第57話 変容


「まだまだ……お楽しみはこれからだ。お前の嫁も仲間も……エルフ王国の住民も!! 全員まとめてパーティにご招待だ!!」


 魔王崇拝者のリュカオンに対して俺は龍星の杖を構える。


 王城での爆発音。他の魔王崇拝者が王城に襲撃をかけたということ。


 ルナが心配だから戻りたい。だが、王城には聖女のアリサやエルフ王国の新鋭の騎士団もいる。


 ここで、こいつらを無視して戻った場合、次にどんなアクションを取ってくるかは分からない。俺とルナの幸せな生活のためここで倒しておきたいが、ルナの安否が気になって仕方ない。


「お前らと何かを語る時間すら惜しい」


 すると、全身の力が漲るような感覚がする。


 この感覚は……ルナの全能力強化オールエンチャントか。


 つまり、ルナが先陣を切って戦っているということ。


 だとしたら、夫の俺が失態を犯す訳にはいかないよなぁ?


「まさか聖女の力か……? 目の前にするとさすがに忌々しいな」


 リュカオンが見合上げる先は王城。


 なるほどリュカオンはこの力の源をアリサと勘違いをしているようだ。


「まぁ、そんなこんなでさっさと倒させてもらおうか。愛しの妻を待たせてしまうからな」


 俺は雷属性の魔法陣を大量に展開する。


 人間は電気信号を用いて、筋肉に命令をしている。その電気信号に対して強めな電気を流してしまえば人間の筋肉は硬直する。


 つまり敵を無力化して捉えるだけならば、雷属性の魔法が一番適しているのだ。


「くそっ!! 防御魔法シールド!!」


「舐めやがって!」


 ライザお兄様ユリウス勇者はシールドを展開する。


 しかし、そんなもので俺を止められると思うなよ。


「有難いな。そんなちっぽけなシールドしか出せないのだから……早くルナの元に戻れそうだ」


「「ぐ、ぐあああああ!!!」」


 ライザとユリウスは俺の雷属性の魔法を食らって、地面に伏せる。


「て、てめぇ……! 殺してやる!!」


 ライザ《お兄様》は俺を殺気のこもった目で睨みつける。


 今さらながら、アリサと敵対していなくて本当に良かった。


 今と比べて魔法の知識は疎かったとはいえ、俺と勇者が決闘した時に張ったシールドは簡単に破れる気はしなかった。


 それに比べてユリウスとライザこいつらのシールドは何回張ろうが、


「おいおい。俺を忘れてもらっちゃあ困るぜ!! 俺とも踊ってくれや」


 声のする方をチラッと見ると、ファウラスが俺に攻撃を仕掛けようとしていた。


「闇魔法――『ダークリーパー』」


 鎌状の魔気で生成された魔法に対して、俺はファウラスの攻撃を片手で展開した防御魔法で防ぐ。


「あぁ……そうか。お前もいたんだったな」


 原作のフォーチュンラバーだと、攻撃が当たった者に状態異常を付与する厄介なスキルだ。特に一定確率で付与される即死が厄介だった。だけどこの世界において、攻撃が来ることが分かっていれば何も恐れることはない。


「なるほど……噂以上の実力じゃないか」


 ファウラスはニヤリと笑う。


「いいねぇ!! もっと俺と踊ろうぜ!!」


 ファウラスは再び俺に攻撃を仕掛ける。俺はファウラスの攻撃を防御魔法で防ぎつつ、大量に展開した雷属性の魔法で応戦する。


 この場で俺に対して、憎悪や敵意を向ける人間しかいない。


 ただ一人、俺にものがいた。


「ワシは神に魂を捧げる!! この不届き者に制裁を!!」


 あいつはたしか……アリサから神聖教の破門を言い渡された神父の坊さん……たしか名前はマーウィンだったか。


 ちょうどいい。何をするか知ったことではないが、あいつも完膚なきまでに叩き潰そう。


 あの時、見逃してやったのに、それでもなお俺とルナの幸せな結婚生活の邪魔をするなら容赦はしない。


 しかしマーウィンが取ったのは予想外の行動だった。

 

 マーウィンは短剣を取り出し、自分の心臓部に短剣を突き立てる。


「ぐはっ……!!」


 うずくまるマーウィンを中心にが広がる。


「何をやっているんだ……?」


 赤黒い魔気は実体を持って、マーウィンを包み込む。


 するとマーウィンは赤黒い肉の塊になった。その赤黒い肉の塊は心臓の形を模している。

 

 今まで攻撃をしていたファウラスは攻撃を止めて、赤黒い肉の塊となったマーウインを恍惚な表情で見つめる。


「あぁ……もったいねぇ。そんな純真無垢な魔気。すすらないほうが失礼ってもんだろ」


 そう言いながら、リュカオンは赤黒い肉の塊となったマーウインに近づき、齧りついた。


「美味い……旨い……うまい……ウマイ……」


 リュカオンはかつてマーウィンだったものを一心不乱に貪る。


 不覚なことに俺は状況が呑み込めず硬直していた。


 ふと俺は我に還る。なんとなく嫌な予感がした。


 俺は瞬間的に雷属性の魔法を放つ。火力よりも速度を重視して攻撃をした。


 しかし、リュカオンの肉体は赤黒く変容したせいか、その影響か中途半端な火力の魔法にダメージを受けている様子はなかった。


「あぁ、力が……溢れる。漲る」


「なるほど……これは本腰をいれないとダメみたいだな」


 俺は改めて、龍星の杖を構える。


 ここからは全力だ。


 ルナと幸せな未来を掴む取るため、負ける訳にはいかないから。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る