第4話 ルナの気持ち SIDE.ルナ


 私、ルナ・オルハインは呪われている。


 呪われているといっても誰かに恨みを買って呪われて訳ではない。どうやら呪いの力が宿っているらしい。


 私が呪いの力を持っていると発覚したのは、私が15才の誕生日を迎えた記念すべき日。毎年、私が誕生日の日に決まって教会で祝福を授かっていた。


 だけど、そんな記念すべき日が一転して、私は教会の偉い人に『お前さんは呪われている。いずれ、その力で世界を滅ぼすだろう』なんて言われた。


 それが全ての始まり。


 正直、馬鹿馬鹿しいとは思っていた。けれど周囲の反応は私が思っている以上に冷え切った態度を取られ始めたのは時間の問題だった。


 一応、これでも公爵の令嬢。だから無下に扱われるはずはない。しかもたかが予言なんて不確かなもので私の人生が変わる訳がない。そう思っていた。


 だけど現実は違った。


 あまつさせ暗殺者に命を狙われ始めてから、私の事態の重大さに気づいたのだ。


 一番ショックだったのは私に愛を注いでくれていた両親の態度もそっけなくなったこと。


『ルナ。これからお前は好きに生きなさい。だが、オルハインの屋敷にはおけない。あぁ、そうだ。辺境地に別荘がある。そこで過ごすといい』


 父のそんな言葉が未だに脳裏を掠めている。


 辺境地に行くまでの道のりが過酷なのは公爵家の人間ならば分からないはずがない。


 死んでくれて構わない。むしろ死んでくれ。そう言われている気がした。


 いや、ひょっとしたら暗殺者に命を狙われているのは両親が引き金かもしれない。そんな不安と悲壮感が胸に押し寄せたのは最近の話。


 だから私は自分の身を守るために、どこかの庇護を貰うために助けを求めた。仲の良かった友人。私を可愛がってくれた親戚。あらゆる場所を一人で走りまわった。生きるためには仕方のないことだった。


 結果は全て門前払い。


 きっと両親が圧をかけていたに違いない。


 そして最後に残った先が同じ公爵の位を持つアイク様だった。


 正直、私がアイク様に助けを求めるのは図々しいと思っていた。


 だって幼い頃にアイク様に愛を告げられた時に、


『わ、私がアイク様と!? もう少し考えた方がよろしくて!?』


 なんて言ったしまった。


 照れ隠しだったのだ。


 私の周りに同い年の男の子はアイク様しかいなかった。


 同時に私なんかのそばにアイク様がいていいかなんて分からなかった。


 だから思わず言ってしまった。


 アイク様が走り去った後に、私が言った意味を考えたら『振られた』と思われても仕方がないと思った。


 嫌いだった訳じゃない。むしろ好きだった。好きで好き堪らなかった。


 でも、今となってはただの言い訳。


 その出来事からアイク様の女癖が悪くなったと聞いた。


 きっとアイク様の女癖が悪くなったのは私のせいだ。どうにかして私を忘れたかったのだ。だから私はアイク様に助けを求めてはいけないと思った。


 だけどもう私には行く宛てがなかった。


 仮にアイク様が私に酷いことをしようとも、私は罰として受け入れるつもりだった。


 きっと呪いの力も私がアイク様にした報い。


 そう思っていたのに、


『俺が必ず、ルナのことを守るから』


 そう優しく仰って下さった。幼き頃のアイク様と変わらない笑顔で。


 しかもその後、私が侮辱された時も私のために怒ってくれた。


 正直、私のことよりもアイク様があのメイドに馬鹿にされていた時に殺してやろうかと思ったくらいなのに。私のことを一番に気にかけてくれる。


 そんなアイク様は私が風邪を引いたと勘違いして看病をしてくれた。今は疲れて寝てしまわれたけれど。


「いけませんわ。このまま手を出してしまったら、私自身の抑えが効かなくなってしまいますもの」


 私は過保護なくらいに与えられた2枚の毛布の内の一枚をアイク様にかける。久しぶりに与えられた厚めの毛布は、今まで薄すぎる毛布に慣れていたせいもあって、私には暑いくらいだった。


「あぁ……アイク様への愛が止まりませんわ」


 私は残りの1枚は厚めの毛布を丸めてアイク様代わりに抱きしめる。今はこれで我慢をしよう。


 私達のことを知らない人が見たら、散々抱き合っておいて今更かと思うかもしれない。でもまだ一線は超えていない。


ただこれ以上先に進んでしまったら、きっともっと私は永遠を求めてしまう。だから我慢するのだ。


「もう死んでも離れませんからね――アイク様」


 私は毛布を丸める。


 私は丸めた毛布に顔を埋めて、目の前で寝落ちをしている旦那様≪アイク様≫の胸だと思って眠りにつくのだった。



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