母なる神木が実を落とされたのだ。これはきっとそういう運命に違いないと私は思っている。是非とも大切に育ててほしい」


「オベロン王……」


 たしかユグドラシルの葉は成長に必要な素材だ。領地に置きっぱなしのドラゴンの卵に使うとするか。


「もちろんこれを機に、ギルガ王との親善を深めよう。アイク君の生まれた土地だ。きっと我がエルフ王国の国民も納得してくれるだろう」


「それは誠か!! おぉ!! 私としてもとても嬉しいですぞ!! エルフと人間の更なる栄華と繁栄のために友として協力し合おうではないか!!」


 ギルガ王はめちゃくちゃ嬉しそうに言う。


「この縁を繋いでくれたアイク君にはさすがになにか形にしないと申し訳ないな!! あぁ、しかし今、パッと与えられるのは新らたに爵位しかない……あぁ、待てよ。本来ならば王族が一生に一度しか入れない宝物庫に入る権利を授けよう。本来ならばありえない措置だが、今回は特例中の特例だ。なんでも一つアーティファクトを持っていくといい!」


「それは……誠ですか?」


 宝物庫といえば、本来の原作である主人公である勇者が、ラスボスであるルナを倒した後に入れる場所。


 ここでいつも勇者は絆のペアリングを選択し、攻略ヒロインと結ばれてエンディングを迎えていた。


「あぁ誠だ。本来エルフ王国は中立国だ。その立場を何百年も崩していない。そのエルフ王国と正式に友好関係を結べるのだ!! これは有り余る偉業だぞ!!」


 つまり本来のエンディングに必要なアイテム――絆のペアリングを俺が貰ってルナとのハッピーエンドルートを迎えて良いってことだよなぁ!!


「それではお言葉に甘えさせて頂きます」

「あぁ!! この食事会が終わったら好きなものを選ぶがいい!」


「ありがとうございます!!」


 これはもう……後は式を挙げれば完璧じゃないか!


 俺はワクワクしながら、このささやかな食事会を楽しみのであった。


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