第25話 予想外の褒章

「アイク・ハンバルク。此度のブラックドラゴンの討伐見事だった。なにか褒美を与えないといけないな」


 ギルガ王は玉座から俺を見つめる。


 どうしてこうなった。本来であれば俺はゆっくりルナとの愛を育んでいるはずなのに!


 それなのに、俺は王宮に呼び出され、王様に謁見をしている。そしてこの場にいるのは俺とギルガ王、そしてアリサの3人だけ。それ以外の人間はこの広い空間にはいない。


「……俺は自分の成すべきことをしたまでです」


 俺は暗にいらないという旨を伝えた。ここで褒章をねだっても将来において、なんの得にもならない。


 ギルガ王とはそういう人間だ。自分の得になるか損になるかしか考えていない。


 言い換えれば、損にしかならない人間にはひどく冷たい印象を対応に徹するが、自分にとって得になる人間には別人か? と問いたくなる接し方をする。


 つまり、ここで受け取ってしまえば王様の傀儡に俺は王様の傀儡かいらいとして扱われるかもしれない。これで万が一、ルナを人質に囚われてしまったら……俺はこの世界で生きる意味がない。バッドエンドに他ならない。


「そうか。殊勝な答えだ。しかし……ブラックドラゴンを放置していれば、いずれ王都の民が被害を被っていた可能性は否定できない。故に褒美を与えなければ王家も威信にも関わること。言いたいことは分かるな?」


 とはいえ、ギルガ王の俺に対する印象は未だに悪いままだけれども。


「……謹んで頂戴致します」


 これ以上は俺が引くしかない。これ以上下がれば還って無礼になる。全てが整っていない時に敵対する意味はない。


 それは同時に俺が聖女に望んだ報酬が反故にされたということを意味する。


 領地民の危機を解消しなければいけないという優先事項はあったとしても、今回ブラックドラゴンを倒したとなれば俺が龍星の杖を所持していたことが公になってしまう。


 保険で俺しか使用できない設定にしていたとしても、腹が立つものは腹が立つ。


「王様。少しだけお待ち頂いてもよろしいでしょうか?」


「おぉ! 聖女か。どうしたのだ?」


 アリサがギルガ王に発言に割り込んだ。本来であれば、不敬なはずなのに、ギルガ王は笑って許しているようだった。どうでもいいけど、早く帰らせてくれませんかね? 俺の推しが待っているんで。


「今回の件。我が教会からも褒章を与えさせて頂きます」


「ほう……? アイク殿に?」


「はい。その通りでございます」


「アイク・ハンバルク。貴方を白聖はくせいと認定し神殿が全力を持って支援致します。これが神の意志です」


「白聖……だと?」


 どういうことだ? 白聖というのは本来、フォーチュンラバーの原作内で勇者が授かる称号のはずだ。


「もちろん。その妻、ルナ・ハンバルクも白聖の妻として認めます。これで彼女を否定することは、我が神殿を侮辱する――神そのものを馬鹿にすることと同義です。これで彼女を馬鹿にする人間はこの王国からいなくなりました――これが私が与えられる最大の報酬です」


 アリサは笑みを俺に向ける。


 その笑みは慈愛という表現に近い。


 白聖の称号を俺に渡すなんて……意味が分からない。これでは原作の内容とかけ離れてしまうではないか。


 いや、俺がルナという推しをハッピーエンドにすると決めた時点で原作から大きく離れる覚悟はしてきた。


「なるほど……私はつけるべき味方を間違えたというべきか」


 つまり、教会は俺を囲ったということか。


「分かった。我も聖女と同様以上の報酬を与えないとな」

 

 ギルガ王は満足げに口角を上げる。


「繰り返しになるが、此度の偉業に褒美を与えなければ王家も威信にも関わる。よって、アイク・ハンバルク。そなた個人に爵位と領地を授けよう。もちろん――そのアーティファクトも正式にアイク・ハンバルクの所有物と認めよう。我が許可する」


「ありがとうございます」


 まさかアーティファクトの所有を認めて貰えるとは……!


 俺がアーティファクトを所持していることは認識していたはずなのに。


 そうか……ギルガ王の中で俺は得のある人間だと判断されたのか。


 だとしたら、ここらで一つ賭けてみるか。


「あの、ギルガ王、無礼を承知で一つお願いを聞いていただいてもよろしいでしょうか?」


「構わない。好きに言ってみたまへ」


「ありがとうございます。それでは頂けるのであれば、カルディ地方――サルファの街の領地を頂けないでしょうか?」


「ほう、何故かね? カルディ地方は火山地帯であり、あそこは強力な魔物がいる危険地帯ではないか。結果として前領主が逃げたと聞くが……そんなところよりも、もっといい場所を見繕ってやってもいいが?」 


「構いません。むしろ、俺はカルディ地方がいいのです」


「そうか? 分かった。そこまで言うのであればカルディの地をアイク・ハンバルク個人の領土として認めよう」


 ギルガ王は少しだけ残念な顔をして、宣言した。


「はっ! ありがたき幸せ! あっ……可能であれば、一つ建物も建てたいのですが」


「そうかそうか……それでは後で王宮建築士も寄越そう。予算は気にしなくて良い。私が出そう。なんせ褒美だからな!」


 ギルガ王は『はっはっはっ!!』と高い笑いする。


 よしっ! 言質を取ったぞ!! これで俺とルナの幸せな結婚生活に温泉を作ることができるぞ!!


 俺は今、アイクに転生して初めてギルガ王に感謝している。


 最初に腹立たしいことこの上なかったが、俺とルナの幸せな結婚生活の糧となるなら、今までのことは許してやろう……まぁ、悪役らしく利用してやるがな! くくくっ……覚悟するがいい!!


「そういえば、次期当主はアイク殿らしいな……だとしたら、公爵家の課税を半減させよう。本来なら全額といいところだが、そうしてしまうと他の国民にしわ寄せをしなくてはならないからな。許してくれ」


「構いません。住民の生活を守るのは貴族の務め。陛下にご配慮頂けるだけ最上の幸福ですから」


「……どうやら我は噂に踊らされた人間だったようだな。まだ幼さ残るのに素晴らしい人材だ。それに比べて勇者ときたら……いや、この話はよそう」


 ギルガ王は首を横に振る。


 どうやら勇者の扱いに困っている様子だ。まぁ、俺にはギルガ王が勇者の扱いに困っていようが知ったことではないけれど。


「ますますもったいないな。そうだ。今からでも我が娘と交流してはいかがだろうか? お主はまだ若い。色々な選択を見るべきではないだろうか?」


「申し訳ありませんが、それは考えられません。仮にこの感情が過ちと言われようとも俺は妻……ルナ一筋なので」


 王女だろうがなんだろうが、俺の推しはルナしかいない。


 しかも王女はフォーチュンラバーの攻略ヒロインだ。そんな敵になるやつと自ら近づきになるリスクは負う意味がない。


「そうか。それは残念だ。それでは近く、カルディ地方の領主になる旨の書類を届けよう。すまないが、しばし待ってくれないか?」


「いえ、とんでもございません。心待ちにしております」


 くくくっ……。これで合法的にルナと温泉デートができるぞ!!なんて楽しみなんだ!!


 もちろん、デートだけではない。このカルディ地方の奥地は良質な鉱物が採れる。一旦確率で最強の防具の作成に必要なアダマンタイトも採取できる。


 これでハンバルク公爵家の力も強化することができる。


 くくくっ……こんな情報を知っているのはゲーム知識を網羅した俺だけ。


 俺は内心ウキウキのまま、優雅にお辞儀をするのであった。


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