第32話 魔王崇拝者の企みSIDEライザ

「久しぶりですね、ライザ。最近、お前と連絡が取れなくなって寂しかったですよ」


 俺ことライザ・ハンバルクはとあるカルディ地方のとある場所に来ていた。


 ここは魔王崇拝者のアジトの一つ。


「オルトロスさんよぉ。俺の状況分かってて言っているんだろ?」


「はは……気を悪くしてしまったかな? それはすまないことをしましたね」


 オルトロスはカルディ地方で暗躍をしている魔王崇拝者の長である。俺がオルトロスと知り合ったのは、3年前。俺が学園に入学にして2年が経過した時だった。


 俺が魔王崇拝者のアジトに出入りするようになったのは、ただスリルを求めていたから。


 勇者のユリウスにはそれっぽいことを伝えて言いくるめた。お互いの目標はアイクだけ。あいつに落とし前をつけさせるために必要なことだと言ったら、了承してくれた。


 先に言っておくと、俺はこの魔王崇拝者とかいうを気に入っている。


 何故かって?


 理由は簡単だ。この空間だけはどんな犯罪しようが関係ない。仮に平民をいたぶって殺したり、を使用したりしてもだ。


 まさに貴族の特権階級にふさわしい待遇を受けることができる。


 親父もアイクも貴族としての心構えが何も理解していない。


「ライザ様……お久しぶりでございます」


「あぁユークリッド……こんなやつれた姿になってしまって」


 目の前には俺の元使用人のユークリッドがいる。


 久しぶりに会ったユークリッドは少し瘦せている。いや、それは俺も同じか。


 北の修道院に送られてから、俺も体重が減った。素行が良くないとか意味の分からない理由で食事がなかったこともあったが……


「あぁ! お恥ずかしい!! こんな醜い姿をライザ様に晒してしまうなんて!!」


 ユークリッドは手で顔を隠し錯乱する。だが、俺にはユークリッドの気持ちが痛いくらいに理解できる。俺もあいつらに辱められたようなものだ。女のユークリッドならその苦痛もさらに酷いものだろう。


「気にするな。お前は最後まで俺についてくるだろう?」


「もちろんでございます!!」


「だったら、安心しろよ。俺が最後まで責任取ってやるからよぉ」


「ら、ライザ様」


 ユークリッドは涙を流し感動している。


 いいか、アイク。俺は必ずぶち殺してやるからなぁ。


 そういう意味では親父には北の修道院に送ってくれて、感謝すらしている。


 何故なら、この世界に神がいないことに気づかせてくれたきっかけになったのだから。


 むしろ、俺はこれから良いことをしようとしていると言っても過言ではない。


 だって、俺様直々に王国に住まう民が受けている洗脳を解いてやるのだから。


 そして、俺様を含めて貴族こそが真に選ばれた血筋であるかを理解させてやる。


 まぁ、反抗するやつは一人残らず殺してやるから問題はない。


「ただ、一つ残念なお知らせがあります。ライザの弟――アイク・ハンバルクがカルディ地方の領主になりました」


 オルトロスが意味の分からないことを言った。


「あ? どういうことだ?」


「なんでも、ブラックドラゴンを討伐した褒章に、あの無能な王様から土地を貰ったらしいのです。あぁ、嘆かわしい」


「はぁ? ふざけやがって……!」


 あの落ちこぼれがブラックドラゴンを討伐?? 


 どうせ何か卑怯な手を使ったに違いない。


「まぁまぁ。落ち着き下さい。ライザの気持ちは分かります。本来、この土地は魔王様の所有物。それを自分のモノだと言い張るなんて……」


「その通りだ!」


「でも前向きに考えましょう。大丈夫、我々には魔王様が付いておられるのです」


 オルトロスはそう言うと、勇者ユリウスの方を向く。


「勇者よ。本来なら歓迎することはないが、私達には共通の敵――アイク・ハンバルクがいる。いずれ魔王様が復活した際は我々が敵になる運命さだめは変わらないだろうが、一旦ここはエキストラには退場するのが筋……我々こそがこの戦いの真の主人公だと思わないか?」


「そうだなぁ……たしかに、俺もそう思うぜ? だが――」


 勇者ユリウスは言葉を続けて言う。


「――勘違いをすんな。アイクも魔王も倒すのもこの俺、勇者ユリウスだということを忘れんじゃねぇ。俺をコケにした代償を払わせてやる」


 ぷっ……!! 何が勘違いをするなだ。


「おいおい……勇者様よぉ。アイクを倒すのは俺だ。あいつは兄である俺を敬うことなく、あまつさえ俺に牙を向けた。この意味が分かるか? コケにした代償? そんなもの知るか。ただでさえアイツと血が繋がっているってだけで腹が立つんだわ。邪魔をするなら先にお前を殺してやる」


 俺がそう圧をかけると、ユリウスは少しタジタジになりながら言う。


「……そうか。それなら、殺すのは少し待てよ。やるなら徹底的に屈辱を与えてやろうぜ――例えば、アイクの女、ルナを目の前でいたぶってやって殺してやるんだ。あぁ、あいつの悔しそうな顔が思い浮かばないか?」


「くくくくくっ……! お前、最高だな。はたから見たら勇者よりも悪魔みてぇな台詞だけどな! だがそれで良い。気に入った」


 こいつの仲間になる条件で修道院から抜け出した時は、むしろ俺から利用するだけ利用してやろうと思っていたのにな。妙にウマが合うのはそういう理由か。


「まぁまぁ、募る話はあるかと思いますが、我々魔王崇拝者からも力をお貸しいたしましょう」


 満面の笑みを浮かべて、言う。きっと何か策があるのだろう。


「というと?」


 俺は真意を確認した。


「闇の魔法陣を御存知ですかね?」


「まぁ、噂には……」


 闇の魔法陣とは、生贄を用いてモンスターを召喚する禁術。かつて、悪用した結果、国一つ滅んだという伝説があるが。


「その闇の魔法陣がなんだ?」


「えぇ、私共は闇の魔法陣を使いまして、アイク・ハンバルクが統治しているサルファの街にオーガの群れを送りこんでおいた」


「オーガだって!?」


 オーガといえば、単体でもB級の危険度を持つモンスター。それが軍勢となって街を襲うとなれば、間違いなくサルファの街はオーガの手によって蹂躙(じゅうりん)され滅びるだろう。


「だとしたら俺達も向かわないとなぁ」


「あぁ、楽しみだな! あいつが絶望しきった顔になっているのが!!」


 俺と勇者は目を合わせ、同じような顔で笑ったのであった。

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