第50話 舐めたやつにボディブロー
「――父上!! この神聖なる王宮に生物として最も価値のない人間を招き入れたとは本当ですか!?」
ガタイの大きいエルフの男が玉間で叫ぶ。
「ファラウス……静かになさい。ご客人の前だぞ」
ベイロンはガタイの大きいエルフの男をファラウスと呼んだ。ファラウスがベイロンのことを父と呼んだことから、リコリスと同じ王族なのだろうけれど、二人と比べてかなり正反対な性格なのだろう。
ベイロンのリコリスに対して『エルフらしくない』と評していたことを考えると、むしろファラウスという男の反応が『エルフらしい』のだろう。
「やはり人間……我々と違ってなんて醜いんだ!!」
非常に腹が立つがファラウスはガタイが良いのに顔立ちはしっかりとしていた。
こういう輩は一番危険だ。体育会系のノリで大学時代に新人歓迎会で女の子を食いまくっていたテニスサークルの男を想像すれば、その危険度が分かるだろう。
万が一でもルナを食わないという保証はない。一体、どうしてくれようか。
俺の内心を知ってか知らずか、ファラウスは侮蔑の込もった視線で俺達を睨みつけている。
「それに魔法の技術も劣る。それもそうだ。何故なら人間とは生きている年数が違う!! 事実、ここにいる人間はもれなく俺に勝てるやつなんて誰もいない!」
鼻で笑った面をして、ファラウスは舐めたことを言う。
「おい。今、ルナのことも馬鹿にしたのか?」
「ルナ? あぁ、そこにいる女の内の一人か? 馬鹿にするもなにも俺は事実を言ったまでだ」
「ほぉ……? あの世への片道切符をご所望という認識でよろしいか?」
「アイク君。余の子供が失礼なことをした。余がちゃんと言い聞かせておこう。だから落ち着いてくれないか」
「おいおい父上。ビビりすぎですよ。こんなやつ一瞬で捻り潰してやる」
「ファラウスよ。人間の国との政治があるんだ。こんなことで敵を増やして戦争になったらどうするのだ?」
「その時の敵国全部滅ぼせばいいではありませんか」
「ファラウス!!」
ベイロンは怒号をあげる。
なるほど。エルフらしいエルフってのはずいぶんと傲慢だな。
「悪いが、そっちがその気なら容赦をするつもりはない。最初は隣国との関係のためにエルフの国民が安心して暮らせるように、エルフ王国に巣食う魔王崇拝者を倒せればいいとさえ思っていたが……ルナまで侮辱されるなら話は別だ」
「それで?? 許せねぇから、なんでったんだよ。俺はなんだっていいぜぇ?」
「それじゃあ後腐れのないよう、決闘という形でよろしいか?」
「構わないが?? そうだな仮にお前が勝てたら、さっきのことは謝罪して認めてやるよ」
「そうか。だったら今の内、謝罪の分でも考えるんだな」
俺が言うと、ファウラスはニヤリと笑みを浮かべて、
「安心しろよ。肉体強化しか使わないでいてやるからよ。簡単にくたばるんじゃねぇぞ?」
「奇遇だな。俺もこの素晴らしい建物に傷をつけないために、俺も肉体強化だけで戦ってやるよ」
俺とファウラスは肉体魔法をかける。
それを見たベイロンは深いため息を吐く。
「はぁ……お互いが合意なら仕方がありませんね。どちらが負けても後腐れがないようにするのですよ。それでは『神緑の加護』」
ベイロンは『神緑の加護』を発動する。
「神緑の加護を受けた者は致命的の攻撃を受けても死ぬことはありません……ですがお互いやりすぎないで下さいね」
「善処します」
俺がそういうと、ファウラスは今度はニヤニヤとした笑みを浮かべて、俺に告げる。
「ハンデで一発打たせてやるよ」
「そうか。それではお言葉に甘えさせて頂こう」
どこまでも舐めたやつだ。だったら後悔くらいはさせてやろう
俺はファラウスの右の懐に潜り込む。
そのまま左の拳を肋骨にめがけて打ち込んだ。
「は……? ぐふっ!!」
力強く踏み込んだ足の勢いに加えて足、腰、肩の回旋運動で的確にファラウスの内臓を抉るが、肉体強化魔法によって強化された俺の拳によってファラウスは壁に向かって一直線に吹き飛び、壁面に身体をぶつけた。
「ぐあああああ!」
ファウラスは地面をのたうちまわっている。
神緑の加護のおかげで死ぬことはないかもしれないが、それでも死にたくなるような苦痛までは緩和できないのだろう。
「いてぇ……いてぇ……!! てめぇ!! ふざけんじゃねぇよ!!」
「いや、お前が打ってこいと言ったのだろう?」
「殺す!! お前だけは殺してやるよ!!」
俺にファウラスは俺に呪詛を吐く。
その姿を見ていたオベロンはゆっくりと立ち上がり、ファウラスに冷ややかな視線を浴びせる。
「どうやら我が息子だからと甘やかしすぎたようですね……」
「何を言っているのですか父上……?」
「黙りなさい。ファラウス……貴方がやったことは国際問題になりかねないのですよ?」
「今回先に手を出したのはファラウスでしょう? 人間が崇拝している神を奉る神聖教の聖女に公爵の子息であるアイク君……この二人を侮った相手にファラウスが負けたことは事実です」
「負けてなど……!」
いない。そう言いたいのだろう。俺としては一向にかまわない。
ルナを馬鹿にしたのだから、極限まで苦しみ抜いても全然足りない。
「もう一度同じ質問をしましょう。エルフ王国と人間の間に戦争が起きたら責任を取れますか? 死んでいった者はユグドラシルに還るかもしれませんが、残された者の心は誰が癒してくれるでしょう?」
「そ、それは……!」
「取れないのですよ、誰も。当然国王である私も。
「何故ですか!! 父上!!」
「牢屋に連れていきなさい」
「父上!! 父上!!」
ファウラスはそう叫びながらもエルフの騎士に運ばれていく。
「やはりこのエルフの王国は……」
去り際、ファウラスからそんな呟きが聞こえた。
間違いなく前々から不満がたまっていることはたしかのようだ。
「すまない、アイク君。許されないと思っているが今回のこと、どうか水に流していただけないだろうか? 息子に代わり謝罪する」
オベロンは切実に謝罪をする。まぁ、別にオベロンが悪いわけではないからな。
「今回だけ……ということにしておきましょう。ルナもそれでいいか?」
「もちろんです♡ アイク様が望むのであれば♡」
ルナがそう言うと、
「ありがとう。二人とも恩にきるよ」
オベロンはホッとした声で言う。
今回のことはこれで終わり。
お互い水に流したということだし、これにて一件落着ということにしておこう。
「し、失礼致します……! ファラウス様はこちらに人間をからかってくると……あぁ、遅かったですか……」
息を切らしたエルフの女騎士イヴが天を仰ぐのだった。
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