第45話 天罰
「貴様が魔王の手下であるアイク・ハンバルクか!!? ええい!! 不埒な成敗してくれる!!」
俺とルナとマーシャ姉は玄関前に行くと、修道服を着た老人の男が血走った目で叫んでいた。
「騒がしいな」
「なんだ貴様は!! この地を浄化するために忙しいのだ!! ガキは帰るがよい!!」
「お前が俺を呼んだのだろう? 誰だか知らないがこのサルファの領主館になんの用だ??」
一応、ここは領主館でもあるから間違ってはいない。ギルガ王にも周知しているし、公開している情報だから間違ってはいない。
それを知ってか知らぬか、領主である俺を呼び、あまつさえ妻であるルナを侮辱する胆力だけは褒めてやろうではないか。
「ほう? 貴様が悪しきアイク・ハンバルクか。私は聖神教の大司教――マーウィン・レディアンスと申す。お前達二人には神罰が下るであろう!!」
聖神教といえば、アリサが聖女として崇め奉られ、この国が主に信仰している宗教。
大司教は枢機卿の一個下の役職。
アリサほどではないが、それなりに高い地位の役職の人間なのだろう。
「……俺のことは別に悪く言っても構わないが、俺の領地で妻であるルナを侮辱する意味が分かってんのか?」
「黙れ!! 実際、魔王や貴様のような汚れた人間のせいで、その証拠にこの腐ったような卵の臭い……この一帯が魔気に毒されている証拠ではないか!!」
「こいつ……硫黄を知らないのか?」
それはいくらなんでも、無知ではないだろうか?
「それよりもマーウィンさん。アイクは公爵家の息子であることを忘れてないかしら? アイクへの侮辱は私達ハンバルク公爵家の侮辱として受け取るけれどいいかしら?」
「黙れ小娘!! 私は神託を受けたのだ!! 全ては神が決めたこと!! 文献では魔王は闇魔法を得意としていると聞く!!」
「へぇ~……なるほどねぇ~」
マーシャ姉がブチ切れていた。口角がめちゃくちゃヒクヒクしている。
つまり、こいつが原作のフォーチュンラバーでルナを不幸にさせたという元凶ということか。
原作では姿を見せることがない。だから因縁のある相手だと気づかなかった。
「だとしたら、なおのこと許せないな」
「どうかされましたか??」
後ろから見知った顔が現れる。アリサだ。
「あら、マーウィン卿ではありませか? サルファ支部の教会にご用ですか? 巡回とは精が出ますね」
アリサは事態が呑み込めていないようだった。
それなら、ちょうどいい。
その聖女という立ち位置……利用させてもらおう。
「聖女様。どうやら、このマーウィン卿という方はルナが魔王であり、俺はルナの手下でこの地を汚しているらしいのです……それは教会の総意という認識でよろしいでしょうか?」
「マーウィン卿……それは本当ですか?」
アリサは明らかに低い声でそう言った。
「本当もなにも、聖女であるアリサ様も毒されているではありませんか!!」
「黙りなさい。少なくともこのお二方は王国の危機を少なくとも2度も救って下さいました。いわば英雄です。そんなお方に無礼が過ぎます」
「やはり!! アリサ様は正気ではないようだ!!」
「正気ではないのはどちらでしょうか?」
アリサの視線は冷ややかだった。
「マーウィン卿。貴方がやっていることは聖神教、並びに王国に対する敵対行為です。あまつさえ罪なき民を罪人呼ばわりとは……貴方には失望しました」
アリサは一呼吸置いて続ける。
「マーウィン・レディアンス。聖女の名の元に貴方を聖神教から除名致します。貴方がやっていることはあまりにも教会の理念から離れています」
「なっ!! どうしてこの私が!!」
「最初あえて、とぼけたフリをしてましが……ダメですね。実は最初から見ておりました。アイク様に声をかけた時に仰っておりましたね?『ガキは帰るがよい』と。仮にも聖職者である人間が、そのような振舞……ありえません。今後、貴方と教会には何も接点もなきことを心得て下さい」
「そ、そんな……!」
マーウィンはそう言うと、両膝を地面に崩す。
「おのれ!! 覚えておれ!! ワシは絶対に許さないからな!!」
「そうか。だったら早くこの街から去るんだな。さもなくば……分かっているよな?」
こいつには因縁があるとはいえ、もう何も権限がない。
この世界でマーウィンを擁護するまともな人間はいないだろう。
「あぁ、そうだ最後に言っておこう」
俺はマーウィンに中指を立てて、
「仮にルナが魔王になったとしても俺を愛しているんだ。お前ごときが邪魔してんじゃねぇよ」
もしもこの先、ルナを貶めるようがあれば次は後悔なんて生ぬるいなんて思えるくらいの地獄を与えてやる。
俺はルナの方を向いて、
「ルナ、ごめんな。嫌な思いをさせてしまったな」
「いいえ……♡ アイク様が守って下さるので構いません♡」
ルナは甘い声で言う。
こんなことがあったのに、不謹慎だけど現在進行形でルナが可愛い。
「アイク様、ルナ様。申し訳ありません。不愉快な思いをさせてしまいましたね」
「いや、かえって良い物が見られた」
「そう言ってもらえると助かります」
「……そろそろ戻るか」
俺がそう言うと、
「あ、そうだ」
マーシャ姉が思い出したかのように言う。
「アイクに渡さなきゃいけないものがあったんだ」
そう言って、マーシャ姉は俺に卵を差し出した。
「これ、ドラゴンの卵なんだけど……育ててみない?」
「は……?」
マーシャ姉はとんでもないことを言ったのだった。
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