第7話 兄との決闘
「あのクソ女がどんな力を使ったか知らないが目を覚まさせてやるよ」
ハンバルク家の敷地内にある訓練場で決闘することになった。こっちは最初から準備万端だ。おい、やるならこいよ。
「うるせぇ、ぶっ殺してやるよ」
「ぐっ……! その減らず口、すぐに叩けなくさせてやるよ……!」
ライザは俺を睨んで威嚇してくる。悪いがまったく怖くない。
「と、ところでお義父様はお二人の決闘は容認されるのでしょうか……?」
ルナがガノンに問いかける。さりげなくお義父様と呼んでいるのも萌える。なんというか……推しが嫁になったとより実感した。
「いずれハンバルク家の次期当主を決めなければならないからな……それが少し早まっただけだ。それに頭の良いアイクのことだ。何か策があるのだろう」
「そうですか……。私、心配です。もしもアイク様が怪我をすると思うと……」
ルナの心配そうな声が聞こえてくる。えぇ……正直、めちゃくちゃ嬉しい。これが俺のメインヒロイン。あぁ、好きが加速する。
「それでは決闘を始める……何か言いたいことはあるかね?」
ガノンは俺とライザに問いかける。
何か言いたいことか……そうだな。
「お父様。もしも私が勝てば、次期領主の座は私に頂けないでしょうか?」
ライザは完全に俺のことを舐めているからな。だとしたら、あえて無茶の要求をしても通るだろう。
「ライザはそれでいいかね?」
「えぇ、アイクが私に勝つことは万に一つもありえませんから構いませんよ。ただそうですねぇ……アイクがもしも私に負けたら、その
ほらきた! その慢心、利用させてもらおう! 俺とルナの幸せな結婚生活の糧にもらおうじゃないか!!
「構わないよ。俺も負けるつもりは微塵もないから」
こんなところでライザに負けるようじゃ、どのみち原作の主人公に殺されてしまうだろう。だから原作最強のアーティファクトの力を見せてやる。
「アイク様! 私も構いませんよ! 私はアイク様を信じておりますから……それに」
ルナはそうやって激を飛ばしてくれる。最後の方はよく聞き取れなかったけれど、きっと応援してくれているのだろう。よし、さっさと終わらせよう。
「それでは決闘を始める――」
俺はアーティファクト起動させる。俺の目の前には見慣れたフォーチュンラバーの選択画面。
「――始め!!」
「起動。アーティファクト――『龍星の杖』」
決闘の合図と同時にアーティファクトが起動する。アーティファクト『龍星の杖』は色とりどりの魔法陣を展開させる。
「なんだそれは? そんな道具に頼ったと俺より劣っている弟が俺に勝てる訳がないんだよ!! くらえ!! 中級魔法――クリムゾンボール!!」
クリムゾンボールは初級魔法ファイヤーボールを頭サイズくらいに大きくして、弾速は速くした魔法スキル。従来のアイクならば、一撃で瀕死のダメ―ジを負ったかもしれない。だが、
「なっ!!」
「中級魔法程度で俺を倒せると思っているのか?」
その程度の攻撃はアーティファクトで展開したシールドで全て防ぐ。
そして俺は攻撃のために魔法陣を展開させる。そのままライザを対象にロックオンする。
「ちょ、ちょっと待て――」
「ファイヤ」
「――う、うわああああああっ!!!!!」
無様に尻餅を着くライザに向かって、俺は魔法陣を一斉放火する。展開された魔法陣から放たれた様々な魔法はライザの半径30センチ以内の空間を抉りつつも、辺りは砂埃に包まれた。
「い、生きてる……?」
土埃りが晴れると、ライザは唖然とした表情を浮かべていた。
よくみると、ズボンの股の部分が濡れている。こいつ……恐怖でおもらししたのか!
「次は全弾直撃させる。今、ルナに謝罪するなら命だけは助けてやるけど……どうする?」
俺は次弾に備えて再度、魔法陣を展開させる。
「う、うるせぇ!! お前如きがそこまで大量の魔力を使ったんだ。どうせ魔力切れをしているに違げぇねぇ!!」
さすがだ。おもらししてなお、俺に挑もうとする気概。敬意をこめて消し炭にしてやろう。
「そうか――残念だよ」
俺が再度魔法をライザに放とうとするも、
「そこまで!! アイクの勝利だ」
お父様は決闘の勝敗を宣言した。俺の勝ちであるが……。
「お待ちください!! 俺はまだ負けとは思っていません!!」
お父様は場内に入り、俺とライザに近付いてくる。
「いいや。ライザ……お前の負けだ。アイクが使用しているのがアーティファクトだと言っただろう? 力量差を認めなさい」
「うるせぇ!! 俺はそんな姑息な道具を使っても兄である俺の方が上なんだよ!!」
ライザは魔法を俺に向かって不意に放つ。
だが、そんな攻撃は『龍星の杖』の前では届かない。
「どうしてなんだよぉぉぉおおおお!!!!!」
ライザは膝から崩れ落ちて、空に向かって叫ぶ。
「ライザ……お前は北の修道院で頭を冷やしてきたまえ」
「北の修道院!?? なぜでありますか!? 北の修道院はアイネス山脈の麓にある特に戒律が厳しい場所ではありませんか!?」
「そうか。何故だか教えてやろう。貴様はメイドのユークリッドに現を抜かし、横領をしていたことさえ気づかず、あまつさえ淫らな関係になっていたというではないか。アイクから報告を受け、既に裏も取れているのだよ」
「そ、それは……!」
「若い時は誰だって間違いをする。だが貴様はあまりにも愚かだ! 故に、北の修道院で反省してくるがいい! ライザを連れていけ!」
「い、嫌だぁぁああああ!!!」
ライザはお父様の側近の兵士に連れていかれた。最後まで俺に対して殺気を込めた目で睨んでくる。おそらく復讐してくる可能性がある。だがそうするまでに時間がかかるだろう。その間に俺は俺でより強くなるつもりだ。原作知識をフルに使ってやる。
「時にアイクよ」
お父様は俺の方に近付き、
「まさか既にアーティファクトを手に入れていたとは……! 私も初めて見るが……これが前に言っていたアーティファクトかね?」
「いいえ、お父様。なにもアーティファクトは一つとは言っておりません。私は私とルナのためのアーティファクトを手に入れたまでに過ぎません」
「なんと!! つまり他のアーティファクトも秘密裏に回収するつもりということか!?」
「もちろんでございます」
「素晴らしい!! アイクよ!! いつの間にここまで立派になって……! くくく……これで散々我々を見下してきた王家に対して、一矢報いることができるのだな! あぁ、ここまで愉快なことはないぞ! そうだ!! 言い忘れていたが、これからライザに変わりにアイクが次期当主を務めるのだ!」
「はっ! ありがたき幸せ! 次期当主の務め! 果たさせて頂きます!」
さすがは悪役の父。めちゃくちゃ悪い顔をしている。やはり血は争えないのだろう。
「アイク様……信じておりました」
「ルナ……すまない。心配をかけたかな?」
「いいえ、ただの杞憂でしたので」
ルナは眼鏡を整えて、にっこりと笑みを浮かべた。
良かった。これでルナの笑顔を守ることができる。
こうして、俺はハンバルク公爵家での地位を確立することができた。これで第一段階はクリアだ。
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