第20話 俺以外に誰がいるんだ?
「私はコメット村の村長、ライザックと申します。聖女様。そして領主様のご子息様であられるアイク様にご挨拶をさせて頂きます。ですが、大したおもてなしもできず、大変申し訳ございません」
ここはコメット村の村長ライザックの家。その応接間に俺とルナ、村長、そしてアリサとランスロットの5人が席を囲んでいる。
応接間は整理されているものの、やや埃をかぶっている。生きるので精いっぱいであれば清掃の優先順位は下がるのは当然だ。ブラック企業で働いていた俺だから言える。
「ところで本日はどのようなご用件でしょうか? この村の現状を御覧になったと思いますが……」
「構わない。今日来たのはこの付近で暴れているブラックドラゴンを討伐するために来た」
「「「え?」」」
俺の発言にルナを含めて全員が驚いた顔をする。当初は調査だけの依頼。だけどそんな悠長なことは言っていられない。なにせ領民の命がかかっている。
それに俺の株を上げるチャンスでもある。
功績を残せば勇者サイドと本格的に敵対した時に民意があれば優位に働く。少しでも勇者との全面戦争のために最善を尽くす。これも全てルナと幸せな未来を掴むため。
「ご子息様が……でしょうか?」
ライザックは疑問を口に出す。恐らく全員が思っていることだろう。
「俺以外に誰がいるんだ?」
「申し訳ありません。しかし僭越ながら、お止め下さい。アレは人間がどうにかなる存在ではありません」
「そうか。だが……」
ライザックの台詞に俺は冷静に返す。
「それを決めるのはお前ではない。次期領主である俺だ。俺の領地内の村に手を出したんだ。ドラゴンだかなんだか知らないがツケは払って貰うつもりだ。必ずな」
俺が言い終わるとこの空間がシーンと静まってしまった。
ルナ以外、ポカンとした表情で俺を見ている。ひょっとしたら言い方が良くなかったのだろうか。
「少し高圧的な言い方になってしまった。申し訳ない」
「い、いえ……こちらこそ出過ぎたことを……申し訳ございません」
立場を考えたら領主の息子である俺の方が上。ライザックの立場で考えたら、粗相をしたら処罰されるかもしれない相手であり、気を遣わなきゃいけない存在。
そんな相手が怒りを表にしたら萎縮するのが普通だ。気をつけなければ。感情的になって無駄に敵を使っても意味がない。
「しかし、アイク様がここまで領民を思って下さるとは……正直、驚きました。アイク様がだらしない性格であるという噂は嘘であったのですね。このライザック、感動致しました」
「これくらい普通だろう。仮に色々と悪い噂があったとしてもな」
「いえ、普通ではありません。私の娘の嫁ぎ先の村の領主様は圧政を引いているという話を聞きました……近々村を抜け出す予定という話を聞きましたが、抜け出してコメット村に戻ったとしても、この有様では……」
「そうか。だとしたら、なおのこと解決しないとな」
俺は胸ポケットから紙とペンを出して、至急支援の旨を記載する。
公爵家の金庫から使うつもりはない。この後、聖女から貰うお小遣いと臨時ボーナスを使うつもりだから何も文句を言わせるつもりはない。
「聖女様すまない。俺の屋敷に使いを出したいのだが頼めないだろうか?」
「構いませんが……いえ、なんでもありません」
「何か言いたいことがあるならはっきり言った方がいいぞ」
「そうですか。それではお言葉に甘えさせて頂きますが、最初から支援するつもりだったのでしょう? そんなまどろっこしいことをしなくても私達が援助致しますよ?」
「悪いが借りを作りたくない性分なんでね」
「あら。つれないですね」
将来、勇者側に付く聖女と慣れ合うつもりはない。それに貸しなんて作ろうものなら面倒だ。今は領民の危機だから仕方なく手を組んでいるが、この件が終わったら二度と関わるつもりはない。
「やっぱり、私のアイク様はお優しいです」
ルナが俺に微笑んでいる。ま、まぁ? 結果としてルナが抱く俺への株が上がっているみたいだから良いとするか。そうしたら後は元凶のブラックドラゴンを叩くだけ。
ただ油断はしない。少なくとも討伐隊の誰かは俺達に対して良い感情を抱いてはいない人間がいることは確かだから。
ドタドタと慌ただしい足音が近づいてくる。
バンっ!! と扉が開き、
「村長!! 大変です!! 盗賊の大群がこの村にやってきました!!」
村人の男が応接間の扉を開ける。
「なんだと……!」
「アイク様……」
ルナが心配そうに俺を見つめる。
「ふむ……だとしたらもてなしてあげないとな」
まさか俺や教会の討伐隊がいる間に来るとはな。必ず後悔させてやる。
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