第47話 エルフ王国首都スピネ

「ようこそ。我がエルフ王国の首都――『スピネ』へ」


 リコリスは嬉しそうに言う。


 ここはエルフ王国の首都スピネ。目の前には巨大な神木――『ユグドラシル』がそびえ立っている。俺とルナ、マーシャ姉、アリサの4人は第三王女であるリコリスの依頼のためエルフ王国を訪れていた。


「エルフ王国には初めて訪れましたけど……なんというか壮大ですね」


 ルナが目を輝かせて言う。


 その表情だけでプライスレス。ふっ……ルナはどんな表情でも可愛いな。


「そうね……私も公爵家の資料でしか見たことないけど、直接見ると凄いわね」

 

 マーシャ姉も驚いた顔をしている。


 自分が見たことない風景を楽しむのも旅行の醍醐味の一つだ。


 今回はエルフ王国に巣食う魔王崇拝者の討伐がメインだ。なので、さっさと片づけて、旅行を楽しみたい所存だ。

 

 ちなみに、マーシャ姉から貰った卵はメルコットに預けてある。


「そうだな……それで、アリサは付いてきて大丈夫なのか?」


 俺が後ろにいるアリサに尋ねる。


 このエルフ王国では大樹信仰が盛んな国である。


 大樹信仰とは神木『ユグドラシル』こそが全ての生の源であり、祖である……まぁ、平たく言えば『ユグドラシル』こそ神であるという考えが主流の国だ。


 そんな場所に他の宗教の聖女なんて来たら、相容れる訳がない。


「アイク様のご懸念分かりがますが大丈夫ですよ。今の私はただのアリサ・ヴァンデットです。聖神教の聖女は同姓同名の別人ですよ」


「それはそれでどうなんだ??」


 アリサがそんなことを笑顔で言うものだから、思わず困惑してしまった。


 さて、ここで質問だがエルフと聞いて、何を浮かべるだろうか?


 長命。容姿端麗。プライドが高い。


 きっとそんな言葉が出てくると思う。


 そして漏れなく、この世界でもそのイメージは合っている。


「まさか……リコリス様!? 何故ですか! こんな矮小な人間をエルフ王国に招いて……一体なにが役に立つと言うのですか!?」


 軽鎧を身に纏ったエルフの騎士がこちらに向かって走ってくる。


「失礼ですよ、イヴ。このお方達は私達の危機をお救いして下さった方であり、あの魔王崇拝者の幹部を倒した方なのです。私はその実績を見込んで、お願いして来て頂いているのです」


「こいつらがですか……? ふん! そんな実力があるとは思えませんが!?」


 イヴはリコリスに対して口を膨らませて言う。


』ね。


 その中には間違いなくルナも含まれているのだろう。ルナが馬鹿にされるのは看過できないな。


「なぁ、実力を見せればいいのか?」


「実力もなにも我らエルフに人間ごときが敵うわけがないだろう? まぁ、そんなに見せたいのなら、私直々に見てあげてもいいが」


 何故かすごいドヤ顔で言ってきた。


「そうか。それならば、是非とも御覧頂こう」


 俺は手を天に掲げ、


「展開――初級魔法『ファイヤーボール』」


 俺の火の魔法陣を展開させる。


「は? 初級魔法?? 馬鹿にしてるの??」


 イヴの言葉を気にせず、


 俺は頭上に巨大なファイヤーボールを出現させた。


「ひっ……! なんなのその馬鹿げたファイヤーボールは! 絶対初級魔法じゃないでしょ!」


 イヴはどや顔から一転、めちゃくちゃ驚いた顔をしていた。


「これくらいでいいか?」


 まぁ、あくまで威嚇の意味を込めてるから、これくらいやっておけば大丈夫だろう。


「え、えぇ……わ、私が間違ってました……無礼をお許し下さい。リコリス第三王女殿下のご客人様」


「構わない。今後は是非とも宜しく頼む」


「か、寛大なご配慮頂きありがとうございます」


 イヴは涙目になりながら膝を付き、頭を下げる。


「申し訳ありませんアイク様。不快な思いをさせてしまいましたでしょうか?」


 リコリスは申し訳なさそうに聞いてくる。


「別に構わない……ただ、ルナが嫌な思いをしたら、その時はどうなるか分からない

な」


「肝に銘じます……それでは改めてご案内を致します。イヴは持ち場に戻って少し反省しなさい」


「リコリス様……はい、わかりました……」


 イヴはトボトボと歩く。その後ろ姿はどことなく悲壮感を帯びていた。


 なんというか……感情豊かで不思議と嫌いになれなさそうな感じがした。


 イヴの姿が見えなくなった後、リコリスは俺の方を向く。


「アイク様。改めて、申し訳ございません。寛大なお言葉を頂きましたが、もしもお怒りが静まらなければ、可能な限り私が補償しますので、お赦し頂けないでしょうか?」


 リコリスは俺に気を遣っているようにも見える。


 本来、俺が気を遣う立場なのだが……。


「俺は別に構いませんが……そこまで、気に掛けるには理由があるんですよね?」


「……隠していた訳ではないのです。イヴは私が幼い頃からの付き人なのです。身分は確かに違いますが、私にとって数少ない……いえ、エルフ王国内での唯一の友人なのです」


 リコリスは切実な表情で続ける。


「もちろん。私的な友好関係と政治的な問題を一緒にさせてはいけないことは重々承知しております。ですが、何卒……」


 なんというか。リコリスとイヴの関係に関して、俺はまだ大して知りもしないが、すごく仲が良いと思った。


 無条件に信用できる友達は、きっと生きていく上で限られた人数しかいない。


 俺はそんな関係が少しだけ懐かしいと感じた。


 俺とルナ? あぁ、俺達は夫婦だから、少なくとも俺はルナのことを全部信頼しているが??


「今回は大して気にしておりませんが……リコリス様がそう仰るのならば、今回は何も無かった……そういうことにしておきましょう」


「……本当にありがとうございます。この御恩はまたどこかで」


「そうだな……そうしたら、魔王崇拝者の件が片付いたら王都スピネを案内してくれ。それでどうだ?」


「……アイク様はお優しいのですね。この件が落ち着いたら、皆様にとっておきの場所をご案内させて頂きます」


 リコリスは笑顔でそう言ったのだった。

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