第55話 ふざけたパーティのはじまり

「よぉ、ファラウス王子さん。こんなところで奇遇だな」


 ファウラスは驚愕の表情を浮かべているが……、


 その後ろには見知った顔が何人か見えるじゃないか。


「どうしてここが……? ありえない! 今お前は魔王崇拝者討伐のための作戦会議をしていたはずではないのか!?」


 そこまで詳細が分かっているということは、王城に内通者がいるのだろう。実際、ファウラスの脱獄があっさりと上手く行ったのもファウラスを持ち上げる存在がいるのだろう。


「なんでだろうなぁ? というか、自分達が討伐される作戦会議を止めなくて良かったのか? まぁ、今更関係ないだろうけれど」


「だ、黙れ!! そんな馬鹿にしたような笑みを浮かべやがって!! これ俺が誰だか分かっているのか!!? 俺はエルフ王国の王子!! ファウラス・ローゼンガーデンだぞ!!」


「あれ? この前、王子の位をはく奪されてなかったか?」


「貴様……本当に不敬だな! 絶対に殺してやる!!」


 ファウラスは俺を睨みつける。


「それで、ライザのお兄様と勇者様はどうしてこんなところに? まさか、我が国にクーデターでもお考えで?」


 それに、ライザの愛人のユークリッドもいるではないか。


 なるほどな。こいつらはとことん人類の敵になったということか。


 原作にそんな流れはなかった。なんなら勇者は魔王崇拝者……どころか魔王を討伐する側の人間だ。それなのに、エルフ王国……それも魔王崇拝者の拠点で仲良くお話だなんて、こいつは一体何を考えているのだろう。


「クーデターだと……?」


 ライザが呪詛を振りまくように呟く。


「そんなものに興味はない!! 俺はアイク……お前と親父さえ地獄に落とせればなんだっていいんだわ!」


「そんなことをしたら、ライザお兄様の帰る家もなくなると思いますが?」


「それはお前らを地獄に落とした後に考えればいいだろう? あぁ、安心しろよ。お前が愛しくて堪らない、ルナ・オルハインも一緒に地獄に送ってやるからよぉ」


 さすがお兄様。俺がキレるポイントを理解されていらっしゃる。


 それならお望み通り、


「あ? そんなに死にたいならトドメを刺してやるよ。決闘で負かした時より完膚なきまでに……生まれてきたことを後悔させてやる」


 そこまで喧嘩を売ってくるなら買ってやる。どちらにしろ、ここにいるのは俺の……いや、俺達の敵だ。


「くくく……モブが吠えてろよ。お前は勇者である俺が……いや、俺達がぶっ倒すんだよ。この世界の主人公はお前じゃなくてこの俺、勇者ユリウスだ! 立場をわきまえろよ!!」


 たしかに原作のフォーチュンラバーのことを考えたら、勇者の言う通りかもしれない。


 だが俺はそんなふざけたシナリオを……ルナをラスボスに仕立て上げて、不幸にするシナリオをぶっ壊すために戦っているんだ。


「はぁ……誰が主人公とかどうでもいい。お前らは俺とルナのイチャイチャタイムを邪魔してくるクソ野郎共だ。それふだけで俺がお前らと戦うの十分なんだよ」


「イチャイチャタイムだ? 馬鹿にしやがって」


 勇者ユリウス俺の言葉に引きつった笑みを浮かべている。


 俺からしたらお前らの方が俺を馬鹿にしているけどな。


「まぁまぁ、落ち着けよ。歓迎するぜアイク・ハンバルク。お前のことはよく聞いてるぜ? その膨大な魔力に破壊力……お前の力は過小評価されてる。もっと存分に世界を思い通りに!! もっと自由に暴れる権利がある!! そうだと思わないか!!?」


「誰だお前」


「おいおい……つれないなぁ。俺はリュカオンって言うんだ。ここで魔王崇拝者の幹部をしている。まぁ、俺のことはどうでもいい。アイク・ハンバルク。俺はお前のことを高く評価しているんだぜ? 何度でも同じことを言うが、お前の力はもっと自分自身のために使うべきだって」


「黙れ。力とか興味がない。俺はルナと幸せに暮らせればそれでいいんだ。勘違いしてもらっているようだが、俺は魔王崇拝者お前らが気に食わない。俺とルナの平穏をいつもめちゃくちゃにしやがるお前らが嫌いだ」


「そうかい。それは非常に残念だ」


 魔王崇拝者の幹部リュカオンは大きめのため息を吐くと、


「だが、まずは」


 リュカオンは指を鳴らす。


「王城に俺の仲間を送っておいたが……さて。ピンチに間に合うかなぁ??」


 すると爆発音が複数響く。爆発の一つは王城の方角だった。


「やってくれたな」


 俺は龍星の杖を構える。


「まだまだ……お楽しみはこれからだ。お前の嫁も仲間も……エルフ王国の住民も!! 全員まとめてパーティにご招待だ!!」


 リュカオンは楽しそうに笑う。


 こいつらを倒す理由ができた。


 人の生活を……命を弄ぶようなやつは一発ぶん殴らないと気が済みそうにない。

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