第24話 賞賛を受けるより推しとイチャイチャしたい

「すまない。ルナ、今戻った」


 俺は肉体強化の魔法を重ね張りしてコメット村に戻り、全力でルナ推しの元に戻った。


「アイク様……ご無事でなによりです」


「……心配をかけたかな?」


 俺がルナに尋ねると、ルナは口を少しだけ膨らませて、


「心配なんてしてません……と言ったら嘘になりますね」


 あぁ、ちょっと怒っているルナも可愛い。


「ルナ、本当にごめん」


 俺はルナを抱き寄せる。


「いえ、構いません。私、少し意地悪なことを言ってしまいましたね」


 ルナの瞳はとろんとしている。可愛すぎて一生見てられる……。


「お楽しみのところ、失礼してもよろしいでしょうか?」


「楽しんでいるんだと思っているなら、少しは気を遣えないんですかね??」


「アイク様って、時折私に厳しくないですか?」


「まさか。聖女様にそんな無礼を働く方なんている訳ないじゃないですか」


「本当ですかね?」


 ジト目で俺のことを見た後に『まぁ、構いませんけれど』と言いながらアリサはわざとらしく悲しい顔をする。


 もう少しルナを堪能したかったのは事実なのだけれど。


 まぁいつかは敵になるとはいえ、今は味方の関係にあるならば、変に敵対的なことをする必要もないか。


「今はそんなことよりも、アイク様への報酬を考えないといけないですね。まさかお一人でブラックドラゴンを討伐されるとは……時代が時代なら救国の英雄ですね」


「俺は俺の役目を全うしただけだ。称賛されるものではない」


 実際、盗賊の件も含めてコメット村の住人に被害はない。


 公爵家としての領民への被害は最小限に止めたと思っている。


「そう思っているのはアイク様だけですよ?」


「は? 何を言って――」


 アリサが視線を後ろに送る。アリサの視線を追うと遠巻きから声が聞こえる。


『さすがアイク様だ!!』『これで俺達の村が平和になった!!』『アイク様!!万歳』


 コメット村の住人が俺を称える。称えてくれるのは嬉しいのだが、真に大変なのは復興の方ではないだろうか。


『ルナ奥様も素敵よね』


「!!?」


 ルナの良さが分かる人間がいるだと!?


 声の主を見ると、村の女性陣が話をしている。


『分かる。尊い』『なんか呪われてるみたいな噂あったけど、あれ完全に嘘ね』『そうね……むしろ神から言われてるレベルの美しさよね』


 あぁ、なんて嬉しいんだ。


 こうしてルナの美しさを理解してくれる人間が現れるとは。


 今日一番嬉しい。


 あとどうでもいいけど背後から、


『まさか……ブラックドラゴンを倒してしまうなんて』『こんな光景が見れるなんてお得……』『俺、罪を償ったらアイク様の元で働こう』

 

 なんで盗賊も俺を褒めてるんだよ。


 いや、まぁ俺の元で働いてくれるんだったら歓迎なんだけどさ。


 人手は多いほど助かるから。


「やっぱりアイク様はすごいお方です♡」


 ルナも俺を褒めてくれた。ルナの一言に勝るものはないな。


「ルナがいてくれたからだよ」


 だってルナは俺が生きる理由だから。


 推しのためなら、俺はなんだってできる。


 みんなから称賛させるのはむずがゆいけれど。


 でも、この件をきっかけに、俺を通してルナの評価も上がるのならば我慢しよう。


「俺からもいいか?」


 ランスロットは深刻な雰囲気で俺に話かける。


「構わないが……」


 なんとなく茶化す雰囲気ではないから、聞くことにした。


 ひょっとして討伐隊の威信をかけて決闘とか挑まれるんだろうか? もしそうなったら仕方ない。ルナとのイチャイチャタイムのため、光の速度で終わらせよう。


 と、俺が身構えていたら、


 ランスロットはゆっくりと、そして深々と俺に頭を下げた。


「すまない……俺は何もできなかった」


「え?」


 なんか分からんが、ランスロットは自責の念に苛まれている。


「いや、そんなことはない。ランスロット達が村を守ってくれたおかげで、俺は安心して飛び出すことができた。ありがとう。感謝する」


 事実、ルナの近くにいてくれた訳だ。


 俺は依頼されている側だから、教会側の善意に付け込んだのもあるが。


 呪われていると言われたルナに対して攻撃をする可能性もあったのだ。


 だが、そうはせずコメット村の住民を守ろうとした。きっとルナがピンチに陥ったとしても、ランスロットは関係なく助けたであろう。

 

 だから俺はランスロットに敬意を表する。そうするだけの価値がこの男にはある。


「これが差か……なんて器の広さだ。格の違いを感じたよ」


「いや、別に差はないと思うが……」


 正直、ランスロットが何を言っているのか分からないが、なんか1人で納得しているみたいだから良しとしよう。


「俺もアイク殿に負けないように努力する。今度、一緒する機会があれば足でまといにはならないよ」


「そ、そうか」


 いやぁ……強くなられると敵になった時により面倒になるから、そのままでいてくれると助かるのだが……。


「ところでアイク様。想像以上の成果なので報酬を上乗せしたいのですが、何かありますでしょうか?」


 何故かアリサがニコニコして俺に尋ねる。


「何度も言うが、俺は自分の領地の問題を解決しただけだから」


「そんなこと言わないで下さい。悪いようにしませんから」


「……そうだなぁ。それだったら今回のブラックドラゴンの討伐。聖女様達の手柄にしてくれないか?」


「それは……なるほど。それでしたら私がとっておきの報酬を用意させて頂きましょう」


 お前から貰う報酬なんて今、ルナ推しとイチャイチャできる褒美に比べれば全て劣る。


 今は推しとイチャイチャできることの方が大事なのだ。一仕事したのだから、それくらいワガママを言う権利はあるはずだ。


「ふふふ……お任せください」


 アリサはニコニコした笑みを浮かべたまま。俺はルナの綺麗な銀髪を撫でるのであった。


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