第21話 二度とその口を利かせなくしてやるよ

「ヒャッハーーー!!! 女子供以外は殺しちまえ!! 金目の物は全て奪え!!」


 あたり一面で悲鳴が聞こえる。ただでさえブラックドラゴンのせいで疲弊している村を襲うとは……あまりにも下種で反吐が出る。まさか原作のアイクよりもゴミみたいなやつがいるとはな。


「団長!! こいつら並みの盗賊じゃねぇぞ!!」


 鉄壁のギルバートが叫ぶ。ギルバートの叫びに盗賊団はさらに調子づく。


『おいおい!! こいつマゾか!!』『攻撃し放題とはお得だなぁ!!』『簡単にくたばるんじゃねぇぞぉぉぉおおお!!!』


「くっ……!! 聖騎士団討伐隊所属!! 鉄壁のギルバートをなめるなぁあああ!!!」


 ギルバートは盗賊団の攻撃を受けきるが、盗賊達の猛攻が止むことはない。


 たしかに言っていることは盗賊……よりも稚拙に見えるが、戦闘の仕方、連携の動き、個々の能力は賊の実力とは思えないほど高い。


 そしてなにより、


「まずいな……数が多い」


 ランスロットが苦虫を潰したような表情で呟く。


 盗賊団はぱっと数えただけでも30人くらいはいる。対して聖騎士団は10人程度。村の住人を守りながら戦うには明らかに分が悪い。


「各人、陣形を乱すな!! 我ら聖女様直属の討伐隊!! 盗賊風情に遅れを取ってはならない!!」


『陣形を整えたところで遅ぇんだよぉぉお!!』『ヒャッハッハッハッ!! ジワジワ殺してやるからなぁ!!』『お得お得お得ぅぅううう!!』


 盗賊団の猛攻は止まらない。


 使っているのは剣や鉈のような近接武器。しかし盗賊が使うには質が良い武器に思える。


 それだけではない。この状況に疑問が残る。


 仮にも聖騎士団だ。普通の盗賊なら分が悪くて逃げ出すのが普通だ。少なくとも俺が盗賊の立場だとしたら狙うのは今ではない。


「舐めるな!! 盗賊ごときに遅れを取る俺じゃないぞ!!」


 ランスロットはそう叫ぶと、盗賊に目にもとまらぬ速さで剣を振るう。


 キレのある動きに最適な体重移動を組み合わせ、確実に盗賊団の三人に攻撃を当てている。攻撃に無駄がなく、この一瞬の攻撃だけで相当の実力があることを理解した。


『くっ……! やるなぁ!』『こいつぁ……お得じゃねぇ!!』『いいねぇいいねぇ!! こいつは楽しめそうだぁ!!』


 しかし、盗賊団の三人は攻撃を受けつつ、後退しながら攻撃を吸収している。


 盗賊団の方も個人個人の実力が明らかに高すぎる。


「なるほど。盗賊に見せかけた刺客か……」


 ランスロットは盗賊団の三人を睨みつける。


 たしかにランスロットの言う通り刺客の可能性が高い。仮に村を襲って教団お抱えの聖騎士団がいると分かったなら、ささっと撤退するべきだ。それなのに逃げ出すどころか聖騎士団と互角に戦っている。


 この敵を刺客と捉えるなら、今の状況も合点がいく。


『だったら、どうなんだ?』『刺客だろうがなんだろうが、お前らが死ぬの確定!』『お前ら死ぬとボーナスが出るからお得ぅ!!』


「舐めるな!! この俺、ランスロットがいる限り、聖女様に指一本触れさせない!! 成敗してくれる!!」


 おそらく標的はアリサだろう。俺とルナはアリサからブラックドラゴンの依頼を受けてすぐに西の山脈に向かった。


 俺やアリサを狙ったのだとしたら計画的な動きではない。


「まぁ、俺の敵であることには変わりないけどな」


 俺の領地の村が攻撃をされているんだ。アリサが標的だっただろうが、そんなことは知ったことではない。


「おい。お前ら――なに俺の領地で好き勝手してくれてんだ?」


 俺は盗賊団の前に出る。


 これ以上、俺の土地で好き勝手なことをさせるつもりはない。


 ただ、殺しはしない。ルナの前でもあるし少しだけ痛い目を合わせて――


『おいおい!! ガキがヒーロー気取りか!!? そんなハッタリ効く訳ねぇだろ』『なんだこのポッチャリ!! 丸焼きにして食っちまおうぜ!!』『ヒィィイイハァァアアー!!脂肪ある分お得祭りぃぃぃいい!!』


「そうか。だとしたら二度とその口を利かせなくしてやるよ」


 前言撤回。めちゃくちゃ痛い思いをさせてやろう。まじでぶっ殺してやる。


 俺は頭の血管をピクピクさせながら、紫色の魔法陣を展開する。


 そんな舐めた態度をとるならば遠慮はしない。めちゃくちゃ煽ってきたツケを今ここで払ってやる。


「痺れな。サンダーボルト30連射」


俺は盗賊団に向けてサンダーボルトを撃った。


ズガガガガガ!! という音と共に、


『『『ぎゃあああああああ!!!!』』』』


 一人残さずサンダーボルトを当てる。30人近くいる盗賊団は例外なく『ビクンビクン!』と地に伏せている。


「サンダーボルトって初級魔法だよな……? それで盗賊団を討伐? そんなのS級魔法使い以外にできるやつがいるのか?」


「おいおい……盗賊団だけを的確に狙ったのか……? あの連射速度で? まったく恐ろしいやつだ」


「そうみたいですね……なんて恐ろしい魔法コントロール。味方で良かったですね」


 アリサは俺が味方で良かったと言っているが、近い将来、勇者側に付くアリサとは敵対することになるのに……。


 勇者と俺の一件を目の前で見ていたはずなのに、不思議なやつだ。


 とはいえ、油断をするつもりは毛頭もないけれど。


「あぁ……! アイク様! 素敵です♡」


 まぁ、なんかルナの株が上がったみたいだから良しとするか。


「アイク様。本当にありがとうございます。とりあえずこの盗賊を尋問して――」


 騒動は一件落着。


 ――そう思っていた矢先に、


『GYAAAAAAAA!!!』


 と唸るような咆哮が遠くから聞こえる。


「た、大変です! ブラックドラゴンが村に近づいてきます!!」


 村の入り口を守っていた村の青年が俺達に向かって叫ぶ。


 新たなる脅威が着実にコメット村に向かってきていた。


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