第49話 エルフ国王への謁見

「ようこそ王宮へ。愛しのリコリスが招し、ご客人達」


 玉座に座るのは、王様にしては20代前半の風貌をしたエルフの男。


 リコリスと比べても若く見える。兄と紹介されても疑うことのない風貌。しかしその年齢は裕に100を超えているらしい……バグかな?


 とはいえ、原作のフォーチュンラバーでもその強さは異常だった。


 負けイベント後の敵を一撃で倒すなど、原作屈指の強さだった……ちなみに負けイベントはどんなに工夫しても莫大な体力で攻略不可だった。嫌な思い出だ。


「余は第120代エルフ国王ベイロン・ローズガーデン。なんでも君達はそんなリコリスの命の恩人と聞いた。本当に感謝しているよ。ありがとう、アイク・ハンバルク君、聖女アリサ」


 ベイロンはそう言うと、俺達に微笑んだ。


 アリサはただにっこりとした笑顔で返した。何も話さなそうだったので、代わりに俺が答えた。


「いえ、当然のことをしたまでです」


「いやぁ、本当に人間という種族は謙虚だ」


 ベイロンはうんうんと頷く。


「他の子供であれば、もっと無意味に傲慢なのだが……まったく、誰もがアイク君のように謙虚であってほしいものだよ」


「お言葉ですが、私は謙虚なんかではありませんよ」


「またまた……」


 俺がそう言うと、笑って冗談だと捉えられた。


 別に信じてもらわなくてもいいのだが、勝手に思ってくれるならそうしてもらおう。


「最近は謙虚すぎて、逆にわざとやってるんじゃないかってくらいだもんね」


 マーシャ姉がボソッと俺にだけ聞こえる声量で言う。


 さすがマーシャ姉。よく分かっていらっしゃる。


「ちなみに!!」


 ベイロン王は急に身を乗り出して、大きな声出す。


 少しびっくりしてしまった。


 原作のフォーチュンラバーにはそんなシーン無かったぞ?


「リコリスはまったくそう言った主張をしないからな!! エルフらしくないとは言われるが、余はそこが可愛くて仕方がないのだよ」


 急に惚気が始まる。さすがにその展開は予想していなかったな。


「おっと……すまない。少し色々と話しすぎてしまったようだ。こんな年寄りが年甲斐もなくはしゃいでしまったね。忘れてくれ」


 ベイロン王はそうは言うが、俺はあえて言いたい。


「陛下、その気持ちとても理解できます。私も妻であるルナがとても可愛くて……語ろうと思えば時間が足りませんから」


「あ、アイク様!?」


 予想していなかったのか、ルナは上擦った声を出す。


 もはや声だけでも可愛い。


「ルナ。俺は事実を言っただけだぞ」


「そ、それでしたら……わ、私だって……」


 と、俺にしか聞こえないくらいのか細い声で言う。そういうところもだぞ。


 そもそも大前提として、可愛いものは可愛い。


 そして可愛いは愛でたくなる。


 これは絶対不変の法則。


 俺のとっての可愛いがルナであるように、ベイロン王にとっての可愛いがリコリスなのだ。


 推しの愛こそ語らないともったいない。俺はそう思っている。


「はっはっはっはっ!! 面白いやつではないか!! 気に入った! では今度リコリスの可愛さを夜通し語ってあげようではないか!! アイク君の妻の話も聞かせて頂こう!」


「お、お父様!!?」


 リコリスが狼狽えている。


「陛下、是非ともお供させて下さい。ぞんぶんにルナの可愛さを語らせて頂きます」


「アイク様も何を仰っているのですか!! ルナ様もお止めになって……」


「アイク様が私の可愛さを……? 嬉しいです♡」


「ルナ様!!? お気を確かに!!?」


 リコリスはいつも落ち着いて見えるから、年相応な表情もできるんだなと、少し嬉しく思った。


 まぁ、年齢は知らないんだけど。


「まぁ、とにかく。余はリコリスを愛してやまない……今は多くを語らないが頼むよ?」


「……かしこまりました。肝に銘じます」


 とんでもない圧だった。これが父親という存在なのだろう。


 その点、ルナの両親の圧は無と言っても過言ではない。


 両親といえば、ルナの実家にあたるオルハイン家が今後何かしらのアクションを取ってくると思った方がいいだろう。なにせもう呪われているというレッテルがなくなったのだから。


「それではそろそろ形式ばった話はやめて、そろそろ食事でも――」


「――父上!! この神聖なる王宮に生物として最も価値のない人間を招き入れたとは本当ですか!?」


 明らかにガタイの大きいエルフの男が入ってきた。


 おやおや、ずいぶんと侮蔑の込もった視線じゃないか。


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