第22話 くたばりやがれ

「た、大変です! ブラックドラゴンが村に近づいてきます!!」


 原作だとブラックドラゴンは西の山脈の奥地にいる。フォーチュンラバー内での遭遇位置はどのルートでも変わらなかった。それなのに、


「どうしてコメット村にブラックドラゴンが近づいているんだ?」


 あまりにもタイミングが良すぎる。これではコメット村の住民――いや、俺の領民に被害が出てしまう。それだけは避けなければいけない。


「聞いたことがあります。ドラゴンは強い魔力に吸い寄せられると聞いた事があります……もしかしたら、先程のアイク様の魔法で……」


「初期魔法しか使っていないが!?」


「使った魔力量じゃなくて、本人が持っている魔力に引き寄せられたのです!」


「本人が持っている……まさか!」


 だとしたら、ルナが原因の可能性もある。なにせルナは原作ではラスボスだったのだ。


「そのブラックドラゴンさんは魔力になんで引き寄せられるんだ?」


「それは――食べるためですよ。言い換えるならば餌ということです」


「なんだと?」


 もちろん。アリサという可能性も否定できないが、アリサのいう事が本当であるならば、ブラックドラゴンの標的はルナの可能性が高い。


 舐めやがって。俺の最高の推しを餌だと? むしろお前の方を餌にしてやる。食えるかどうかは分からないけれど。


「アイク様! 今狙われているのは貴方です! 強い方だと存じておりましたが、まさかここまでとは……これは私の落ち度です。せめて、アイク様とルナ様だけでもお逃げ下さい。ここは私達、教会の人間が食い止めます」


「いや、良い。今この時間もブラックドラゴンは迫ってきている。聖女様は悪いけれど、コメット村に被害が出ないようにシールドを張ってくれ――肉体強化」


 どさくさに紛れて、アーティファクトの『龍星の杖』を展開する。


「アイク様。その杖はどこから――」


 俺は自分自身に肉体強化の魔法をかけ、地面を全力で蹴り上げて加速する。


 アリサの言葉を最後まで聞く時間すら勿体ない。今は1秒でも早くこの脅威を取り除かないといけない。 


 王都で俺と勇者が戦った時に張ったシールドがあれば、安心して戦える。


 だけど残念ながら予定変更だ。


 ここでアーティファクトを見せるつもりはなかったが、推しと住民の命には代えられない。


 俺は勢いのまま『龍星の杖』でブラックドラゴンを地面に叩き落とす。


 本来の使いかたではないことは百も承知だが、ブレスの射程上にコメット村が重なるのだけは避けたかった。それに魔導書は鈍器の代わりになるという言葉があるくらいだ。別に杖だって鈍器として運用したって構わないだろう。


「悪いが推しが待っているんだ――速攻で終わらせてもらう」


 俺は大量に魔法陣を展開して、


「くたばりやがれ」


 全力を持って全属性の魔法をぶっ放す。


 ブラックドラゴンに弱点の属性はないため、火力で押し切るしかないが、原作最強の武器と俺の原作知識の組み合わせの前では敵ではない。


『GYAAAAAAAA!!!』


 ブラックドラゴンは地面に伏せ、ピクピクと小刻みに全身を動かしている。


 アーティファクトの力もあるけれど、マーシャ姉に特訓をしてもらった成果も出たようだ。魔力の消耗もあまり感じなくなった。


 つまり魔力に余裕があるということ。


「よし。全力でルナのところに戻るか」


 俺は肉体強化の魔法を重ね張りしてコメット村――もといルナの元に戻るのであった。


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