第19話 コメット村の現状
「思ったよりも酷い現状だな」
俺達と聖女一行は西の山脈付近にある村に来ていた。村の名前はコメットというらしい。
ここに来る道中。辺り一面はブラックドラゴンが暴れたせいか、地形が大幅に崩れていた。
本来、西の山脈といえば『雄大』やら『壮大』といった景色を楽しめる観光を楽しめる地域であるが、その面影は一つもない。その元凶となったモンスターを俺達は倒さなければないない。俺とルナに敵意を抱いたやつを相手にしながら。
「あ、あのお恵みを頂けないでしょうか?」
コメット村の入り口。俺の近くに短い茶髪の女の子が近寄ってきた。一目で痩せこけていることが見て取れる。栄養失調が原因なのだろう。そのせいで明らかに線が細い。
「少し待ってくれ」
俺は馬車に戻り、少ないながら食料を持ち出す。
あとで俺の分から減らしてもらうつもりだ。文句は言わせない。
今は俺よりもここにいる領民の方が苦しいことは間違いない。
「苦労をかけてすまない。今はこれで飢えをしのいでくれ。すぐに村全体を助けるために使いを寄越すようにするからな」
「あ、ありがとうございます……!」
短い茶髪の女の子は俺に勢いよく下げる。
「アイク様……なんとお優しい……」
ルナはうっとりとした瞳で俺を見つめてきた。
別に優しくなんてない。これはハンバルク家に生まれたものの義務なのだ。
領民を見捨てることなんて、やろうと思えばできるだろう。だけど、それじゃあ原作のアイク・ハンバルクと同じ道を歩んでしまう。
「ところで、村長の家を教えてくれないだろうか? 少し話がしたいんだ」
「わ、私でよければ案内します……!」
「ありがとう。名前を聞いてもいいかな?」
「は、はい……わ、私はユリと言います!」
「ユリか。俺はアイク。そしてこっちが俺の妻のルナだ」
「ユリさん。初めまして、私はルナと申します」
ルナはにっこりとユリに話かけると。
「き、綺麗……」
とユリは自然と口に出していた。
「あ、あら……ユリさんも可愛いらしいですよ」
「ふえっ! ありがとうございます……!」
な、なんだとっ……! ルナが照れているだと!!
そんなラブコメのヒロインみたいな表情……!! ゲーム本編なら間違いなくCGになっていること違いなし。めちゃくちゃレアな表情だけどせっかくなら、俺がその照れた表情を引き出したかった。くっ……! これが嫉妬か!
それになんだかルナとユリの雰囲気も心なしか良いし……。
「くっ……! これからは俺も言うしか……!」
どこかのタイミングを見図って口に出すしかない。ルナに嫌がられたら怖いけれど、その表情を見れるならやる価値はある。
「それではご案内します……!」
「あぁ、よろしく頼む」
ユリを先頭に歩きだす。
ひとまず村長に状況を聞こう。現状を見ただけでもかなり酷いことは理解できるが、実際の地で暮らす人間に状況を聞いた方が必要な支援もしやすい。
俺もユリの後につくために歩きだした時、
「あの、アイク様。よろしいでしょうか?」
ルナが俺に耳打ちをする。
「お、おう。ルナ、どうした?」
「アイク様のことですから、私も先ほど施した食料の分は一人で負担するつもりなのでしょう? せめて私と半々にしてください。楽しいことも辛いことも私はアイク様のお側で分かち合いたいのです」
そう言ってルナは俺に微笑みかける。卑怯だ。そんなの可愛すぎる。
「そ、そうか……あ、ありがとう……」
あぁ、顔が熱くてまともにルナのことを見れない。
そんなの俺の方が照れてしまうわ。
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