第6話 兄が報復にきた。だが俺の敵じゃない


「おい!! 愚弟!! てめぇよくも俺のメイドを追い出したなぁ!!」


 俺とルナは部屋でお茶を楽しんでいる時、金髪オールバックの兄――ライザ・ハンバルクが怒鳴りこんできた。


 俺がアーティファクトを手に入れてから、3日が経過したのが……思ったよりもハンバルク家の屋敷に来るのが早かった。よほど自身のメイドであるユークリッドが屋敷を追い出されて、怒り心頭のようだ。


 だがこの3日間。なにもして来なかったわけではない。もはや十二分に準備が整った。ククク……! これから目にもの見せてやるから楽しみに待っているといい。


「本当は殺してやりてぇくらいだけど、ちょっとお父様のところまで面を貸せ」


「アイク様……」


 ルナが心配そうに俺を見つめる。


「大丈夫。すぐに戻ってくるよ」


「い、いえ。私も一緒に行かせて頂けないでしょうか!?」


「え? ルナも?」


 ルナは俺の目を見てはっきりと言う。


「私、見ているだけはもう嫌なのです。何が力になるかは分かりませんが、だ、ダメでしょうか……?」


「いや、全然大丈夫だよ!」


 もしもなにかあったら俺が守る。少なくとも原作のルナに比べたら良い傾向だと思う。


「おい、早くしろよ」


 ライザは何かを企んだようなニヤケた顔をしている。ルナが同行することを止めない理由もライザが企んでいることに関係あるのだろう。


「分かった」


 だが、ライザが思ったよりも落ち着いていることに驚いた。


 お父様の書斎に向かう途中、ルナは子供のように俺の袖をつかむ。俺は心配させないように手を握った。あぁ、照れたように笑うルナが可愛すぎる。


そうして、俺とライザはお父様の書斎に辿り着く。


「おぉ、我がせがれ達よ! どうしたというのだ!! それにルナ殿も。ここで暮らすに当たって不便はないかね?」


 やけにお父様はご機嫌だった。その様子を見たライザは目をまん丸に開いて驚いた顔をしていた。おそらくルナはこの屋敷の中でいびられているとでも思っていたのだろう。


「お、お父様。どうして、私のメイドを追い出したのでしょうか!? せめて、私に相談をしてくれてもいいではありませんか!?」


 ライザは若干、動揺しながらも話を始める。


「相談……? とはいえ、アイクが出した証拠が何よりだからなぁ。そもそも、ライザよ。お前のメイドが悪事に手を染めていたこと。お前にも問題があったのではないか? ん?」


「ぐっ……! なにかの間違いだったに違いありません! おい、そうだよな?」


「何を仰っているのか分かりせんが、ユークリッドが行ったことは全て真実だったからメイドを解雇されたのではありませんか?」


「な、生意気な!! 兄である俺に向かってなんて口の利き方だ」


「ライザ兄様、お父様の御前ですよ」


「うむ。ライザよ。アイクの言うように少し落ち着いたらどうだ?」


「え?」


 ライザにとって予想外の答えに動揺を隠せないでいる。ククク……自分の手のひらで躍らせる感覚……思ったよりも気持ちがいいじゃないか。


 ひょっとしたら、俺自身にも悪役の才能があったのかもしれない。


「そ、それにどうしてルナ・オルハインなんて呪われた令嬢を我が屋敷内に置いているのでしょうか!? お父様だってルナ・オルハインの呪いの力を汚らわしいと言っておいではありませんか!!」


「アイクが自分で選んだ婚約者だろう? 何か問題があるというのかね? それに私はルナ殿の呪いの力に関しては何もいっていないが? もうこの話は終わりだ」


「なっ――!」


 ライザは驚いたように目を見開く。お父様がこちらサイドだと思っていなかったのだろう。だが俺はルナを幸せにするためなら、抜かりなく準備をさせてもらう。


「なるほどな! お前が俺の弟を――家族を誑かしたんだな!! 呪われた力で!! そうだ!! そうに違いない!! この眼鏡のブスが!! それに噂は聞いているぞ? お前の家族、オルハイン公爵家は娘の存在を消したんだって――ブハッ!! 何しやがる!!」


 俺はポケットのハンカチをライザに投げつけた。悪役らしく手のひらで躍らせてやろうと思ったけれどやめだ。目にもの見せてやる。


「ライザ兄さん。今すぐ決闘しましょう。俺はライザ兄さんを絶対に許すつもりはない」


 正直、ライザがここまで馬鹿だとは思わなかった。


 俺の愛すべき婚約者を侮辱しておいて……こんなにもルナを悲しそうにさせたライザを痛い目に遭わせなきゃ俺の気が済まない。

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