第43話 ルナが望む褒美/癇癪SIDEユリウス

「いや〜!! さすがは白聖はくせいのアイク殿!! まさか魔王崇拝者の幹部まで捉えてしまうとは!!」


 魔王崇拝者オルトロスを倒した3日後のこと。


 ここは王城内の謁見の間。この空間には俺とアリサ、ギルガ王……そして、ルナの4人がいる。


「……お褒めに預かり光栄です。ギルガ王」


 クソが!!どうして王宮なんぞに来なければならないのか!


 おかけでルナと2人きりでいられる時間が減るではないか!!


 思えば、昨日。急にアリサとメルコットが俺の執務室に来て、王命なので……とかほざいたところから全ての始まりだった。


 とはいえ、前にブラックドラゴンを討伐した時と違ってルナも一緒に呼ばれているのは辛うじて許せる点である。もしも一人で来てたら、全速力で帰宅していたよね。


「ルナ殿も今回の魔王崇拝者のに関して、多大な貢献をしたと聞く」


 か。


 ギルガ王の言葉に俺は引っかかりを覚える。


 ルナがあの時、結果として天使の姿になったことはラスボス回避に近づいたという意味では、俺にとってはめちゃくちゃ嬉しい出来事だ。


 しかし、この世界でルナが使である、神の遣いである、なんて言われてしまえば、教会に連れ去られる可能性もある。結果として幸せな結婚生活を送るという目的自体も遠のいてしまうだろう。


 そうなったら、どうしようか。ルナが望むなら全部壊してルナを連れ去って逃げてしまおうか。


「……アイク殿、安心してくれ。この空間には我ら以外の人間は人払いをしている。なんでもアリサ殿から相当な愛妻家だと聞く。悪いことにはしないと約束しよう……できれば今からでも謀反を起こしそうな目をやめてくれると助かるのだが……」


「あぁ、そうなんですね。理解しました」


 良かった。アリサがしっかりと伝えてくれていたのか。あいつも分かるようになったじゃないか。


 まぁ、ルナと俺が離れ離れにならなければ、少なくとも俺の敵ではないな。まぁ、警戒するくらいに留めておこう。


「あぁ、助かるよ。こちらとしてもブラックドラゴンと魔人をほぼ単独で倒す英雄を無下にできないのだ。理解してくれて嬉しいよ」


「とんでもございません。無礼をお許し下さい」


「よい。私は。だからさっきのことは無かったにしよう。それに今回は労いの席だ。暗い話は止めようではないか」


「ギルガ王の慈悲に感謝致します」


 俺がそう言うと、ギルガ王は一つ咳払いをして、


「時に、褒美を与えようと思うのだが何か欲しいものはあるかね?」


「いえ……前回、領地を与えて頂いたばかりなので、さすがに何か頂戴する訳にも……」


「うーむ。困ったものだな」


「ただ、そうですね……強いて言えば建てて頂いたもので失礼だと存じますが、我が領地に訪れて頂けないでしょうか? 是非ともギルガ王のお力添えを頂いた温泉をお楽しみ頂きたいのです」


「ほぉ……そうかそうか!」


「ギルガ王の健康こそが、私の幸せですから」


「な、なんと……! 嬉しいではないか! 是非とも足を運ばせてもらおう!」


「是非お待ちしております」


 くくくっ……! ギルガ王も我が領地の広告塔として、骨の髄まで利用させて頂こう。


 これくらいしなきゃ、王宮にきた駄賃代と割に合わないだろ?


「アイク様。この場で尋ねるのも失礼だと存じておりますが」


「……なんでしょうか?」


 アリサが口を挟む。


 今、良いところなんだ。邪魔をしないでくれ。


「私は1年分の予約をさせて頂いてもよろしいでしょうか?」


「ありがとうございます!! 今後ともご贔屓にさせて頂きますとも!」


「ギルガ王、本当にアイク様の温泉は素晴らしいのですよ? 行く価値はありますよ」


「ほほぅ……聖女であるアリサ殿が言うのなら間違いないな。分かった。それなら近い内に厄介になり行かせて頂こう」


「えぇ、お待ちしております」


 俺は頭を下げると、ギルガ王は視線をルナの方に向ける。


「さて……次はルナ殿だな」


「……私でございますか?」


「あぁ、ルナ殿も多大な貢献をしたと聞いてな。だが……アリサ殿から報告を受けた力は一個人としては影響力が大きすぎると思ってな」


 なにか嫌な予感がする。


「一応選択肢をと思ってな。どうだろう。ルナ殿さえ良ければ、次期聖女に席を用意しよう。 数年間、教会の修行が前提になるがろうが、ただその気があるならば聖女であるアリサ殿と国王である私が保証する。教会、国内ともに権力を誇示することができるが、どうだろうか?」


「ギルガ王よ!!」


 俺は思わず叫んでしまった。


 さっきと話しが違うではないか!! なにが悪いようにしないだ! 


 こいつ……いっそ俺が倒してしまおうか。


「アイク様。私の答えは決まっているので安心して下さい」


 ルナは俺に微笑んだ後、一つ深呼吸を入れて、ギルガ王を真っ直ぐに見る。


「申し訳ありません。ギルガ王。無礼を承知で申し上げます。私の人生、私の魂はアイク様と共にあるのです。なので、その選択は受け入れらません。褒美を頂けるのであれば、私はアイク様と共に過ごせる日常が欲しいです」


「ルナ……」


 言葉として、口に出されるとめちゃくちゃ嬉しい。


「ギルガ王……私への褒美を頂けるのであれば、妻の……ルナの願いを聞いて頂けないでしょうか?」


「ふっ……そう答えると思っていたぞ。すまないな、嫌な質問をしてすまない。一応、提案のつもりだったのだが、気分を悪くさせてしまったようだ。申し訳ない」

ギルガ王は頭を下げた後、言葉を続ける。


「お主達が望むのであればこうしよう。今回の件、万が一にでもバレてしまったら、は聖女であるアリサが奇跡により神より賜ったということにしておこう。とはいえ、目撃者は少ないだろうが……あぁ、もちろん褒美の件とは別にだ」


「それは……非常に助かります」


「そうだ褒美に関しては、アイク殿の領地に行く際はに今日の詫びを込めて何か持って行かせて頂こう。もちろんルナ殿も合わせて二人分の褒美だ……代わりに今日は夫婦水入らず、用意した部屋でゆっくりしていってくれたまえ」


「ありがとうございます。その際は有難く頂戴させて頂きます」


 俺とルナは頭を下げる。


 そうして、俺とルナは王様との謁見を終えるのであった。


 ひとまずは一件落着。


 俺はどこであれ、ルナと一緒にいられるのであれば、何でもいいのだ。


~~~~~~~~~~~~~~~~~~


「は? どうなってんだ?」


 時は戻り、3日前。


 俺ことユリウスはライザとその従者ユークリッドの三人は魔王崇拝者の拠点にあった場所に戻ったのだが……戻った頃には焼け野原になっていた。


 ライザの紹介されたオルトロスという男が、あの憎きアイク・ハンバルクが統治する街にオーガを放ったというから、蹂躙される光景を楽しみにしていたのだ。


 しかし蓋を開けてみたらむしろオーガ群れが丸焦げにされていた。文句や嫌味の一つでも言ってやろうと思っていたのに、不測の事態すぎて言う気も失せる。


「ど、どうゆうことだ……?」


 ライザもこの状況が理解できていなかった。


「たしか、聖女が来ているんだよな?」


 なんて運が悪い。オーガの大群も魔王崇拝者の拠点潰しも全て聖女がやったといえば、辻褄が合う。アイクの野郎が一人でやったとは考えられない。さすが俺の正ヒロイン。


「どこまでアイクの野郎は俺の聖女に付きまとえば気が済んだ?」


 本当に腹が立つ。


「おい、ライザ。行く宛てはあるのかよ」


 王宮に戻れば、勇者である俺はもてなしてくれるが、ライザと従者であるユークリッドはそういう訳にもいかない。


 確実にアイク・ハンバルクに復讐するためには、なるべく行動を一緒にしたい。


「一応、オルトロスさんが他の地域にある魔王崇拝者の支部に行っても融通が利くようにしてくれたらしい」


「場所は? どこにあるのか分かんのかよ?」


「いくつかは行ったことがある。まぁ、そこは実家からも近かったし訪ねたことがあるのは1回だけどな」


「はぁ……じゃあ移動しようぜ」


「そ、そうだな……一旦、使えるものがないか見てくるわ」


「早くしろよ」


「ちっ……! 本当にアイクのやつ。運だけは持っていたんだな」


 ライザは短く舌打ちをした後、メイドのユークリッドと隠し部屋に移動する。


 こんなところあったのかよと思っていたが、魔王崇拝者こいつらにしか分からない場所なんだろう。


 俺はライザとユークリッドの姿が見えなくなった後、無駄に溜めていた深い溜息を吐いた。


本当に気に食わない。


「畜生!! なんなんだよ!! あいつは!! この世界の主人公は俺のはずだろ!!? どうして主人公である俺よりも! あいつばかりが目立ちやがって! ふざけんなよ!!」


 俺は怒りのままに叫んだ。


 そうだ。俺は何も悪くない。間違っていない。


 全部、アイク・ハンバルクのせい。転生をして勇者になった俺を見ていないこの世界が間違っている。


「ふぅ……だとしたら、この世界を正しい姿に戻してやるのが、勇者である俺の務めだよな」


 俺は改めて勇者のとしての存在理由に気づいた。


 しかしこの時、俺は気付かなかった。


 聖痕の輝きが既に消えかかっていたことに。


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