第54話 脱獄の後 SIDEファウラス

「なんで俺がこんな扱いを受けなければならないんだ!!」


 俺こと、ファウラス・ローズガーデンは王宮内にある牢屋に入れられていた。


 牢屋にあるのは薄汚い石畳みと鉄の牢。そして地を這うネズミ達。


 本来ならば王族として、視界に入ること許されない嫌悪すべき生き物共。


 俺はエルフの王家の長男として生まれた。それは誰よりも誇り高き存在であり、誰よりも尊ばれる存在……誰も俺を縛るものはいない。そう思っていたのに。


「殺してやる……!! 殺してやるぞ!! アイク・ハンバルク!! オベロン・ローズガーデン!!」


 こんな屈辱は初めてだ。よりによって、こんな汚らしい空間に置いただけに飽き足らず、この俺を平民と同じ地位にまでにした。万死を与えるには十分の愚行だ。


 必ず……必ず、後悔させてやる……! 


 アイク・ハンバルクの目の前で連れの女共全員を辱め、痛ぶり、殺してやる。


 その上でアイク・ハンバルクを絶望と後悔の中で殺したとしても、まだ足りない。


 その次は人間共の領地に攻め入って、人間共全員を駆逐して、奴隷にしてやっと腹の虫が収まるだろう。


 そんなことを思っていると、


「ぐああああああ!!」


 近くにいた門兵の悲鳴が聞こえる。


 すると、ただでさえ建付けの悪いドアの軋む音と共に光が差し込む。


「王子。お迎えにあがりました。さぁ我ら魔王崇拝者と共に悲願を叶えましょう」


「あぁ、すごく待っていたぞ」


 目の前には黒い修道服を着た男達の集団。


 彼らは魔王崇拝者の構成員である。


 俺は安堵の溜め息を吐いた。


 エルフ王国の正しい姿に戻すために、俺の手駒になって動いている奴らだ。


 俺が父上を打倒し、エルフ王国の王となった暁には彼らには十分な褒美を与えようと思う。


 まぁ、という建前の元、コキ使い倒そうと思っていたのだが……今ほど、彼らを待ちわびた時はなかった。


「一度、魔王崇拝者の拠点に戻りましょう、ファラウス王子」


「そうだな……そろそろ、温めていた計画を実行しよう。エルフ王国を正しい姿にするために」


 俺は魔王崇拝者の男達に引き連れられて、移動する。


 目的地はエルフ王国内にある魔王崇拝者の拠点。


 1時間ほど移動した後、エルフ王国内にある魔王崇拝者の拠点に辿り着く。


 ユグドラシルの根の付近ということもあって、それなりに広い空間である。


「お?? 来たか」


 俺を出迎えたのはエルフ王国内にある魔王崇拝者の支部長リュカオン。


 リュカオンはいつもヘラヘラとした小馬鹿にした笑みを浮かべている。薄気味悪い存在ではあるが、俺の目的には必要な駒だから致し方なく利用しやっている。


 一人は時折見かける人間だったが……ほかの小僧達は見たことがない。


「まぁ、こいつらは俺らのお仲間みたいなもんだ。聞いてるぜ王子様よ。あのアイク・ハンバルクに小馬鹿にされたんだって?」


「誰が……!! あんな人間風情に……!!」


「まぁ、奇しくもここに俺以外のやつらはアイク・ハンバルクに一杯食わされた奴らだ。仲良くしようぜ? みんなで仲良くアイク・ハンバルクをなぶり殺してやろうじゃないか」


 ニヤニヤしながら言う。


「待て。アイクを殺すのは俺の役目だ。あいつだけは兄である俺がブチ殺さないといけない。邪魔するなら俺がお前らから殺してやる」


「なんだ貴様……この俺がやることに対して文句があるのか? 不敬だな。そんなに死にたいなら俺が殺してやろうか?」


 初対面でなんて不敬な人間だ。先ほど兄と言っていたから、アイク・ハンバルクが弟なのだろう。


 なるほど、兄弟揃って不敬な存在だ。やはり地は争えないというか。

 ……いっそ、今ここで殺してしまおうか。


「まぁまぁ落ち着けよ。仲良くをなぶり殺せないなら、早い者勝ちってことにしよう。その間にやらなきゃいけないこともある。大局を見失うほど恥ずかしいことはないぜファラウス王子様」


「……そうだな。お前の言う通りだリュカオン。人間共を粛清することはエルフ王国を俺のモノにしても十分に間に合う。せめて亡骸くらいは残せよ? 死してなお罰を与えなければ俺の気が済まないからな」


 俺がそう言うと、アイクの兄の後ろにいる男がクツクツと笑う。


「面白そうだな。俺にもその様子見させてくれよ」


 そんなことをいう小僧の右手に見える紋章に見覚えがある。たしか、勇者を証明する聖痕だと思うが、噂に聞くより、色はくすんで見える。元からそんな色だったのか。


 思考が伝説に聞く勇者ではないが、今代はたまたまそうだっただけなのだろうか? 


 まぁ、俺には関係のないことだが。


「ん? なんか近づいてやがるな」


 リュカオンは急に虚空を見上げる。


 どうした?? もう耄碌もうろくしたのか? 


 俺がそんなことを思っている。


 急に「キーン」がしたと思った一瞬後、頭上がひび割れ崩れる。


「よぉ、ファラウス王子さん。こんなところで奇遇だな」


 まるで悪役のような笑みを浮かべたアイク・ハンバルクが目の前に現れたのであった。

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