第26話 結託SIDE.勇者

「やっと辿り着いたかぁ」


 俺、勇者ユリウスは目的地である北の修道院に辿り着いた。


 ここには憎きアイクの兄であるライザ・ハンバルクが奉仕をしている。


 奉仕と言っても、半分勘当されたようなものだと聞いている。今までハンバルク公爵家の次期当主として育てられてきたらしい。


 それなのに、たかがメイドとの過ちくらいで次期当主の立場を弟に明け渡す形となり、現在は奉仕と言う形で臭い飯を食べているという。


 相当、弟のアイクには恨みが溜まっているに違いない。


「おい、ここにライザ・ハンバルクがいると聞いたがぁ――」


「ふざけんな!! これでも俺はハンバルク家だぞ!! てめぇら平民と一緒にしてんじゃねぇ!!」


 この修道院には筋骨隆々の神父とライザしかいない。


 他の人間は出払っていた。


「それではライザ。あなたの食事はなくなるだけですからね」


「それでも構わねぇ……!」


 ライザの見た目は明らかに痩せこけている。加えて、明らかに調子が悪いこともすぐに分かった。


 髪はボサボサに下がり、貴族とはかけ離れた姿をしている。


「そうですか。それでは反省を終えた時にまた声をお掛けなさい。神はいつでもお待ちしておりますからね……早くここの仲間とご飯を共にできることを楽しみしておりますよ」


 そう言って、筋骨隆々の神父はライザの元から去っていった。


 その背中をライザは憎々しく睨んでいる。よくみると、足に金の輪が付けられている。


 あれは魔法を封じる枷だったはず。本来なら罪を犯した囚人に着けられる代物だが……。


 なるほど。こいつは話以上にアイクに恨みが溜まっているだろうな。


 俺は笑みを隠し切れらないまま、ライザに話かける。


「お前がライザ・ハンバルクか?」


「なんだ? 誰だ、お前」


 ライザは明らかに俺のことを怪しんでいる。

 

 まぁ、俺はライザのことを調べたから、よく知っている。


「俺は勇者ユリウス。名前くらい聞いたことがあるだろう?」


 ライザは俺に自虐的な笑みを浮かべながら尋ねる。


「あ?」


 ライザは不機嫌を隠そうとしない。俺は勇者の証である聖痕を見せる。


「……その勇者様が俺になんの用だよ?」


 俺が聖痕を見せるとライザは一応、俺が勇者だと信じたみたいだ。


 だが今まで俺とライザの接点はない。だからライザが俺のことを知っていても尋ねてくる理由に心あたりはないと思っているだろう。


「お前の弟――アイク・ハンバルクについて、どう思う?」


「アイクの名前をだすんじゃねぇ!」


 ライザはドンッ!! と壁を叩きつける。


「あいつの名前を聞くだけで腹が立つ!! 今まで無能だった癖して、アーティファクトだかなんだか知らねぇが、物の力に頼って、たまたま俺に勝ったからと言って、舐めた態度取りやがって!!」


 ライザは叫ぶ。怒りに任さて叫ぶあたり、よほど鬱憤が溜まっていたのだろう。


「アイクだけじゃねぇ。親父だって許さねぇ!! もちろんアイクの女のルナも許さねぇ!! 全部!! 全部ぶち壊してやりてぇよ!!」


 当たりだ。やはり俺様が思った通りだ。


 こいつはアイクに対して相当な恨みがある。


 あとはライザの恨みの導火線に火を付けてやるだけ。


「そうか。もしもそのチャンスがあるとしたら、どうだ? やるか?」


「……何?」


 ライザは呆けた顔をする。


「いいか? 俺様は勇者だ。これから、お前は俺の仲間として行動を共にしろ。そうしたら、お前に全てを取り戻させてやる――俺もお前の弟に恨みがあるからよぉ」


「……それで? 俺は今、この状態だ。やってやりたいのは山々だが、無理だ」


 そういって、ライザは足についている金色の枷を指さす。


 魔力が封じられているから無理だと言いたいのだろう。だが俺様には関係ない。


「いいか? 俺様は勇者だ。俺が仲間にするといえば、お前は勇者一行になる。つまりここから離れた上に、魔王を討伐して名誉も得られる。どうだ? 最高だろ? だから――」


 俺はニヤリと大きか笑みを浮かべて、


「――ライザ・ハンバルク。俺の手を取れ。あいつに復讐してやろうぜぇ?」


 ライザはニヤリと口角を上げる。やっぱり俺様の読み通り、アイクに復讐する仲間ができた。


「まぁ、お前が勇者かどうかなんて関係ねぇ。俺の目的を果たせさえするなら、俺を利用すればいい」


「いいな。俺は心底仲良くなれそうだ」


 そう言って、俺がライザに手を差し出すと、


「アイクを地獄に落とすまではな」


 ライザは猛獣のような笑みを浮かべて俺の手を組んだ。

 

 見ていろ、アイク・ハンバルク。

 

 勇者である俺様に恥を掻かせたこと、地獄に落とすだけじゃ足りない。必ず生まれてきたことを後悔させてやる。

 

 俺はライザと笑いながら、憎きアイク・ハンバルクに復讐を誓うのであった。

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