第48話 正しい世界に SIDEマーウィン


「くそっ! アリサのやつめっ!! 女の分際で調子に乗りおって!!」


 ワシことマーウィン・レディアンスは激昂していた。


「聖女という地位があるから、こっちが下手に出ていれば……付けあがるなんて! あぁまったく腹立たしい!!」


 結果として、ルナ・オルハインは魔王であると言ったワシは追放されてしまった。


 ワシはあくまで神、いや、世界のために動いているだけなのだ。それなのにこの冷遇……腸が煮えくり返りそうだった。


 そんなワシが行きついた先がエルフ王国内にある魔王崇拝者の拠点だった。


 あの王国で聖神教から除名をされてしまえば、生きていく術は限りなく薄い。


 除名とは名ばかりの死刑宣告。これから先、何をされるか分かったもんじゃない。


 となれば、必然的に隣国へ亡命するしかない。


 しかし、ただ亡命するだけでは、あの小娘にただ尻尾を巻いて逃げてきたと思われても仕方がない。


「まぁまぁマーウィンさん。落ち着けよ。アンタが信じてた神は最初から偽物だったんだ。もしも本物だったらこんな狼藉許されないだろ?? 同情はするがよ」


 ワシに話かけている男は同情すると言いつつもニヤニヤと弄るように笑っている。


 男は魔王崇拝者エルフ王国支部長のリュカオン。


 リュカオンにもリュカオンの目的があるように、当然、ワシの目的もある。


 その結果、いずれかのタイミングで秘密裏にルナ・オルハインを攫えれば良いという結論になったという。


 ただその過程で、魔王崇拝の儀式に必要だという生贄用の子供を修道院から上手いこと移動させながら提供し、娯楽用の金品を受け取っていたが、将来最も神に近づくことができる人間へのお布施だと考えれば、むしろ安いくらいだ。


 まぁワシとしては究極、その前に魔王化寸前のルナ・オルハインを殺せば、ワシはこの世界で神に次ぐ権力を持つことができる。当然、聖女よりも上の地位。そうなるはずだった。


「それにしても驚いたぜ。アンタがこっち側魔王崇拝者に与するなんて」


「本来なら聖魔混りて合わせ飲み、全てを支配することが真の神の思し召し。そう思ってきた……だが、神はワシを見捨てた」


「くくく……そうだ。許されないよな?? だからこんなエルフ王国なんて田舎臭いところに来てるんだからよ」


 そう。ワシがここにいるのは仕方なくだ。あのアリサ・ヴァンデッドが付けあがっていなければ、こんなことにはならなかった!


 だが間違っているのは奴らだ


「ここにリュカオンっているか?」


「リュカオンは俺だが??」


 リュカオンは眉を寄せて言う。


 話に割り込むように入ってきたのは三人の若い連中。男2人に女1人。


 まったく最近の連中は年長に対しての敬意が足りない。まるでアリサ・ヴァンデッドのようだ。くそっ。いちいち癪に障る。


「すまない。俺はライザ・ハンバルク。オルトロスさんが仲の良い支部に紹介をしてくれていたと聞いたのだが」


「ハンバルクだとぉ!!」


「なんだ、このジジイ。こっちはただでさえキレそうなんだ。やるってんならやってやるが?」


「貴様!! あの悪魔アイク・ハンバルクと肉親か!!? えぇい!! 忌々しい!!」


 あの一族は聖女と繋がっている。あいつらさえいなければ、ワシは大司教にいや、それ以上の位置にいられたのに……!


「おい!! あんなやつと俺が一緒だと!? 馬鹿にするのも大概にしやがれ!! 誰だか知らねぇがその生い先短い人生、俺があの世に送ってやるよ!!」


「小僧が調子に乗りおって!」


 舐められたものだ。仮にも大司教まで登り詰めたのだ。


 聖属性の魔法で黙らせてやろう。


 そう思っていたのだが、


「まぁまぁ、二人とも落ち着けよ。今ここで喧嘩したって何も得られないぜ? だとしたら、俺達が三人仲良く手を組んで、このエルフ王国を混沌に陥れようじゃないか。そっちの方がよっぽど楽しそうだろう?」


「それで? エルフ王国を混沌に陥れて俺らに何か得とかあんのかよ」


 ハンバルクの連れがリュカオンに話しかける。


「まぁ、そうだな……エルフの女はどれも綺麗どころだ。エルフ王国が混沌で比例した後に、エルフの女を何人か洗脳しちまえば抱きたい放題だ。最悪、いらなきゃ奴隷として売ればいい。結構な金になるぞ?」


「クハハ……! それは良いことを聞いた! たしかに勇者にハーレムはセットだからな!」


 どこかで見たことがあると思ったら、勇者だったのか。


 何故、魔王崇拝者の拠点にいるのか不思議に思ったが、このハンバルクの小僧が激怒していたように、きっとハンバルク家の人間に対して、恨みがあるのだろう。


 きっとこれも神のお召しべし。結果として正しき者の周りには正しいものしか集まらない。類は友を呼ぶというが、まさにこの状況こそピッタリな表現だろう。


「あぁ、ちなみに俺らが仕込んでいたスパイが言うには、お前らが大好きなアイク・ハンバルクってやつと聖女のアリサ・ヴァンデッドがエルフ王国の王都『スピネ』に入ったらしいぜ?」


「「「なんだと!!?」」」

 

 ワシと勇者、そしてハンバルクの三人は身を乗り出して言った。


 なるほど。偶然にも我々の敵は共通していた。


 だがそれも良い。

 

「くくく……これで混沌を楽しめる。いいねぇ! いいねぇ! ゾクゾクしてきたねぇ!!」


 リュカオンは高らかに笑う。


「だったらまずは、あの『ユグドラシル』から燃やしてやろうか……正しい世界にしてしてやろうぜ」


 不覚にもその凶悪な笑みに魅入ってしまった。


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